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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(16)最終章 いざゼガルド この一杯のために生きてる

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さよならと中二と忘れていたこと

レインハルトの監視装置、もとい、例の形見の剣の影響か、大聖堂からはニコラが単身すぐにオリテにやってきた。


プルミエの身を案じて戻ったはいいが、全く平和そのもので拍子抜けしたという。


「いやあ、プルミエ様にバカモーンって怒鳴られちゃいましたよぉ。敵襲も何にも無くって……プルミエ様ってば僕らが出発する前より快適そうで……魔香焚きながら臨時の側仕えのお姉さんのリンパマッサージなんて受けてましたからね……悠々としてましたよ。指輪も勿論無事で……念のためイーリスだけは置いて、僕が来たんですが、もう全部終わっていたんですね。いや、申し訳ありませんでした」


「いやいや……俺らも、こいつらをどうするか困ってたから、有り難いよ」


赤子になってしまった体躯の恵まれた魔剣士二名は、聖ルキナス修道院に引き取られていくことになった。


「どうやら精神が退化しているようですね」

と、大男をおんぶしたニコラが言った。

かついで帰るらしいが、おんぶをしてもらった当の本人は嬉しそうにはしゃいでいる。


「だあ、だ!」

「抱っこ?」

「だ、こー!」

もう一人の闇の末裔のような服装をした青年が抱っこを所望する。


ノエルはぎょっとして止めようかと思った。

「おい、お前、よく見ろ。手は二本しかねぇぞ、それはさすがに無理があるってもんだ」

「いいよ、おいで」

ニコラは躊躇いもなく両手を広げた。


青年は安堵したように小柄なニコラへ飛び込んでいく。


「片手ずつで抱えれば、なんとかなるからね」

前にも後ろにも男たちを抱えたニコラは、視界は見にくいようだが平然としていた。


「獣人の身体能力って……」


下手すれば戦車1台分をゆうに超えるのではないだろうか。


ニコラが苦笑いをした。

「中身はよくて二、三歳でしょう。言葉を話さなかったのが、今喋ってるということですから、成長は一般的な人間よりずっと早いのかもしれません。でも、良かったかもしれませんね。この子たち、ゼガルドの闘技奴隷だったようですから。ほら、よしよし……大丈夫だよぉ」


