宿屋 レインハルトの気持ち
レインハルトは宿屋で座りながら、ぼうっと過去に思いを馳せていた。心の中では複雑な感情が渦巻いていた。オリテの街の匂いは変わってしまったが、城下の建物の形は変わっていなかった。
レインハルトの胸の中には、一つの疑問が浮かんでくる。
昔からずっと消えない染みのように落ちない。
叔父であるバルナバスは、なぜ父を殺し、自らが王になったのか?
その理由を、レインハルトはずっと知りたかった。
幼少の頃、父母を失ったあの日から、バルナバスに対する憎しみは募るばかりだった。彼の手によって両親は命を奪われ、王位を簒奪された。だが、10年が経ち、歳月が過ぎるにつれ、憎しみは不思議と薄れていった。怒りと悲しみを感じたことすら、遠い記憶のように思える。
けれども、疑問だけは残った。父母を殺されたあの出来事が、いったい何だったのか。バルナバスがなぜ、あんな無慈悲なことをしたのか。
今回は、それを知るために来たのだ。
そして今、目の前に広がるオリテの現実。街の荒れ果てた景色、困窮しきった市民たち、そしてそのすべてがバルナバスの治世のもとで広がっている。レインハルトは少しずつ何かが自分の心の中で変化し始めているのを感じていた。
街を歩いて宿屋に行くうちに、いやでも気が付いた。
民の貧しさを、生活の困窮を、無気力に生きる人々を見た。
かつてはもはや王としての地位と力を捨て去って、自分のいないオリテの平和を祈っていた。
しかし、今、目の前の景色を見て、少し違う感情が湧き上がってきていた。レインハルトの中で、これまで持っていた冷徹な思考が揺らぎ始めていた。
「この国は、何のためにあるのか?」
ふと、レインハルトは呟いた。言葉にすることで、自分でも驚くほどその問いが重く響く。
オリテでこれまで受けてきた教育、王位継承者としての訓練。王としての矜持や、民のための治世の知識。
捨て去ってきた全ての記憶が、バルナバスに警告を鳴らしている。バルナバスがこの国をどう治めているのか、そしてその治世の先に何が待っているのか。
(オリテは俺にはもう関係がない。関係がないはずだ。だが――)
レインハルトはその答えを見つけなければ、前に進むことができないと痛感していた。
「お前、何を考えているんだ?」
ノエルの声が、レインハルトの思考を引き戻した。
「ノエル様」
「ただいま。さっき戻った」
ノエルは苦笑しながら、レインハルトを一瞥した。
「お前、何かすげー怖い顔してたぞ。大丈夫か?」
レインハルトはその言葉に反応しなかった。自分でもわからない変化があることは確かだが、それが何かはまだ掴めていなかった。
「オリテの現状がどうにも気に入らないだけです」
レインハルトは呟くように言った。
心中では、まだ解決されていない疑問が渦巻いていた。
しかし、それを解明するためには、まず自分の立場を確立しなければいけない。
いつまでもこのままではいられないという思いが、レインハルトの中で、破裂する前の種子のように膨らみ始めていた。
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