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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(14)激ヤバ侵略国ロタゾ編

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レインハルトの場合2

「お前はいったい何なんだ……」


レインハルトは眉を寄せ、久しぶりに困っていた。

これほど困惑したのは、幼い頃のノエルに疲れたから風呂に入りたくないと駄々を捏ねられた時以来だ。

そして今、そのレインハルトが風呂に入ろうとしている。

タルザール領主、リーヴィンザールのための宮殿には至れり尽くせりの設備があり、レインハルトたちは有り難くその歓待を受けていた。


レインハルトの周りを金色の精霊はふわんふわんと嬉しそうに舞い踊っている。

たとえは悪いが、光り輝く大きなハエのようだ。

レインハルトは思案し、形のよい唇に指先をあてた。

ぽわん、と光る球体には表情が無いが、浮かれているようだ。


「お前、俺と一緒に来るのか?」

レインハルトが呟くように言うと、精霊は上下に揺れるように動いた。

まるで頷いているようだ。


「まいったなあ……トイレと風呂くらいは離れてくれないか」


腰につけている荷物を取り去り、汚れた服を脱ぎたいが、得体のしれない物が裸にくっつくのはどうかとも思う。


レインハルトが金色の精霊に対話という名の説得をしていると、背後から足音が聞こえ、扉が開いた。

モルフェだ。

ノエルとの特訓で少し薄汚れた上衣を脱ごうとしたモルフェは、同じく浴場に来ていたレインハルトと精霊を見て目を見開いた。


そして、あくまでも軽い調子で尋ねた。


「なんだそれは。光るハエか?」


モルフェが無遠慮にそう言った瞬間、金色の精霊はピタリと動きを止めた。


「お、おい」

異変を察知したレインハルトが声をかけたが、既に遅かった。

無遠慮な言葉に怒りをあらわにした金色の精霊の輝きは一気に強まり、周囲に圧力を放つかのような気配が漂い始めた。


次の瞬間、精霊は鋭い光の線を引きながら、モルフェに向かって猛然と突進した。まるで膨大な怒りのエネルギーそのものが具現化したかのようだった。


「うおっ……!」


モルフェが驚き、身構えるが、精霊の速度は尋常ではなかった。

金色の光はまるで稲妻のように素早く、モルフェのすぐ目前まで迫った。


「うおっ!? なんだこれ」

無詠唱でバリアをはったモルフェにぶつかるように、精霊は飛びかかり、そしてはじき飛ばされた。


「おい! 脱衣所でなんてもん出してんだ!」


だが、その時、レインハルトが持っていたエルフの弓矢が突然、金色の光を受け止めるかのように動いた。精霊はそのまま矢の金属部分に突き刺さるようにして身を投じた。そして、レインハルトの持っていた矢は、金色の精霊のエネルギーを吸収するように光を放ち、徐々に形を変え始めた。


金色の輝きが矢の全体を覆い、冷たい金属の質感が次第に温かみを帯びていく。レインハルトは驚きながら、金と銀が混じり合い始めた武器を眺めた。

それはまるで生き物のように脈動しているかのように見えた。

矢の表面に複雑な紋章が浮かび上がっていく。

やじりの金属部分が尖って伸びていく。

文を届けるための、何の変哲も無い小さな矢が、ぴかぴかと光る銀色の刀に変形していくのを、レインハルトはその変化を呆然と見つめていた。


矢から刀になった精霊の剣は、意思をもった生き物のように飛び上がってレインハルトの手の中に入った。


「こいつ……何物だ? お前、何をしたんだ?」

モルフェがようやく声を絞り出した。


レインハルトは静かに剣を持ち上げ、感覚を研ぎ澄ました。

懐かしくも新しい、不思議な感覚がわき上がってくる。

刀身からは、今までに感じたことのない強力な力と、精霊自身の怒りの淡い残滓が伝わってきた。レインハルトの中に精霊の力が流れ込んで来るようだった。


「フラガラッハだ……」


レインハルトは、手の中の武器をしっかりと握りしめて言った。


「あ? なんだ?」

と、モルフェは胡乱げに聞き返す。

「風呂とマッパ? 当たり前じゃねぇのか、風呂だぞ」


レインハルトに伝わる精霊の怒りのヴォルテージが高まっていく。

バカにされたと思っているらしい。


「フラガラッハ。それが君の名前なんだな」

と、レインハルトが言うと、精霊は静かに応えた。


(ありがとう。なまえをみつけてくれて。わたしはフラガラッハ。レインハルト、いや、レナード。あなたからはなつかしいにおいがする)


久しぶりに語りかけられる本名に、レインハルトは暫し動きを止めた。

なぜ、知っているのだろう。

いや、大いなる力の前で、そんなことは野暮なのだろう。

レインハルトはその時、瞬間的に自分と精霊と、エルフとの遠い繋がりを悟っていた。それはもはや感覚的なものだった。


「おい、何固まってんだクソ王子! 幻覚でも見てんのか?」

と、モルフェが叫ぶ。

あれはあれで、あの男なりに仲間の心配をしているのだ。

しかし、精霊はレインハルトの脳内に向けて言った。


(レナード。あいつは気に入らないのです)


「奇遇だな。俺も同じ意見だ」


(切り落としていいですか)


「それはやめてくれ。戦力が減る」


(はらがたつのです。わたしにはさいぼうはありませんが、ないはずのさいぼうが、あのおとこにはらをたてている)


「俺と繋がっているということなのだろうか。同意見だ」


(前髪くらいはいいでしょう)


「ああ」


とレインハルトが返事をするや否や、生きた剣はレインハルトの手を飛び出して、モルフェに飛びかかった。

光の速さで無詠唱のバリアの背後に回り、モルフェの黒髪を一房そぎ切りにするように、上からザクリと斬りかかった。


パラッと髪が脱衣所に落ちる。


「あ……?」

と、何が起こったか分からないモルフェを、レインハルトはぼうっと見ていた。斜めの独特な前髪にされたモルフェは次にどんな言葉で憤慨するだろうということを考えながら。

ゲロゲロ月曜日ですが皆様お元気でしょうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 呪われた剣か・・とっとと捕まえて溶鉱炉へポイ!だね
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