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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(16)最終章 いざゼガルド この一杯のために生きてる

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お姫さまになりたい者



なんでも、アヴァは親に男の兄弟と同じようにふるまうように育てられたらしい。

アヴァの家族だけではなく、年頃になるまで女児は男児と同じような格好をするのが普通だということだった。

服装も兄弟のおさがりを着るのが当然で、十三歳になるまでは髪も短くしているように言われていた。



「連れ去り事件とかいろいろあるもんなあ……確かに理にかなってはいるか」


様々な民族のひしめく地域で、小さなアヴァの民族が編み出した生活の知恵なのだろう。

ノエルは謝り続けるアヴァを落ち着けて、別にドレスやらスカートやらを強要するつもりはないことを伝えた。


「お姫さんごっこをしたいやつもいれば、そうじゃないやつもいるからな。いいんだよ、好きな格好すりゃあ」


一人前の料理人の肩書きに性別は関係無い。

正直なところ、晩酌亭の串焼きの質が守られること以外に大切なことはそれほど無い。

ノエルはアヴァの頭をガシガシッとなで回した。


「アヴァ、そんなことよりお前には字を教えなきゃいけない」

「字?」

「読んだり書いたり。できるか?」

「読むのはちょっとだけできる」

「よし。この大陸で使っている文字は文末以外ほとんど変わらないからな。一度覚えちまえば楽勝だ。

タルザールの言葉をまずは教えてやる。そうしたらどんなレシピでも読み放題だ! ぐふ、ぐふふ」

「ねえノエル。ノエルって本当に令嬢なの?」

「令嬢っつーより令状のが肌に合ってるが一応そうだな」

「令嬢っておほほほほって笑うんじゃないの?」

「いいんだよ細かいことは」




その時、ノレモルーナ城の広間のドアをバァンッと開けて一人の人物が入ってきた。


「ったくここは城だってのにシケてんなあ。ほとんど人がいねぇじゃねえか。しかもなんで

床に本が落ちてんだ……何かの食べかすも落ちてるし……掃除はどうなってんだ。

ガキの秘密基地じゃないんだぞ」

「お! モルフェ! 着いたか。久しぶりだな」


モルフェは悪態をつきながらも、気安くノエルに近付いた。

そして、ノエルの隣にぴたっとくっついているアヴァを見た。


「なんだ、これ」

「これっていうな! オイラはアヴァだ!」

「お前ノエル、こんな小僧拾ってきてどうするんだ。こういうのは段階を踏め」

「段階って何だよ」

「だからまずは鳥、その次に猫、犬、馬ときて、それでもまだ飼ってみたければ」

「だから人身売買事件にするのやめてくれよ! 違うから!」


不穏な疑惑をかけられるのは御免被りたい。

まだ自分が令嬢の姿だから良かったが、これがノエル:おっさんの姿だったらさらに厄介なことになっていただろう。

児童保護も楽ではない。


ノエルはアヴァに外で遊んでくるように言った。

畑やら獣人やら、見たことも無いものを見るのが楽しいらしい。



モルフェは広間に置かれたがっしりとした木の椅子に座った。

長旅だっただろう。

なにしろ、修道院からレヴィアス西までを単身で向かい、また東に戻ってきたのだ。



「そんでモルフェ、ルーナはどうなった?」

「ああ。効いた」


モルフェは修道院でプルミエが渡してくれた薬を、レヴィアスのルーナの元に運んでいた。




「さすが修道院特製の『浄化薬』だ。だけど、ものすごく苦そうだった……飲み干さないと尻が爆発すると言ったら泣きながら飲んでた」

「ルーナ、可哀相に」

「なあ、本当に爆発するのか?」

「プルミエならやりかねないんだよな……で、呪いは解けたってことか」

「ああ。ルーナの視力は回復した。だが、レヴィアスはすごいぞ。ルーナが国民に愛されすぎてて、段差が一つもない。

女王がつまづきそうなものは可能な限り取っ払うようにしたら、まあ、他の奴らも過ごしやすくなったってことだな」

「バリアフリー大国だな……ルーナすげぇ」


マールも真似しよう、とノエルは思った。



「ところで、途中の宿でヤバイ噂を聞いたぞ」

と、モルフェが声を潜めた。



「ゼガルドが不穏らしい」

「ええ……」

「国外に逃亡するって貴族と途中の宿屋で会った。あのエリックとかいういかれ王子、正気じゃないっぽいぞ。

また戦闘奴隷の数を増やしたらしい。その中には自分に反抗した貴族もいるとか」


モルフェがバンッと机を叩いた。


「胸くそ悪い奴だ」


ノエルは頷くしかない。

当事者には当事者の実感というものがある。

モルフェの怒りは相当なものだった。


「だけど、貴族なんて……戦闘力が高い奴らばかりじゃないだろ」


ノエルは手元の『騎士道物語アナザーエディション ~わたくし魔物ですがうっかり宿場町に出かけた結果、腹黒妖笑騎士様に溺愛されています~』に目を落とした。

見目麗しい令嬢が魔物の角をつけて、不敵な笑みを浮かべた騎士に横抱きをされている絵が描いてある。


「なんか、一筋縄じゃいかない気がするんだよなあ」

「お前危機感あるのかよ。こんなときにそのバカみてぇに長ぇタイトルの小説読むんじゃねぇ」

「いやー、焦ったところで良い考えが浮かぶわけじゃねぇからなあ。俺は俺の脳味噌の限界を知ってるんだよ」

「何賢そうな顔してんだ。その表情やめろ。バカでもバカなりに一生懸命考えろ」

「エリックが何を考えてるのかなんて分かんねえけど……よからぬことを考えてる感じはするんだよな。でも、それが何なのか」


ノエルはペラペラとページをめくる。

騎士がヒロインへ語りかけていた。


「ふーん。すげえ台詞……『僕はあなたの恋の奴隷だ。きっと国民全体がそうだろう』 めちゃくちゃ美人なのかねえ。

この姫さんは。ん?」


ノエルは台詞のページにしおりのような紙が挟まっているのに気が付いた。

ゼガルドの紋章が入っている。

ノエルが触れると、文字が浮かび上がった。


『エリックは姫になりたがっている。急げ』




「なんだこれ?」


ノエルは首を傾げた。

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― 新着の感想 ―
へ~「ルーナ」の目治ったんだ~おめでとう
モルフェおかえりなさい! 常識人のモルフェ、懐かしいです。 そして、ノエルは安定のおっさん令嬢ですね。 ルーナのためのバリアフリーも結構感動しています。そんな素敵な国民の心、その設定が素敵です。 最後…
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