対決! 魔剣士三人衆
「おい、分かってるだろうな」
モルフェがくるりと振り向き、ドスをきかせた。
あたかも何かをキメたような目の開き方をしている。よっぽど作戦を台無しにされたのが腹立たしかったようだ。
「俺が回復。モルフェが攻撃」
ノエルはのろのろ言った。
昨夜の作戦会議では何度も確認した。
さすがに覚えている。
爺さん、いや、婆さんと思われているのではないか? とノエルは疑った。
モルフェはふんと鼻息を荒くした。
「そうだ。俺が攻撃する。だからくれぐれも! 作戦通りに行くぞ」
「分かってる分かってる」
「2回も言うんじゃねぇ。分かってなさそうに聞こえる」
モルフェが苛立ちながら、背中の大剣を引き抜いた。
ノエルがモルフェと一緒に、オリテの町外れの焼け跡から拾ってきたものだ。もとはただの錆びついた剣だったが、魔法をかけ続けた結果、切れ味が増すというよりも打撃でぶつぎる大剣になってしまった。
見た目が強そうなので、これも使うことにしたのだ。
ウェーブのかかった黒髪を紐で束ねたモルフェが、真剣な目をして肩越しにノエルを見た。
黄色と緑色の瞳がふと揺らぐ。
「いいか、チャンスは一度だけだぞ……というか本当に大丈夫なんだろうな?」
「さあ」と、ノエルは空とぼけた。
「おい!」
美少女は弧を描いて唇をほころばせた。
気安ささえ感じさせる口調で言う。
「あーのーなあ。柄取りに行くのは、俺らだ。天気予報じゃねぇんだぞ。絶対とかたぶんとか、そういうことじゃねえ。条件整えりゃあ、確実だってわけでもねぇんだ」
ノエルは無意識に胸の中心を抑えていた。
あの時、自分の命の火種を絶やした忌まわしい弾の痛みをまだ覚えている。
生まれ変わったって忘れない。
確かに人間に寿命はあるのだろう。
しかし、天命でも運命でもなく、ただ生の反対に死があるのだ。
殉職した結果に憎しみも恨みも無いが、心を砕いて自分の面倒を見てくれた恩を返せなかったことや、大きなヤマを解決したかったという小さな悔いはあった。
「俺らは、俺らの最善だと思うことをするだけだよ」
ノエルの言葉にモルフェが押し黙って、顎をあげた。
やせぎみの浅黒い頬の上にぴり、と緊張が走っている。
「お? モルフェ、いっちょまえに緊張してんのか」
「……っせぇな」
モルフェの肩が目の高さにある。
ノエルは背伸びをしてそれを軽く叩いた。
「ま、俺もお前もアイツもいるんだ。何とかなるだろ」
「……おう」
「ほら、また来たぞ。とりあえず二階の謁見室を目指して進もう」
モルフェの向こう側から、兵士たちが王城の廊下をバタバタと走ってきた。
よく見ると明らかに走るのが遅い老人も紛れている。全体的に兵士たちは痩せており、服や靴も汚れ、やつれて疲労が見て取れる。
「おいおい……オリテの兵士は人手不足か?」
モルフェが呆れて言った。ノエルは頷く。
「本当にそうなんだろう。兵士っていったって国民だ。国がこんなんじゃあ……」
モルフェが手をかざし、睡眠魔法を放つ。
巨大な光の球はふよふよと廊下に出て行ったかと思うと、兵士たちを直撃した。
「うわあっ!? なんだ!?」
「あ……眠い……だめだ、まだ仕事が……」
「無理だ、最高の羽布団みたいなあったかさだ……俺はもう……」
次々と廊下に崩れ落ちる兵士たちは、幸せそうにすうすうと寝息を立て始めた。このまましばらくは時間が稼げるだろう。
そのとき、モルフェが鼻をすんと鳴らした。
手を出してノエルが進むのを止める。
「待て」
と、言ったモルフェは廊下の先をじっと見据えた。
「どうやらお出ましだぞ」
モルフェの額にじんわりと汗が滲んでいた。
ノエルは目を細めて、暗い廊下の奥をじっと見た。
「あー、いたいた。ここだよ、侵入者」
「野郎と娘ッ子か。俺は女には手ェあげない主義なんだが」
「ボクがやろう……ああ、血を浴びられるなら……いくらでも、ああ、早く、早く」
「もー、こいつキモチワルイ。吸血鬼じゃないの? げ、兵士もごろごろ転がってんじゃん。死んでる?」
先頭の少年が、一番後ろでなすすべもなく転がって眠っていた老兵を蹴り上げた。
「あ! アイツ、何するんだっ」
ノエルは憤慨した。
敵の兵とはいえ、無抵抗な老人を蹴り上げるなんて卑劣過ぎる。
「侵入者はお前らか」
少年が言った。
「手間かけさせないでほしいな。まあいい、すぐ同じところに送ってやる」
モルフェが何か言おうとしたが、ノエルは手をつかんで耐えさせた。
「お前らは誰だ?」
「令嬢は先に名乗るものだよ、ノエルブリザーグ。とはいっても、もう知っているけどね……赤目の小娘はこいつだな。僕はラン」
「コシュだ」
「メィル……」
三人の魔剣士は名乗りを上げて、刀を抜いた。
銀に光る刃がノエルたちに向けられた。