ノエルは黙って、魔力を込めた。

ニコラの衣服の襟元が伸び、抱っことおんぶをサポートする形状へと変化していく。


「これは……」

「何もできなくてすまん。これは俺からのささやかな餞別だ」

「おっ、手で支えなくても抱えられるんですね。これは便利だなあ。なんだか昔の聖人のエルゴラの衣装に似ていますね」

「よし、じゃあこの魔法を、聖魔法エルゴと名付けよう。頼むぞ、ニコラ」

「ええ。また万民の幸福を願うのが修道院の使命ですから。しっかり連れて帰ります」


ニコラは紛れもなく少年なのだが、聖母にしか見えない。

奴隷として血塗られた歴史をもっていた彼らもまた、慈しまれて新たな人生を踏み出すのかもしれない。



赤髪の魔剣士のランだけは、モルフェの足元に幸せそうにくっついていた。

「ハァ、ハァ……モルフェ様、お願いします! もう一度だけ攻撃してください!」

「勘弁してくれ」

モルフェは弱りきっていた。

「コイツ、便所にも水浴びにもついてくるんだ。俺はもう限界だ。一人になりたい」


「そんな! モルフェ様、冷たい事を仰らないでください。一度踏みつけてくださればとりあえず、宵までは静かにしますから」

「……ノエル、変わってくれ」


そんなことを言われても、赤髪は敵意をもった目をしてこちらを見つめてくるのだ。

ノエルは曖昧に笑った。


これまで能力が効いても斬り捨ててきたモルフェにとって、戸惑わざるをえない展開らしい。

「いつまで続くんだ?」

と、ノエルが興味本位で尋ねると、モルフェは首を振った。


「さあ、これまで俺の魔力込めた攻撃を受けて生きてる奴が居ねぇから知らねえ」


「前世なら厨二病とでも言われそうな台詞だが、そのとおりなんだろうな……」


「ちゅう? お前ヒワイなことをさらっと……」


「いやいや、えっ何今のどこが……ともかく、あれ? なあ、俺は生きてるぞ。昔、モルフェに斬りつけられたよな」


ノエルは首を傾げた。

殺し屋時代のモルフェと本気でやり合い、辛勝したのはまだ記憶に新しい。

というか、忘れられようもない。

正直なところ戦闘能力では、段違いに高いのがモルフェだ。あんなのは計算できないラッキーパンチである。


「そりゃあ、そうだな」

珍しく思案していたモルフェが不思議そうに頷いた。

「まあお前のことだから、何があっても驚きやしないけどよ……一応聞くが、あれから俺に斬られたいと感じることはないのか」


「ありますっ!」

と足元の赤毛が恍惚とした表情で叫んだ。

モルフェは不愉快そうに大剣の柄で赤毛を振り払う。

が、逆効果なようだ。

ぶつかってきた魔コウモリをぞんざいにはたき落とすのと同じ力具合だ。

痛くないのだろうか、とノエルは少しだけ心配になったが、赤毛が幸せそうに涎を垂らしているのを見て考えるのを辞めた。


仕切り直して、モルフェがノエルへ向き直る。

黄色と緑の混ざった独特な色をした瞳に、ノエルの紅髪がうつった。

よくよく思い返してみても、そのような覚えはない。


「あー……無いな……思い返せば、モルフェと戦ってるときはちょっとばかり変な感じもしたけど、お前を看病して忙しくしてたら忘れちまってたなあ」


「じゃあ、こいつも放っておけば正気になるのか?」


「うーん……」


赤髪の魔剣士は涎を垂らしてモルフェの足に蹴られたがっている。

ノエルとモルフェは顔を見合わせた。


「どういうことだ。お前の体質っていうのか? ノエル、あれから何か変わったものとか食べたか?」

「え……いや、別に。俺は昔からメシは食えりゃいいし、酒さえありゃあ」


「それだ」

モルフェの目が輝いた。


「え?」


「テメェは他の誰より酒びたりじゃねえか」



心外である。

ノエルはぷくっと頬を膨らませて抗議をした。


「酒にひたってはいない! 俺だってこの細っちょろい妖精みてぇな体を気遣ってきたんだ! ただ……ちょっと舐めるくらいならしてるが」


「な……お前、隙あらばまた何かエロいことを言うなんて」


「いやこれは何でも無いだろ!? というかどこに反応しているんだモルフェ、お前、遅れてきた中二みたいになってるんじゃねぇのか」


「ち、ちゅ……」


モルフェはなにやら思案し始めている。

ノエルは頭を抱えた。


「ヤメロヤメロ。お前なあ、イーリスのバインバインボディにやられたんじゃねぇのか? それか、レインに無理矢理ほっぺチューさせられたのを覚えてんのか? あいつ、イーリスが来てから何か目覚めちまったのかなあ……でも、まあとりあえず、この足下のこいつはお前の管轄だな」


「ハァァ!? マジかよ、やめてくれ、もう限界だ」



ギャアギャアと叫ぶモルフェは放置して、ノエルは玉座の前に立ちすくんでいるレインハルトの元へと近寄った。


「レイン、大丈夫か」


「ノエル様」

レインハルトが振り向いた。

蒼い瞳は澄んでいるが、野生の魔獣のように感情を失っている。


「もう『様』はいらねぇよ。これからはお前がここの王だ」 

と、ノエルは言い聞かせるように言った。


「俺が、オリテの……」


「ああ。ようやく終わったな。レイン。もう偽名は使わなくて良くなったんだぞ。これからは……レオンハート王だ」




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― 新着の感想 ―
 なんでもそういう風に聞こえてしまうモルフェってなんだかかわいらしいです。  それにしても、ノエルの魔法は便利すぎます。服の襟元が抱っこ紐に変化する魔法なんて、魔法がない現代でも開発しがいがあるのでは…
レインハルト王爆誕か!? 一言おめでとう! レイン「ナニの冗談かな?」
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