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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(14)激ヤバ侵略国ロタゾ編

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戦闘開始

ロタゾの軍勢がタルザールの城塞の近くに到着する頃には、夜が深まっていた。城の灯りが遠くに見え、その下には敵軍の小さな影がぼんやりと浮かび上がっていた。


アランは軍の進行を止め、右手を振り上げて短く叫ぶ。


「戦闘の準備を」

短いアランの台詞に、黒と紫の装束の軍勢は一斉に動いた。

それは静かで、だからこそざわりざわりとうごめく気味悪さがあった。


「イライザ、状況を解析してちょうだい」

アランはイライザに命令を下した。

髪と同じ色をしたイライザの桃色の瞳が淡い光を放ち始める。


「解析中です」

と言いながら、イライザは瞬時に状況を分析し始めた。


イライザの中の特別な魔石には、戦闘に関する膨大なデータと記憶が蓄積されている。イライザは既に一般的な人間の知識などはるかに超えていた。


アランの目に焦点を合わせたイライザは淡々と戦況を口にした。


「敵軍はタルザールとレヴィアスの連合軍です。城壁の守りは堅固であり、正面からの攻撃では突破は難しいと推測されます。レヴィアスには獣人の軍があり、彼らが攻撃してくる可能性が高いでしょう。獣人は戦闘能力が高く、人間離れした動きをします。最も効果的な攻撃は、回り込んで奇襲をかける。そして同時に正面から突入する。そうすればタルザールの城主がいる宮殿には容易くたどり着けるでしょう」


「ふうん。そぉ」

アランは馬から下りて、周りに控える副将たちへと指示を飛ばした。


すらすらとイライザが提案する戦術は完璧で合理的だ。

それはいつも冷酷で機械的な決断だ。

間違ったことなどない。


「じゃあ、そうしましょうか」

そう言って、アランは手を振った。


「明日、突入するわ。しっかり準備をして頂戴」

「はっ」

副将は散って各隊に指示を出しに行った。


野営の準備をした軍には一晩休ませ、明日の夕方までに進軍しよう。

そのまま奇襲をする軍と、通常の動きをする者たちに分ける。

相手の戦力はおよそこちらの8分の一だ。

負けることはありえない。


アランの頭上には満点の星が広がっていた。


「砂漠の近いタルザールやレヴィアスでは、こんな空が見えるのね」


アランのいた元々のロタゾは、曇っている日が多く、あまり空も星も見なかった。湿地帯の多い貧しい国だったロタゾは、革命軍によって王族が粛正されて以来、好戦的な主導者を主軸にして国力を拡大してきた。

近隣の国を侵略し、取り込み、餌を飲み込んだ猛獣のように大きくなってきた。


その主導者というのは他でもない、アラン自身だ。

革命軍によって内乱が起こっていた祖国を、アランは巨大な魔石の力によって鎮圧した。

魔道具というのには余りに強大な、『イライザ』の力によって――。


冷え込み始めた空気を吸い込んだアランは、煙るような細い月を眺めながら呟いた。


「ねえ、イライザ。あたしたち間違ってないわよね」

「はい。戦況の分析は完璧です」

「星が綺麗ね」

「空に輝いている星は美しいです」

「そうね……」


アランはイライザの髪を撫でた。

ベラの髪を使って作ったこの絡繰り人形も、魔石の力でここまで育った。

仕上がりは最高だ。


でも、それなら空の星を見て、どうしてこんなに空しくなるのだろう?


アランはふ、と自嘲的な笑みを零した。

「砂漠が近いせいかしら。なんだか空の色が澄んでいて、感傷的になりすぎねえ……」


月が雲に隠れ、光と並んでいた闇の色は灰色になって溶けていった。






「なんだって!?」


ノエルは報告を受けて顔色を変えた。

ちょうど宮殿の端にある物置小屋のような古い馬小屋で、自主隔離的に鍛錬している最中だった。

走ってきたレインハルトが荒い息を吐いた。


「フラガラッハが今朝になって俺に告げたんです。ロタゾの軍勢は平原を突破してもう国境近くまで来ていると」


レインハルトの肩に止まっていた金色の精霊は、頷くようにチカチカと瞬いた。


ノエルはふむうと考えて唸った。

あまりにも進軍のペースが速い。


「全員集まれるな?」

「はい。もうノエル様以外はリーヴィンザールの執務室に集まっています」

「俺以外みんなもういるの!?」


ノエルは走り出した。


(なんだか俺が遅刻したみたいになるんじゃないか……)




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 191話でイライザとなっていましたので、イザベラになっていた箇所は誤字報告しておきましたが間違っていましたら大変申し訳ありません。
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