適材適所
「んー、じゃあさ。ロタゾがどう出てくるか分かんないけど、とりあえず役割を決めよう」
ノエルは皆を見渡した。
自分で言うのも何だけど、この場にいる人物はそれぞれ相当な曲者揃いだ。
「役割?」
とモルフェが言った。
「敵をぶっ倒す。それだけだろ。何を分ける必要があるんだ」
レインハルトがやれやれと言わんばかりにため息をついた。
「これだからお前は……いっそ哀れにさえ思えてきた」
「どういう意味だ!?」
「言葉通りの意味だが」
「役割も何も敵を攻撃するだけだろう」
「その短絡的な思考回路でお前が死ぬのは勝手だが。今回は一人で戦うんじゃない、獣人やら兵士やらが一緒に来るんだ。最大限に最上の策を考えねばなるまい」
モルフェは押し黙った。
あまり作戦に頭を使うことは好きではないモルフェだが、他の人間の命運を握る立場なのだと理解したらしい。
「まあいいけどよ。どうすんだ、ノエル」
モルフェが緑と黄の混ざったような色の目をノエルへ向けた。
「違うなと思ったら言って欲しいんだけど」
と前置きをして、ノエルは言った。
「リーヴィンザールとレインハルトは結構よく似てる。戦い方もだけど、剣を使える。レインは戦闘力が高いけど、リーヴは頭脳戦が得意だ。相手の状況を見て、俺にもうまく指示を出してくれた」
ノエルは、リーヴィンザールの意志の強そうな群青色の瞳を見た。
「だから、作戦をたてるのはリーヴがいいと思う。レインハルトは、先陣を切って敵中に入る切り込み隊長がいいと思う。ちょうどレヴィアスには、人間離れした動きをする連中がたくさんいるし、そいつらを率いていけるのはレインじゃないかな」
ノエルは今度はティリオンに向き直った。
「ティリオンさんは、さすが軍神と呼ばれているだけあって、戦闘に慣れてる。それに、精霊を使って諜報もできる。魔法も使えるから味方の回復もできる。ティリオンさんが部隊の中心にいてくれたら、皆が安心できると思うんだ。もちろん、ティリオンさんは忙しくなっちゃうだろうけど……」
ティリオンは首を横に振った。
「それは問題ない。没頭できる時間が増えたほうが、今は有り難いのだ」
いろいろと考えてしまうところもあるのだろう。
モルフェが唇を尖らせた。
「おい、ノエル。俺を忘れてないか?」
「忘れてないよ、モルフェ。モルフェは戦闘力が高い。たぶん、この中でもトップクラスだ」
「だったら俺も先陣に入れてくれ」
「いや。モルフェは、最後だ。隊列の一番後ろを任せたい」
「はぁ!? 納得いかねぇ。なんで俺が……」
「ロタゾは侮れない敵だ。きっと何か、向こうだって策を練って戦ってくるだろう。隊列の最後は、人間の背中みたいなものだ。油断してたらそこからやられる」
「だからって、なんで俺が」
「一番危険で、重要な場所だからだよ。背後から、もしも奇襲をかけられても、必ず撃退してほしい。モルフェにしかできないんだ」
モルフェがグッと言葉につまった。
「まあ、ノエルがそう言うなら? うん……やってやれねーこともないかな……」
「ほんとか! さすがだなモルフェ」
モルフェは諦めたのか、大人しく頭を撫でさせてくれた。
血の気の荒いモルフェを説得したノエルを、ティリオンが猛獣使いを見るような目で見ている。
レインハルトが銀色がかった蒼い目をキランッと輝かせた。
「つまり、前衛が俺と獣人騎士団。本隊がノエル様、ティリオン、リーヴィンザール。後衛がモルフェ、ということですね」
「ああ。元西レヴィアスの兵士たちも加わるから、もう少し増えるかもしれないな」
ノエルは皆を見渡して言った。
「どうだろう? 意見が欲しい」
それまで黙っていたティリオンが口を開いた。
「そうだな。悪くないと思うが……何しろ戦力が分からん。我ら側はエルフ全員といえど、800人ほどだ」
ティリオンの彫刻のような相貌に陰が落ちる。
「子どもや魔力が少ない者もいれての数だから、実際の数はもっと減るだろう。ただし、我らには精霊がいる。戦闘力としては、うまくいけば人間の数倍にはなる。レヴィアスはどうなのだ」
ノエルは考えた。
(数えたこと、無かったな……)
無言になったノエルの横へ、レインハルトがすすすっと近づいてきた。
「ルーナの話では、住民の数はもうすぐ50万程だとか」
「何が?」
「ですから、レヴィアスの民の数です」
「ごじゅう?」
「50万です」
「そんなに!?」
エルフの人口はバチカン市国と同じくらいです。
ちなみに50万人は鳥取の人口と同じくらいです。日本で一番人口が少ない県ですね。だからといってどうということはありませんが…




