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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(15)オリテ編 かぜにはきをつけようぜ

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対決!バルナバス

地獄絵図と化した一階の廊下を後に、ノエルは二階へと続く階段を駆け上がった。

背後からは赤ん坊、否、アカン大人たちの泣き叫ぶ声と、ランの甲高い笑い声が聞こえてくる。


(モルフェ……すまないが、後は頼んだ……)


ノエルは心の中で祈りを捧げながら、謁見室への道を急いだ。


「うん、イレギュラーもあったが……おおむね作戦通り!」


何事も切り替えが大切である。

ノエルは元気よくワンピースをたくしあげて階段を上った。

パンツスタイルでないのには理由がある。

この後、すんなりと通してもらえるわけはない。


二階の廊下は一層静かで、時折、遠くで兵士たちの話し声が聞こえる程度だ。


長い廊下の突き当たりに、重厚な扉が見えてきた。

ここが謁見室に違いない。

扉の前には見張りの兵士が二人立っていたが、ノエルの姿を認めると警戒の色を露わに尋ねてきた。


「おい、止まれ! 何者だ!」


予想通り、兵士の一人が剣を抜き、ノエルに突きつけた。

ノエルは観念して素直に両手を上げた。


「おっ……私はバルナバス様にお呼びいただいた者です」


ノエルはできるだけ落ち着いた声で言った。

うふんっと、とってつけたように笑ってみせると、兵士たちは訝しげな表情を浮かべた。


「このような時に、王に謁見など」

「しかし、よく見ればかなりの美女だぞ?」

「ああ、今日はカーラ様がご不在だからな」

若い兵士が納得したように頷いた。

ノエルはしたり顔で頷いてみせる。よし、このまま、通してくれ……。


「そうか、そういう類いの女性か、なるほど。だが、うむむ、バルナバス様の好みはもう少し違うような? それに今は有事の時だ、悪いが娼館に戻って……」


兵士が言いかけた時、背後から声が聞こえた。


「その子はわたくしの妹分ですわ」


声の主は、レインハルトだった。

金髪の長いかつらをつけたレインは、胸元に売れ残りのグレッドを詰め、あたかもナイスバディなお姉さんに変装していた。ノエルの目線から見ても、かなりの、いや、何十年かに一度の『上玉』である。


(なんか、生物的に♀の俺の立場が無いんだよな……)


一応のところ、ノエルも絶世の美少女と憧れられた存在ではあるのだ。だが、レインハルトの独特な色気には負ける。


「わたくしたち、特別な『謁見』に参ったのですわ。この意味、分かりますわよね?」


兵士たちはレインハルトの姿を認めると、ぽうっとした後、慌てて剣を収めた。


「なっ、なるほど! そ、それでは先へ」

「ありがとうございます。もう、お呼ばれしたのはいいものの、何か賊が侵入したのでしょう? 怖くって」

「ええ、ええ、そうでしょうとも」


でれでれと扉を開けようとする若い兵士を、ひげ面の兵士がとどめた。


「まて、そのドレスの下の長いものは何だ?」


レインハルトの動きが止まった。


「どうも怪しいな。美人過ぎる女が長物を持って『謁見』を?」

髭の兵士がいぶかしんだ。

レインハルトが逡巡する。


ノエルは胸を張ってずいっと進み出た。

今こそ出番だ。


「いいえ、違いますわ。それは剣ではありません」

「何だと」

「お姉様の代わりにお伝えさせてくださいませ」


と、ノエルは言い張った。


「少しお耳を拝借……あの長物の中身は実は……ゴニョゴニョ……」


「なっ! なんと!」

ひげ面の兵士が赤面する。


「ええ、こちらはバルナバス様の最近のご趣味なのですわ。あれを、ゴニョゴニョ……して、ゴニョゴニョ……すると、バルナバス様は大層お喜びになるのですわ。少し特殊な……ええ、そうです。そういう殿方もいらっしゃるのです。権力者というのはお好きですから、こうして……あら、兵士様? 鼻血が」


「わっ、わかった、もう、良い、英雄色を好むと申すからな……いや、それにしても……ハァ……いや、いい。女たちよ、存分にバルナバス様を癒して差し上げるよう、務めに励むが良い」


