決戦オリテ城(1)
一方、ノエル・ブリザーグは正攻法で正門から侵入していた。
否、今回に関しては侵入ではなく破壊といったほうが正しい。
「ふっ、ふっ……ふぇーっくし!」
ドッコオォォォォン!!
すさまじい音をたてて、門の片側半分が崩れ落ちる。
パラ、パラと石が舞って、埃を巻き上げながら辺りに散らばっていった。門のあちら側でワァァと声があがる。
ノエルと一緒に侵入ーーではなく、もはや破壊行為に参加する羽目になったモルフェは生暖かい眼差しで己の主人を見やった。
「……よし」
「よしじゃねぇよ!」
思わずモルフェの突っ込みも冴え渡ってしまう。
これは打合せとは違う結果であるのは明確だった。
「おーいおいおいおい。待て。ちょっと待て」
「おーい? お茶か?」
「意味が分からねぇが、とりあえず一発殴らせろ」
「なんでだよ。俺一応お前の主人だし、そもそもレディに手をあげるなんて許されねぇぞ」
「いや目立たず騒がず、とかキリッとした顔で言ってたのお前だろ!? なんで石垣壊して、門まで壊して平然としてんだよ!? バカか?」
ノエルは悪戯が見つかった子どものように、額に皺を寄せた。
人をいらっとさせるとぼけ顔は、一概に言って令嬢のしていい類の表情ではない。
ただし今世紀最大の美少女の顔面は、それさえも愛嬌があるように見せかける。
「いやあの、ちょっと……くしゃみが出て、だな……うん、生理現象にはおっさんは抗えねぇんだよ。なんつーか、人間は年々な、体を制御するバルブが緩んでくんだよ」
「お前十五だろ。俺より年下だろ。つかお嬢だかおっさんだか知らんが、生理現象で作戦台無しにすんのやめろ。昨日話し合った意味が無ぇじゃねぇか」
と、モルフェは正論を言った。
ぐうの音も出ない。
ノエルは仕方がないので、無意味にワンピースの裾をいじった。
門の向こう側から足音がして、巣を壊された蟻のように、ワーッと兵士がなだれ込んでくる。
が、どうにも覇気が無い。
モルフェは無詠唱で『スリープ』の塊を放った。
「うっ!? ふわ、あ、ああぁ」
「ね、眠い……だめだ」
兵士たちは立ち止まり、バタバタと倒れていく。
「おー……蜂の巣の駆除業者みたいだ」
ノエルはパチパチと拍手をした。
「やめろ。俺を虫用スプレーみたいに言うな」
「褒めてるぞ。よくこれだけ狭い範囲に魔法球を打てるなって」
「うるせぇ。つかなんだ魔法球って。あ?お前が考えた? ざけんな。ダセェ名前つけてる暇があったらさっさと中入んぞ」
モルフェは不機嫌に言った。
若者は血の気が多い。
「俺もジジイになったもんだな」
と、令嬢ノエルは独り言ちた。
が、外見と不釣り合いなその発言に突っ込む人間はおらず、木枯らしがピュウっと通り抜けただけだった。
確かに昨日の作戦会議とは、様相が異なってしまったのは認める。
でも、仕方がないのだ。
出てしまうものは出てしまうのだ。
そこに運悪く、魔法を使うタイミングが被ってしまったというだけなのだ。
本来ならちょこっと石垣に穴を開けるだけでよかった。だが、石垣は小石となり、ついでに門も半壊させてしまった。
咳払いしたノエルは、喉の乾燥した違和感に気付いた。
「あれ? ちょっと風邪ひいたかも」
ノエルは小声で呟いた。
今日は大人しくしていよう。
味の宝石箱ならぬ、魔力のびっくり箱のような存在なのは自覚していた。
全力を出したら砂漠に山を出現させるくらいのことはできてしまったのである。
そんな力を王城とはいえこんな狭い場所でぶっ放してしまえば、自分を含めて全員木っ端みじんになりそうだ。
自爆、という言葉が脳裏によぎった。
年がら年中、爆発物処理班のような精神で生きていかなければならない。
ノエルはモルフェの波打った黒髪の背中を追って小走りに進んだ。
城は伝統的な造りで、古さはあるものの頑丈そうだ。だからこそ、兵士たちはこれが壊されるとは思っていなかったのだろう。




