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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(3)ノエルとレイン オリテ国境へ

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仄かな狂気

男は荒れた道の脇に横たわり、痛みに顔を歪めていた。


「う……」


「どうした」

レインハルトはすぐに駆け寄った。


服装からするに、旅をしている商人のようだ。

鞄や荷物は持っていない。


「盗賊団にやられたんです……全部、身ぐるみ剥がされそうになって……」

男はレインハルトに上半身を抱き起こされ、ぐったりと体を預けている。

赤い唇は震えて、荒い息をついている。


ノエルは男の怪我の様子を見た。

べったりと血がついているのは右足のようだ。

血が地面に染みこんでいる。


「助けて頂いてありがとうございます……親切な方ですね。名前は何と? 国に戻ったらお礼をいたします」

「いや、たいしたことでは」


ノエルは男をもう一度見た。

赤い唇。


頭の端に稲妻が走るような、違和感。


男は僅かにおもしろがるような声で言った。

「もしや――レインハルト様ではありませんか」

「なぜ、それを?」


怪我人に水を分けてやろうとしていたレインハルトに向かって、ノエルは大声を出した。

「レイン!」


まずい。

自分も後ろに飛びすさりながら、叫ぶ。

こいつは怪我人なんかじゃない。


「避けろ!」



レインハルトは後ろに下がろうとした。しかし、それよりも速く、男の隠し持っていた短刀が、光りを放ちながらレインハルトに向けて振り下ろされた。

しかし、研ぎ澄まされたレインハルトの反射神経が、凶刃よりも僅かに速かった。

剣を抜き、短刀の一撃をかわしたレインハルトは、即座に反撃の構えを取る。

すんでの所で捕食を躱した、野生の動物のようだった。


「フハハハハハッ、はぁずれぇ~」


男のまとっていた空気が一変する。

血に濡れた足はしっかりと地面を踏みしめていた。


「お前、嘘だったのか」

「ハハハッ、獲物を襲うのにルールがあるかよォ?」


男は舌舐めずりをして、短刀を構えた。

鈍く光る銀色が妖しく光を反射する。


「あーあっ。惜しかったなぁ~……頸動脈まであとちょっとだったのに」


上気した頬で男は残念がった。

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