モルフェの場合2
「で、なんで俺がお前と一緒にピクニックしてるんだよ」
モルフェは不機嫌を隠そうともしないで言った。
ここはタルザールの城下、リーヴィンザールの宮殿に併設された庭園である。
ロタゾとの戦いを控えた身だというのに、どうして男二人でのんきにピクニックをしなければならないのか。
リーヴィンザールは無駄に色気のある蒼い瞳を細めた。
レインハルトとはまた違った角度の美丈夫で、その事実がモルフェの不機嫌の火に油を注いだ。
「いややなあ。これも打倒ロタゾのためやん。モルフェを頼むぞってノエルに言われとんねん」
「だ・か・ら! それはそうとして、なんで花を見ながらサンドイッチなんだ!? オランジュのジュースなんだ!? 特訓はどうなったんだ? まさかこれで終わりなのか!?」
「いややなあ、せっかちな男は嫌われんで。おやつがわりやんか」
「付き合ってられねえ。俺はもう城に戻るぜ」
「ちょっと待ちい。なんでわざわざ庭園に来たと思うとるんや」
「なんでって……」
モルフェは言葉に詰まり、リーヴィンザールを睨みつけた。
リーヴィンザールは微笑みを浮かべたまま、サンドイッチをひとつ手に取る。そして、ゆっくりと口元に運んだ。
「ここはただの庭園やないで、モルフェ。この場所には特別な力が宿っとるんや」
「特別な力だと?」
モルフェは眉をひそめた。
「冗談を言っている場合じゃねぇぞ」
美しい庭園だが、ゼガルドの王宮にあった花壇とたいして変わりない。
ここに何があるというのだろう。
リーヴィンザールはカラカラと笑った。
「いややなあ、冗談でこんなこと言わへんわ」
モルフェは目を細めた。
「信じられねぇが……詳しく聞かせろ」
リーヴィンザールは少し笑って、肩をすくめた。
「信じる信じないは別として、備えは万全にしたいんや。ロタゾとの戦いには、最高の状態で挑みたい。モルフェ、自分もやろ?」
モルフェはしばらく考え込んだ後、ため息をついて座り直した。
「……お前がそこまで言うなら、付き合ってやる」
リーヴィンザールの蒼い瞳が一瞬、真剣な光を帯びた。
すると、庭園の静けさが一変し、緊張感が辺りを包んだ。
リーヴィンザールは、さっきまでの穏やかな雰囲気を捨て去り、鋭い眼差しでモルフェを見つめていた。
「まずは基礎からや。今から教える技は、力だけじゃなく、心の集中も必要やからな」
とリーヴィンザールは言い、ゆっくりと両手を広げた。
リーヴィンザールの両の腕についているブレスレットが光り始める。
モルフェは黙ってその動きを見守った。
リーヴィンザールの手のひらの間に、次第に青白い光が集まり始めた。
その光は庭園の花々のエネルギーを吸い込むように輝きを増し、やがて一つの青い球体となった。
「お前、魔法は使えないと言っていなかったか?」
と、思わずモルフェは訊いた。
リーヴィンザールは首を振った。
「ああ。自分の体内エネルギーを使うことはできん。せやけど、同じようなエネルギーを創り出すことはできる」
モルフェは黙り込んだ。
分かるような分からないような感じだ。
何より説明が難しすぎる。
「このブレスレットについている魔石は『蒼焔球』や。ロタゾに対抗するために必要な力の一つやけど、完全に制御するには相当の集中力がいる。モルフェ、お前にもできるか?」
モルフェは怯むことなく、リーヴィンザールに頷いた。
「知らねぇけど、ま、やってみる」




