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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(15)オリテ編 かぜにはきをつけようぜ

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襲撃

昼間だというのに、カーテンを閉めた部屋は薄暗かった。

青い尾羽亭の宿の一室には、小さな蝋燭の灯りがゆらめくのみ。レインハルトは、その仄かな光の中で、一人で剣を手入れしていた。


「また留守番か」


剣ももう磨かれる場所もなく、ぴかぴかの刀身をレインハルトの掌中に横たえているばかりだ。

敵の目を欺くための女装もしなくていい。

化粧やらコルセットやらから解放されたのは良かったけれど、こうして誰とも喋らずにひっそりと過ごしているだけというのも、ある意味息が詰まりそうになる。


その時、宿屋の部屋の扉の外から焦ったような女の声が聞こえてきた。


「助けて!誰か、助けてください!」


ドンッと、レインハルトのいる部屋の扉が激しく叩かれる。

錠前がガチャンッと金属音を立てた。


「やめて! 誰か、誰か助けてください」

「誰もいねえよ。おいおい、酒場から目を付けてたんだぞ。そんなにつれなくするなって」

「嫌っ」

「あっ! ひっかきやがったなこのアマ。言うことを聞け。さもないと……」


静かになった。

嫌な予感がする。

女の顔は見えないが、その声には切迫感が漂っていた。


「痛い目を見たくなかったら大人しくしな」


男の下卑た笑い声が聞こえ、レインハルトは眉をひそめた。


レインハルトは静かに鍵を開け、ドアを開いた。

怯えた表情の女が、男に腕を掴まれ、宿屋の階段を降りていくところだった。男の手には、ぎらついた冷たい光を放つ短剣が握られていた。


(――脅されている)


レインハルトは反射的に、男を追いかけた。


男は、短剣を女の腰に突きつけ、怯えた女を引きずりながら宿屋の出口へ向かった。薄暗い路地には、人影はない。男がさらに細い路地に入ろうとするのを見て、レインハルトは一瞬立ち止まり、考えを巡らせた。直接飛び込めば女性が危険かもしれない。

だが、躊躇すれば逃げられてしまう。


「おい!」


レインハルトの鋭い声が、静寂を破った。男は足を止め、一瞬振り返った。その目には、焦りと、獲物を奪われることへの怒りが交錯していた。


「んだぁ~? テメェはあ」

「その女性は抵抗しているんじゃないのか? ナイフを放せ」


レインハルトはゆっくりと一歩ずつ近づいた。右手は自然と腰の剣に伸びていたが、まだ抜かなかった。


男は舌打ちし、今度は女の首元に短剣を突きつけた。


「近づくな。こいつを殺すぞ」


女の顔は恐怖で青白く、レインハルトに助けを求めるような目で訴えていた。


レインハルトは冷静さを保ち、周囲を見渡した。男の注意を引きつけつつ、女を救出しなければならない――。


「そんな脅しで怯むと思うのか?」


レインハルトは挑発的に言った。同時に、左手を剣の鞘に伸ばし、握りしめようとした。


男は怒り狂い、女をさらに強く掴んで叫んだ。


「本気だ! 言っただろう!  それ以上近づくな! 剣を抜けばこの女の命はないぞ」


「気に入った女なら正攻法で口説けばいいだろう」


「これが俺の正しい女の奪い方ってやつだよ」


「女性は奪うものではなく、愛でるものだ」


「っく~! お前みたいな顔のやつに言われると腹がたつんだよ! イケメンなんか滅びろ!」


「俺の顔とお前の顔には何の関係もないだろう」


「うるせえ! うるせえうるせえっ! 黙れッ」


その瞬間、レインハルトは懐に入れていた空き瓶を投げつけた。オリテの秘薬の瓶だ。中身は入っていない。一応、あの伯爵家のものだということで、値打ちがあるものかもしれないと、ノエルから預かって持っていたが、人助けのためならやむをえない。


それにしてもオリテでこんなふうに薬瓶を使うだなんて、何か因縁めいたものがあるような気がしてならなかった。


一瞬のことだが、男はバランスを崩し、わずかによろめいた。


「今だ!」


レインハルトは素早く剣を抜くと、男との距離を一気に詰めた。男が体制を立て直す前に、レインハルトの剣が短剣を弾き飛ばす。


「くっ…!」


短剣は地面に転がり、男は慌てて逃げ出そうとした。

レインハルトは女の手を引き背後に隠しながら、男に向けて鋭い蹴りを放った。男は悲鳴を上げて倒れ込んだ。


女は震える手でレインハルトの腕にしがみついた。


「大丈夫ですか」


レインハルトは優しく語りかけた。女はうなずき、涙を流しながら小さな声で答えた。


「助けてくれて、本当にありがとうございます……それなのに、あたし……」

「え? すみません、何とおっしゃいましたか」

「ごめんなさい」


あっという間の出来事だった。

女はワンピースのポケットから、緑色の小瓶を取り出した。そして、栓を抜くと、中身をレインハルトに浴びせかけた。


「っぐ!」


レインハルトは避けようとしたが、男に掴まれていた。

液体が皮膚に触れた部分が熱くなり、意識が遠のいていく。


「オリテの民には過ぎた『魔力』だよなあ? レナード王子」


男の声が遠くで聞こえた。


(しまった……)


瓶の中身には見当がつく。

オリテには魔力を持つものがほとんどいない。

だからこそ剣技で身をたてるのだ。


(魔法の薬、か……)


薬の力を借りて生き延び、逃げおおせて、オリテに帰ってきてから、薬でやられるとは、全く皮肉なものだった。


(ノエル様……)


レインハルトは悔しさに苛まれながら、抗いがたい眠気に逆らえずに意識を失った。


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女も男も犯罪者チームか! 正義感あふれるレインを裏切る悪人どもに死刑を
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