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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(3)ノエルとレイン オリテ国境へ

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隠し事はナシだ

朝方の静かな宿屋の客室で、ノエルとレインハルトは昼食を取っていた。

木製のテーブルには、地元の食材で作られたサンドイッチが置かれていた。

その日の疲れを癒やすための簡素なベッドは、清潔に整えられていた。


「なかなかいけるな、これ! うまいっ」

ノエルは先ほどの騒ぎも忘れて、サンドイッチをぱくついた。

よくスモークされたハムとチーズに、酢漬けのピクルスが合う。

よろしければと一緒に渡された黒スグリのジュースがちょうどよく酸っぱくて、やけに食欲を煽る。

ノエルはサンドイッチに入っていたソースがべったりと口の周りについているが、全く気にしていない。

そのため白と黒スグリの赤黒い汁が、混ざり合って筆舌に尽くしがたい色になっている。


「ここ宿屋じゃなくてレストランでもいいんじゃないのか? んー、幸せ!」

のんきなノエルは帽子もとって、もぐもぐと昼食を咀嚼した。

レインハルトは喉が渇いていたのか黒スグリのジュースを一気にあおった。


「さっきの……あの……ごめんな。俺、なんていうかさ、攻撃魔法まだうまく使えないみたいだ」

ノエルはサンドイッチを食みながら、レインハルトに言った。

思っていたよりも、魔力の出力が大きかった。

あんなに損害を出してしまって申し訳ない。


「や、でもさあ、レインが『フローラ』思いついてくれてラッキーだったよ。思えば俺、ファイア以外に知らなかったんだなぁ……他にも魔法って詠唱があるんだろう? 知ってる? レイン」

「……いいえ。俺には魔力はほとんどありませんから」

「そうなのか」

「はい。オリテでは珍しいことではありませんでした。幼い頃から剣ばかりでしたよ。まあ、それも一番肝心な所で役に立ちませんでしたがね……」


レインハルトの頬は少し赤くなり、話す速度もゆっくりとしたものになっていった。

ノエルはこの機会を逃すまいと、さりげなく会話の流れをレインハルトの隠し事に向けた。


「レイン、率直に訊くが、お前、何か俺に隠してることがあるんじゃないか」

ノエルは慎重に言葉を選びながら、彼の目をじっと見つめた。


レインハルトは、少し目を見開いた後、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ありますよ。秘密」


普段のレインハルトからは想像もつかないような緩んだ表情だ。

そこで初めて、ノエルは異変に気が付いた。

レインの銀色と青色の混ざった熱っぽい瞳が、怪しげに揺らめく。


「お前、ちょっと待て、この黒スグリもしかして! ちょっと貸せッ」


ノエルはレインハルトのグラスに口をつけた。

久しぶりの微かな苦みを舌に感じる。



(こいつの黒スグリは、酒だ)



平常時なら飛び上がるくらい嬉しい感覚だが、目の前の小僧が最優先だ。




おそらくレインハルトはどちらもジュースだと思っていたのだろう。

ノエルの黒スグリは確かにジュースだった。

しかし、レインハルトの方にはアルコールが入っていたのだろう。


(気付かなかった)


レインハルトとノエルとで、グラスが違うのを変だとも思わなかった。

おそらく宿屋の主人は、弟の世話をしてきた青年に気を利かせたつもりだろう。

だがしかし、御年22歳のレインハルトは全くといいほど酒を口にしてこなかったのだ。

酔いがまわったとて、おかしくはない。


「ノエル……様は、いつも正直ですね」

手に入らないのを知りながら、無い物ねだりをする子どものようだった。

ふふ、と笑ったレインハルトが、細く長く息を吐く。目元に朱の入った素顔は、手練れの女にはない純朴さがあった。

ノエルは眉間に皺を寄せた。

これなら、饒舌なのも頷ける。


「とりあえず水だ。水を飲め」「確かに、貴方に言っていないことが一つあります。それは……」


レインハルトの言葉が一瞬途切れたのを見計らって、ノエルは手を出した。

「いや、待て! 待ってくれ。フェアじゃない。いいか、よく聞けよ? 俺も、実はお前に言っていなかったことが一つあるんだ」


ノエルは言った。

そうだ、お互いに秘密をかかえたまま、これから先の道のりを一緒に歩くなんてやりづらい。


「隠し事はナシだ。俺も秘密を言うから、お前もちゃんと話してくれ」

レインハルトは頷いた。どす黒く固まった血のようなスグリジュースに伸ばしかけた手をノエルははたき落とす。諦めて水を飲んだレインハルトは、唇を舐めてから話し出した。







「俺の家族は……オリテの反逆者でした」



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