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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(15)オリテ編 かぜにはきをつけようぜ

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オリテ奪還

城への帰り道。

祭りの灯りに彩られた路地を歩きながら、レインハルトがぽつりと言った。


「ノエル様。俺は今回やってみて思ったのですが……あれは、やはり対の舞なんですよ」

「おー。ルーナと息ぴったりだったもんな。雄と雌の獅子を表すんだろう」

「はい。元々、俺もそう聞いていたんですが」


レインハルトは煮え切らなかった。

「どうもそれだけじゃないように思うんです」

「っていうと?」


「あまりに……『雌』側が、猛々しかったんです」


「そりゃあルーナがお前の想定以上に馬鹿力だったってことか?」

「いえ、そうなんですが、そうではなく……俺はずっと『雄』が強く『雌』が柔らかな舞なのだと思っていました。


だけど、そうではない、とレインハルトは言った。

雄は何度も地に倒れては逃げ、雌は何度も飛び上がって雄の足下に襲いかかる。


「人間の女性ではあのような動きになりません。俺は宮廷にいたころ、何度かやったことがありますが、まるで別物です。俺はずっと雌が雄の周りをぴょんぴょん跳ねているだけかと思っていましたが……獣人があの振り付けを踊ると、食い殺されるかと思いました」


カマキリの交尾のようだ……とノエルは内心思っていたが、口にはしなかった。

各方面からお叱りを受けそうだ。


「獣人は人間よりもずっと素速く信じられない身のこなしをします。一緒に舞ってみればそれがよく分かったんです」


人間は獣人にはついていけない――。


「剣に見立てた棒を回す振り付けの箇所でこそ、俺の方に少し有利でしたが、他はとても……あれが実践だったらと思うと末恐ろしいです。身体能力では人間はとても敵わない」

「なあ、お前さっきから何が言いたいんだよ」

「つまり……あれは、獅子の雄雌ではなくて、伝統的なオリテの人間と獣人の舞なのではないかと思ったのです」


より自然の驚異に近い者、畏れられる者の獣。

弱者としての人間……。


「あれは、獅子の雌雄ではなく、獅子と人間の共存の舞なのではないかと、」


ノエルは考えこんだ。

いつしかニコラが言っていた。

オリテとレヴィアスは昔は国交があったのだと――。


「そういえばニコラが、オリテとレヴィアスは昔は仲が良かったって言ってたな」

「ええ。完全に国交が断絶してしまったのは、ある事件があってからです」


レインハルトは事件について語り始めた。


「オリテとレヴィアスは小競り合いをしながらも友好的にやってきていました。

それが断絶したきっかけが、オリテの騎士がレヴィアス側の獣人を斬り付けて殺してしまったという事件です」

「前にニコラから聞いたことがあるぞ。お前の父ちゃんの時か」

「それです。俺の父が在位していた時、父も母も友好的でした。それがちょうど、反乱が起こったとき……

十年前、父の弟……俺の、叔父にあたるバルナバスが反乱を起こしたんです……強引に王位を奪ったバルナバスは、

獣人を殺した騎士を咎めなかった。それで、オリテとレヴィアスとの国交は途絶えました」


ノエルは指先でトントンと自分のこめかみを叩きながら、静かに聞いていた。

バルナバスが反乱を起こし、それと同時期にオリテとレヴィアスの間に事件が起こり、国交が途絶えた……。


「まるで見計らったように殺傷事件が起こるなんて、できすぎてやしないか?」

「ええ」


ノエルとレインハルトは顔を見合わせた。


「つまり、バルナバスが仕組んで、オリテとレヴィアスを仲違いさせたってことか?」

ノエルの真剣な声に、レインハルトは頷いた。


「更に言うと、獣人と人間を、です。俺はその後国を出てしまいましたが……」

「おいおい、お前の叔父サン、そうとうな奴みたいだな」

「はい。あれは……悪魔です」


レインはぞっとするような暗い目をした。


「それまではオリテの中にも獣人はいて、自由に行き来していたんです。彼らが今どうしているのか。

バルナバスは……バルナバスは、オリテを人間だけの国にしたいのかもしれません」


「そんな」


「じゅうぶんあり得る話です。バルナバスは生粋の純血主義だ。俺の父母が処刑されたのも、

もとはといえば母の血がよそ者の血だからと難癖をつけられたのがきっかけです。

国から国へ嫁ぐのは当然のことだというのに、あいつはそこをついて……虐げられた人間を味方にした。

暴動のような革命が起こり、俺の父母は罪名の無いような罪で命を落としました。そして、あいつは……

バルナバスは王家の人間と人間の子だという理由で、今もなお在位している」


「お前だって、獣人だって、オリテの国民だろう!? オリテの民衆は何も言わないのか?」


「言えば処刑されますからね」


「そんなの……」


「プルミエ様は、今思えばそれも見越していたのでしょう。不思議な縁だ。そうして逃げて、あなたと出逢って」



レインハルトがいつになく優しげな目をしてこちらを見つめてくる。

大切な宝物を慈しむような――。


ノエルの胸が熱の重りを抱かされたようにジリッと痛んだ。

こいつの家族をもう一人も、バルナバスとやらに奪わせたくない。


「おい、お前は俺の従者だろう」

「はい、ノエル様」

「だったらつべこべ言わずについてこい。目標はお前の故郷だ」


覚悟を決めた令嬢ノエルは、仁王立ちで鼻息も荒くレインハルトの前で宣言した。



「オリテを奪り返すぞ」



こうしてオリテ奪還計画が幕を開けた。

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