どうしようもこうしようもなかろうもん
「水です!」
レインハルトは叫んだ。
「水って」
「水で火は消えます」
当たり前のことを言うものだ。
そんなことくらいノエルも考えられる。
だけど無理だ。
「近くに池も湖もないっ」
ノエルは半泣きだ。
「雨です!」
「今日は晴れだ!」
「正気か? 魔力持ちなんだろう!? 降らせろって言ってるんだ!」
燃え広がる山火事の前に、レインハルトの口調も砕けるどころか粉砕されまくって粒子になっている。
「降らせる? あ、水をか……でも、俺」
「なんですか!」
「やったことない」
「言ってる場合ですかっ! やるしかないだろ!」
イケメンに烈火の如く叱られて、ノエルは半泣きから本泣きに移行した。
顔の整ったやつが怒った顔をすると本当に怖い。
(22の若造のくせに、レインめ……そんなに怒らんでもいいじゃないか……くそぅ……)
そうは言っても、レインハルトの言うことは正論でしかない。
できない、とか、やれない、とか、やったことない、とか、そういう言い訳でどうにかなる話じゃない。今は、なんとかするしかないのだ。
早く消さないと、火付けの罪で犯罪者確定だ。
「もうかなり燃えてきました、早く詠唱を!」
レインハルトが叫んだ。
「詠唱……な、習ってない」
ノエルは白状した。
攻撃魔法の授業は高等部にあがって始めて本格的にやったのだ。まだファイアしか知らない。
パチパチと火の粉が舞う。
燃え広がればオリテの側だけでなく、関を越えてゼガルド側にも損害を与えるだろう。
国際問題。
立場が悪くなるのは明らかだ。
ノエルは必死で知恵をしぼった。
「えーっと、ファイア、があるんだから、水……ウォーター? そんな単純なことあるのか?」
「迷ってる暇があるなら、やれ!」
怒号すれすれの叫びを聞いて、ノエルは覚悟を決めた。
イエッサー、若造。
後で覚えてろ。
胸の間にエネルギーを集めるイメージ、それを指先に集約させて、打ち上げる。
なるべく高く、花火のように。
重さのある大きな塊が、自分の腕を通ってポンッと抜け出ていく感覚がした。
「ウォーター!」
消し炭となったマンイーターの上に大きな、大きな水風船のような、透明な液体がふうわりと浮かんだ。
少しずつ大きく膨らんでいく。
ノエルとレインハルトの顔に影をおとすほど大きくなったその塊が、ふるふるっと震えた。
(えっ、これ、もしかして)
破裂音はしなかった。
なぜならそれは風船ではなく、ノエルの魔力を変質させた、水そのものだったから。
つまりは、上空から、巨大な水の塊が落ちてきたのである。
ドガアッ!!
ぷるりとした水が暴力的な音を立てて落ちてくると同時、レインハルトの長い手が伸びてきてノエルの肩を掴んだ。




