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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(15)オリテ編 かぜにはきをつけようぜ

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オリテの王バルナバス


「得体の知れない女がおります」


報告を聞いたオリテのバルナバス国王は、眉をひそめた。


「ロタゾといえばいまいましいあのイライザとかいう機械女がいるだろう。今更何なのだ」

「いいえ。そうではなく……イライザは滅ぼされました」

「何だと?」

「ロタゾは滅ぼされ、属国になったのです」

「あの武力国家がか? どういうことだ」

「まだ十代の……ノエルとかいう少女が、イライザを破ったと」

「少女だと!? くだらん、そんな報告をよこしたのはどいつだ? 連れてこい」


バタバタと駆け足で側近が王の間の扉から出て行った。

大臣は困り顔で汗を拭いた。

苛烈なオリテ王の逆鱗に触れては無事では済まない。

先代の兄王とは異なり、弟王は正反対の性格をしている。

バルナバスは細い三日月のような黒髭を指先でなでつけた。


「して、そのノエルというのは何者なのだ」

「元々はゼガルドの伯爵家の出身のようです」

「ゼガルド! そうか、あの女狐の女王風情が、オリテに反旗をひるがえしにかかったか」


バルナバスはぺろりと唇を舐めた。

かつて、オリテからゼガルドへ嫁いだ姫がいた。

名はターリャ。

オリテの王妃マーニャの姉だった。


ターリャはぜガルドの国王に見初められ、王子を産んだが、

彼は『病』を抱えており、ついぞ陽の元に出されることはなかった。

今もお飾りの王妃として在位しているというが、願ったり叶ったりだ。

きっとあのゼガルドの王妃ターリャが、自分を殺しに来たのだ。

オリテの反乱を起こしたとき、マーニャとその夫、自分の兄を手にかけたのはバルナバスだった。


――受けてやろうではないか。


「己の姉妹を殺されたからといってわしを恨むのはお門違い。のう? わしは王者だ。あの女はエルフか何だか知らんが、所詮女。

孕むだけしか価値のない者が、孕みきれもしなかった! その腹いせにいっぱしにわしに楯突こうとするなぞ、反吐が出るわ! 

ハハハハハハッ」


バルナバスはギラギラと血走った目で天井のシャンデリアを見上げた。

どうやって処刑してやろうか。

そうだ、どうせならば、自分の腹を痛めて産んだ息子に、直々に手に掛けられるというのがいいかもしれない。

王妃として在位しているのは、その引きこもっている出来損ないの第一王子を守るためだけというもっぱらの噂だ……。


しかし、想像にひたっている中、家来の声でバルナバスは意識を引き戻された。


「い、いえ。バルナバス様。恐れながら申し上げます。その少女はゼガルドには、おりません」


バルナバスは笑うのを止めて、目の前の家来の顔を見た。

ギョロリとした目玉が二つ、暗闇の中の蜂のような獰猛さでぐるりと動いた。


「なんだと?」

「その……ゼガルドの伯爵家の出身ではあるのですが、国外追放になっており……た、た、大国レヴィアスを率いる聖女である、と」

「ほう」


家来は恐怖と緊張に喘ぎながら続きを口にした。

黙り込んだところで叱責されるのが目に見えている。


「聖女ノエルは仲間たちとレヴィアスを襲った黒竜を退治し、獣人と人間とでいがみ合っていた両者を和解させ、東西併合を成し遂げた。現在、レヴィアスの

統治をしているのは獣人のルーナという女王ですが、どうやらそれも聖女ノエルの指示だと……聖女は商人の聖地タルザール、エルフの楽園である中立国ラソと

友好関係を結び、同盟国という形でレヴィアスの領土に併合。そして、今回の新興国ロタゾを落とし、大陸で最も広大な領土を獲得しました」


「レヴィアス? あの田舎崩れの巣窟が? ハッ、ハハハハハ、お笑い草だな!」


バルナバスは肩を揺すって笑った。

大柄で筋肉質な肉体がぶるんぶるんと揺れる。

家来はへらりと相好を崩した。


「そして、もう一つの情報ですが……ノエルの仲間には見目麗しい美丈夫がいるとのことです。まるで女のように長い金髪の、エルフのような男が。

密偵の話によれば、かつてのレオナルド王子に生き写しだと」

「何?」


バルナバスのまとう空気が変わった。


「お前、まるで見てきたように言うのだな?」

「い、い、い、いえ! バルナバス様! 滅相もありませぬ! ですが、密偵が」

「その話、オリテの神に誓って、誠か?」

「本当でございます! 本当……」


バルナバスは腰に節くれ立った右手の指をかけ、剣を引き抜いた。

そして、そのまま刃を抜き、目の前の家臣目がけて薙ぎ払った。

血しぶきが飛び、何かが飛んだ。

何が起こったのかも分からない顔をして、家臣は床に膝をついた。


「グッ……!?」


ぼたり、ぼたりと鮮血が垂れる。

腕を切り落とされた家臣はそれでも意識があった。

あの瞬間、腕でとっさに庇わなければ、バルナバスの剣は首をはねていたに違いなかった。


「ふん。ふざけた報告よ。真実かどうかはどうでもよい。わしは今腹が立っておる。おい、そこの者を早く片付けろ! 

オリテの城中には馬鹿しかおらんのか!? 全く気がきかん!」


何人かの家臣が飛び出していき、大けがをした家臣を抱えて連れ去った。

メイドたちがモップを取り出してせっせと床を磨き上げる。

単なる腹いせで家臣の腕を切り落とすくらい、バルナバスにはわけもないことだった。



震え上がりながら、オリテの王宮の謁見の間に引きずり出された密偵は、途切れ途切れに喋った。


「ロタゾを率いているのは、聖女です」

「聖女だと!? 馬鹿らしい!」


バルナバスは席を立ち、玉座の足台を蹴った。

金の装飾が施された足台には獅子の彫刻があるが、バルナバスの乱雑な扱いにより、所々くすんだ銀色になってメッキが剥がれ始めていた。


「そんな者がいてたまるか! あの寄せ集めの新興国に何ができるッ」

「申し訳ありません! しかし、恐れながら……私は見たのです」


密偵はほとんど泣き出していた。


「あの聖女……ノエルという少女が得体の知れない妖術を使い、生物兵器イライザを爆破したのです! その後、奴は何十、何百と人間を植物に変えていきました! 面妖な橙色をした、怪しげな生物へと変化させたのです」


「なんだと? 人間を?」


バルナバスは憤怒の表情で仁王立ちをしていたが、ふっと口角をあげた。


「なるほど……ロタゾの兵器か? それともその似非えせ聖女とやらの妖術か? まあ、よい。

所詮は少女。どうせ誰かに担ぎ上げられたのだろう……見当はついている。おそらく……

男のくせにエルフのような、顔ばかりお綺麗な罪人の息子だろうがな!」


バルナバスは腰に手をかけようとしたが、先ほど使った剣が血に塗れて玉座の傍に放り投げられているのを見て、

気を変えた。代わりにひざまずいている密偵の青年の肩口を思い切り蹴り上げる。


「グウウッ……!」


密偵はうなり声をあげたが、バルナバスはやめるどころか靴の裏をそのまま衣服の布地で拭いた。


「ふん。お前は幸運だな。さっきの奴は右手が吹き飛んだ。しかし、返り血というのはいつになっても好かんものだな。

靴が汚れる」


バルナバスは無表情で言うと、玉座に座った。

全く忌々しい、罪人の、死に損ない――。




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