立場が人を作る
ノエルたちはからくり部屋の机に座っていた。
話し合いの前にと、ティリオンが簡単な応急処置をして、皆の傷ついた腕や足を手当てしてくれた。
勿論ノエルもやろうとしたが、
「お前は座っとれ。城下の街の道の下から、外反母趾を治す光が漏れてきたとか噂になったら困る」
というリーヴィンザールの言葉に、一理あると思い直し、大人しくすることにしたのだった。
(俺だって、魔力の調整ができるようになったら、みんなを癒やせるスーパーヒーローになれるのに……)
と、ノエルはヒールをかけるリーヴィンザールを眺めていた。
全く、魔力がありすぎるというのも、困りものだ。
リーヴィンザールが、落ち着いた様子で座る面々を見渡して言った。
「よし、ほな、さっきの戦いを振り返って、どやろ。この五人をどういうふうに割り振ったらいいか意見があるやつは挙手してくれ」
すぐにレインハルトが手を挙げた。
「個々の役割や戦略がうまく噛み合った点もあれば、改善の余地がある点もあったように思った」
「そうだな。まあ、でも、初めての戦闘にしては誰も怪我はない。それなりに連携もとれてたんじゃないか」
と、ノエルは口を挟んだ。
聖堂でワンマンプレーをしていたモルフェも、何か思うところがあったのだろう。敵の数が多いということもあるのだろうが、今回はそれなりに周囲を見ながら動いていた。
「俺もいいか」
とリーヴィンザールが手を挙げた。
「リーダーを決めた方がいいと思う。ロタゾは強敵や。それぞれがバラバラに動いても、絶対に勝てへん」
ティリオンが頷いた。
「あの者たちは、全てを見通している。予測というよりも予知に近い。我々がどう動くか、何を考えているか、全て筒抜けだったような気持ち悪さがあった」
レインハルトとモルフェ、ノエルも頷く。
全体を指揮する人間は必要だ。
「では、投票といこう」
と、リーヴィンザールが言った。
(ううん……ティリオンとリーヴィンザールは故郷を奪われているから感情が入るかもしれねぇ)
何か重大な決断をするときほど、上に立つ者は冷静でいなくてはいけない。
モルフェは作戦っていうより突進していく天才肌だからリーダーは不向きだろう。
とりあえず突撃して攻撃してやれ、というタイプだ。
そして、本人が天才肌なので、その傍若無人な態度が結果的にマルになってしまう。完全に結果オーライで生きてきた男だ。裏を返すと、強さは折り紙付きであるものの、最もリーダーには不向きである。
(ってなると、こいつしかいねぇな)
ノエルはレインハルトの涼しげな横顔を見た。
頭もきれる、度胸もある、正義感が強い、しかし泥臭くもある、といった三拍子、いや、四拍子揃ったやつなのだ。
レインハルトは常に冷静に物事を俯瞰で見ている。
モルフェと犬猿の仲ではあるが、作戦遂行にそのような私怨を入れるような奴ではない。
「よし、ではそれぞれ、リーダーになるべきだという者へ指を指すぞ」
と、ティリオンが言った。
「いち、に、の、さん!」
ノエルはレインハルトを指し示した。
そして、その他の全員が――
ノエルを指し示していた。
「っえええええぇ!」
と、ノエルは驚いて立ち上がった。
「なんで俺!?」
他の面々は顔を見合わせた。
「なんで、と言われましても、ノエル様がリーダーでいいのでは?」
「そうだぞ。ノエルが一番俺らを見てるじゃねぇか」
「貴殿であれば異論はない」
「せやなあ。ノエルやったら変なことにはならんかなあ」
全体を統率し、戦況に応じた判断を迅速に下す者。
それは時に戦況でさえもひっくり返すことがある。
仲間の強みを最大限に引き出すために、どのように指示を出すべきかを考え、戦いに向けての具体的な作戦を練るのだ。
ノエルは前世で捜査本部に混ざっていたとき、それを痛感していた。
(まあ、あれだな……ガサ入れの時だとか何だとかで、何度かリーダーもやったが……うん、あの経験を活かそう。事務所一個潰すのと、国一個落とすのは何か通じるものがあるかもしんねぇ)
そんな訳はなく、似て非なる物なのだが、ノエルは真剣にそう思っていた。
思い込みの力はときに、本当のパワーを産むことがある。
「ぅおし! じゃあ、リーダーいかせていただきます!」
ノエルの宣言に、男共から一斉に拍手が起こった。




