レインハルトの場合
魔力での攻撃について、ノエルがモルフェと確認したいことがあると野外へ行ってしまったので、レインハルトはタルザールの城内の訓練場にいた。
訓練場に併設された武器庫へ、レインハルトはティリオンと肩を並べて武器を調べる。
タルザールの訓練場には兵士連中が鍛錬をしていた。
リーヴの側近が案内役という体で、傍に控えている。
当の本人のリーヴィンザールは確認したいことがあるのだと執務室へ行ってしまった。
改めて見せてもらった剣は扱いやすそうな量産品だった。
質は良く、さすがタルザールの物だ。数も十分だ。
しかし、レインハルトの顔は暗かった。
「ロタゾの力はどれほどの物なのか……」
と、レインハルトは呟いた。
きらきら、と美貌のレインハルトの周囲の空気が金色に光る。
劣勢の現状を頭で考えると、敵と戦わなければいけない心が負けそうになる。
死を覚悟するのは、何度経験しても怖い。
ティリオンはそれにも気付いているのだろう。
レインハルトの隣にしゃがみ込んで、無言でいる。
剣を眺めるティリオンの睫毛が、刀身に反射してきらめいた。
「ところで、レインハルト殿に尋ねたいことがある」
「何だ」
「貴殿の周囲を飛んでいるその精霊なのだが」
「……精霊」
「ほら、そこにいるだろう。貴殿の背後にぴったりとくっついている」
レインハルトは首を伸ばして自分の背後を見た。
よく見れば、背中にぺったりと金色の光が張り付いている。
「なんだこれは!」
「精霊だ。光っているだろう」
「この鍛錬場の空気が特殊なのだと……」
「そんなはずはないであろう。どうやら貴殿のことを気に入っているみたいだぞ」
金色の精霊はレインハルトの周囲でふよふよと舞い始めた。
光はまるで寄り添うように、レインハルトの肩や腕に軽く触れては離れていく。その精霊の動きを意識的に無視しようとしたが、精霊は一向に離れる気配を見せない。
「おい、どうしてこうくっついてくるんだ?」
レインハルトは少し苛立ちを隠せず、精霊に向かってぼそりと呟いた。
しかし、精霊はまるでその言葉が嬉しいかのように、さらに彼の周りで光を強める。心なしか温かい熱波を放ってくる。
「やめろ……おい、離れろ」
レインハルトが虫を追い払うようにするが、金色の光は離れることもなく浮遊している。
ティリオンは珍しいものを見るように目を細めた。
「いや、緑や青、赤系統の精霊がほとんどだが、金色の光とは……これは見たことがないぞ」
「これを何とかしてくれ」
「ルルは敵ではないと言っている。どうやら、懐かれてしまったようだな」
ティリオンは微笑を浮かべて、レインハルトの様子を見守っていた。
娘の友達を見るような微笑ましい視線である。
今は限りなくうっとうしい。
ティリオンは断言した。
「その精霊は、貴殿を気に入ったのだろうな」
「冗談じゃない……」
レインハルトは顔をしかめた。
精霊のしつこさに観念したレインハルトはため息をついた。
精霊はその隙を逃さず、さらに近くに寄り添う。
懐に入り込みたがっているかのようにぐいぐいとレインハルトの胸元を押してくる。
「痛い! 痛いんだが! ティリオン」
レインハルトが困ったように眉を下げると、ティリオンは良い笑顔で言った。
「精霊は胸元で抱えると安定する」
「は!? 胸元!?」
「ああ。こう……球体を抱えるようにするんだ」
「わかった、わかった……仕方ないな」
レインハルトはしぶしぶ両腕を拓いた。すると、精霊は喜んだように彼の胸元へとすっと滑り込み、暖かい光を放ちながら彼の懐に収まった。
レインハルトは
「こんなところに入るとは思わなかったが……」
と呟いた。
しかし、もうどうしようもない。
このままだと精霊に頭突きをされて胸に穴が空く。
覚悟を決めるしかない。
ティリオンはその様子を見て、微笑を深めながら静かに言った。
「その金色の精霊が貴殿の力を引き出す助けとなるはずだ。そうだ、名を付けてはどうだ?」
「俺がか?」
「貴殿以外に誰がいるというのだ。名を貰うというのは、精霊にとっては魂の契りだ。貴殿が共にいる限り、力になってくれるだろう」
「名前か……」
金色の光はちかちかと点滅して喜びを表明した。