若手の兵士は敬礼し、ひげ面は鼻血を拭いながら扉を開けてくれた。中はごく短い廊下になっている。

レインハルトは軽く頷き、ノエルに視線を送る。

扉が閉まり、レインハルトは小さな声でノエルに囁いた。

化粧の白粉なのか、ふんわりした花のような香りが鼻をくすぐった。


「助かりました。いったい兵士に何を言ったんです」


「ただのおっさんの下ネタ、いや、うーん、まあ健全な青少年には要らない知識というか、なんというか……」


言葉を濁したが、レインハルトは何かを察したように固まり、嫌な虫でも見たかのような顔をした。ドレスの布の下、腰に結わえた剣をそっと守るように押さえている。精霊がふわりと出てきて、レインハルトの周りを励ますように飛び回った。


ノエルは苦笑した。

「いや、まあ、ラッキーだったが、結果オーライで良かったじゃねえか? お前の女装もバッチリ決まってたし」


レインハルトは小さくため息をついて言った。


「中へ入りましょう。いよいよ、決戦です」

「ああ。しっかりやれよ」


レインハルトは目の中の光の強さだけでノエルに返事をして、静かに扉に手をかけた。

重い扉がゆっくりと開き、謁見室の内部が現れた。


広々とした部屋の中央には、豪華な装飾が施された玉座が置かれていた。

しかし、玉座には誰も座っていない。部屋全体を静寂が支配していた。


「……誰もいない?」


ノエルは呟いた。レインハルトは周囲を見回し、警戒を怠らない。


「いや、気配はある。どこかに隠れているのだろう」


レインハルトが言った瞬間、背後から鋭い気配が迫ってきた。ノエルとレインハルトは同時に振り返った。


そこに立っていたのは、一人の男だった。豪華な衣装を身につけ、顔には冷酷な笑みを浮かべている。

オリテの王、バルナバスに違いなかった。


「ずいぶんと美しい暗殺者じゃな。遠路はるばるご苦労さん」


「お前がバルナバスだな」


「いかにも。お前はレナード王子だな。女装してもわしの目はごまかせんぞ。そして……そちらの娘は、ノエル・ブリザーグといったか」


バルナバスはゆっくりと口を開いた。その声は低く、重々しい。


「まさか、ここまで辿り着くとはな。褒めてやろう」


バルナバスは嘲るように言った。

「どうだ? なかなか可愛い女じゃないか。遊んでやるのも悪くない。今なら殺さずに飼ってやれるぞ」


レインハルトは怒りを露わにした。


「貴様……! よくものうのうと……」


レインハルトは剣を抜き、バルナバスに突きつけた。バルナバスは涼しい顔でそれを見下ろした。


「フン、十年ぶりに仇を討ちに来たか。愚かな」


バルナバスは軽く手を振った。すると、謁見室の奥から数人の兵士が現れ、ノエルとレインハルトを取り囲んだ。


「貴様らに勝ち目はない。大人しく捕らわれろ」


レインハルトが静かにバルナバスを見据えた。

びり、と空気が震える。

レインハルトには確かに王の貫禄が芽生えつつあった。


「お前たち、本当にバルナバスについていいのか。こいつはオリテを駄目にする諸悪の根源だ」


兵士たちはやつれて元気がない。顔もところどころ汚れている。


「でも……家族が……」

ぼそりと言った兵士の声をレインハルトは聞き逃さなかった。


「聞け。俺は王家の者としてここを訪れた。オリテはやはり俺の――故郷だ。このまま見捨てるわけにはいかない。そのためには王を変えるのだ! バルナバスの王権に未来は無い!」


バルナバスは憤怒の表情を浮かべた。


「小僧。黙って聞いていれば好きなことを……そのおごり高ぶった顔、貴様の父親によく似ている! ちょろちょろと逃げ回っていたが、今日こそとっ捕まえてくれる」


ノエルは小声で言った。


「レイン。俺が回復に……今度こそ回復に徹する……」


「今度こそって何ですか?」


「それに、オリテのやつはたとえ俺がバルナバスを倒しても納得しないだろう。ただの鉄砲玉じゃ駄目だ。何にでも役目ってもんがある」


レインハルトは頷いた。


「今日で終わりだ。決着をつける」


真剣な目で剣を持ったレインハルトを、バルナバスは冷たい目で見て笑った。


「ほう? これで正式に謀反というわけか。捕まった末に何をされても文句は言えんな!」


バルナバスが剣を抜いた。

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― 新着の感想 ―
生かした状態で勝利しなくてはならないバルナバスのほうが不利なような気もしますが、こちらの世界は魔法があるから何とも言えません。どんな戦いになるのか興味が尽きません。もう一度必殺くしゃみ魔法は出るのでし…
こんな時ノエルが思った!心の中で応援を!「レイン・レイン・われらのレイン!がんばれ!がんばれ!れいん!!」と・・・
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