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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(15)オリテ編 かぜにはきをつけようぜ

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救出

いつしか心臓が鼓動を早め、冷や汗が額を伝っていた。そのことに今の今まで気が付かなかった。


「レイン!」


暗闇で開けていた目に光がちらつく。

希望が飛び込んで来た。


「ここです! ノエル様!」


レインハルトは叫んだ。

拘束されている腕と足をよじって逃げようとしたが、それよりも男の方が速かった。


「動くんじゃねえ! 妙な気を起こすな!」

焦ったような男の声がして、まるで馬の手綱でも握るかのように衣服を掴まれる。


「それはこちらの台詞ですよ」

言ったのはイーリスだった。


ボッという音がして、光が点いた。ひび割れたランタンが、粉々になった緑の魔法石と共に床に転がっていた。

入り口で無表情のモルフェが、右手に光の球を持っていた。壊れたランタンを拾い上げてぞんざいに中に突っ込む。

地下室の中は先ほどよりも明るくなったが、雰囲気は冷え込むばかりだった。


男はレインハルトの襟元を掴んでいたが、イーリスが細い剣の切っ先を男の喉元に突きつけていた。躊躇いのない冷静な動きに男は本気を悟った。これは、自分と同じ種類の人間だ……。


「誰に何をしているのか理解しているのですか。早く手を離しなさい」

男はすっと力を抜いた。

レインハルトが床へ崩れ落ちる。


男が絞り出すように言った。

「……王子の仲間か。どうしてこの場所が分かった」

「入店を拒否された場所が一箇所だけありましたからね。宝石屋の主人と『客』たちには眠ってもらっていますよ」


「おい、お前、もう諦めろ」

モルフェが言った。

「そいつは蛇よりしつこいぞ」


「おや、褒め言葉でしょうか」

イーリスがしれっと表情を変えずに言う。

「この男は私がこのまま引き取りましょう。まだ幾つか聞きたいこともあります。ノエルさんたちは王子を」


「おう!」

ノエルとニコラが駆け寄り手早くレインハルトの紐を解いた。


モルフェが男に手をかざした。パチッと弾けるような音がする。パラライズ、麻痺魔法だ。男はカエルの潰れたような声を出して床に伸びた。


「俺は残る。魔法が使えるのがいたほうがいいだろ」


「おや、お気遣いありがとうございます」

イーリスが涼しげに応える。



ノエルは、布でレインハルトの汗を拭った。


「レイン……悪かった。遅くなった」

「いいえ、ノエル様」

「痛かったか。ごめんな」

「ノエル様が謝ることではありません」


ニコラが爪でロープを切ってくれた。

腕と足に血が巡る。レインハルトは動こうとしたがニコラに止められた。


「いけません。急に動くと一気に血が巡って危険なんです。僕が回復魔法をかけながら運びますから、そのまま横になっていてください。ノエルさんは頭の方を持って」


「分かった」


レインハルトの全身を温かい膜のようなものが包んでいく。

力を抜くと今までの緊張感が全て解放されたように、頭がずきずき痛んだ。


「レイン。どこか痛いか」

ノエルは泣きそうな顔をしていた。


「いいえ、どこも痛くありません」

レインハルトは嘘をついたが、ノエルは少し怒ったようにレインハルトの鼻をつまんだ。


「んなわけあるかよ」 

「ノエルさん、そこ階段です、気を付けて」


獣人のニコラは小柄だけれど怪力で、レインハルトなど軽々運べる。それでもノエルに手伝うように言ったのは、自分への配慮なのではないかとレインハルトは思った。


「レインさ、実は俺、みんなより少し先にここに来たんだ。入ろうと思ったんだけどなかなか鍵が開かなくて……この店は狭いから俺が魔法使ったら崩れるかもしれないって……最後はモルフェにやってもらったんだけど、あのさ」

ノエルは言い淀みながら、レインハルトの顔を気まずそうに見た。


「お前、俺のこと好きなの?」


「はい?」

好きか嫌いかでいえば、もちろん前者ではあるが、何だというのか。



「というか、駆け落ちしたいのか?」


「すみません、ノエル様。どういうことですか?」


「お前、あの男にべらべら喋ってたじゃん。ノエル様がいればいい、とか何だとか」


「あっ」


レインハルトは先ほどの情熱的な台詞の数々を思い出した。


「ノエル様、いつから居たんですか?」


「『守りたいものができたんだ』くらいから」


「うっ……その、違うんです。恋にうつつをぬかす間抜けな男の方が油断させられると思って、ですね」



ニコラがふふっと笑った。


「『ノエル様を泣かせるわけにはいかない』でしたっけ? かっこよかったですねえ」


「やめてくれ! 違う! 敵を油断させるためで」


「はいはい。王子、血流悪くなるので、あんまり力まないでくださいねー」




ノエルとニコラに運ばれながら、こちらのほうがある意味拷問らしいのではないだろうか、とレインハルトは思った。

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ああ~やっとレインの救出部隊到着だよ! よかった~の一言
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