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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(14)激ヤバ侵略国ロタゾ編

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ネズミ退治4

ノエルは火球を、リーヴィンザールと巨大な魔鼠の間に向かって放った。

リーヴィンザールは身を引いて、通路の奥の様子を見守っている。


「まだまだあ……!」


ノエルは放った火球への意識を手放していなかった。

線のついたままの花火のように、じりじりと魔力を加えていく。


「ファイア・バーンッ!」


ノエルが叫ぶと、特大の火球が爆発した。

周囲一帯を炎の渦に巻き込んだ。


巨大な魔鼠はその中で一瞬にして燃え上がり、断末魔の叫びを上げながら崩れ落ちた。


詠唱も、具体的なイメージを決めるのには役に立つ。


炎が収まった後、地下迷宮には再び静けさが訪れた。

肉が焼けた匂いが鼻をつき、ノエルとリーヴィンザールはその場に立ち尽くした。


「や、やったのか?」

ノエルが慎重に近づきながら言う。


リーヴィンザールは骸を見つめ、頷いた。

「ああ、確かに倒した。見事やったな、ノエル」


ノエルはホッとした表情を浮かべると、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。


「ふぅ……なんとかやり遂げたな。ところでノエル」

「ふう……ん?」

「さっきの、ファイヤ・バーンっていうのは自分で考えたのか」

「あ、ああ……とっさに」

「威力もすごかったけれど発想がいいな。バーンというのは古代語で『燃える』ということだろう。ノエルのセンスには恐れ入る」

「いやあ……」


頭をかきながら、ノエルは言いだせずにいた。


由来は、古代語でも何でもなく、登場する音としての『バーンッ!』という効果音である。


(ジャーンにしなくてよかった……)


リーヴィンザールはノエルの隣に腰を下ろした。

二人はしばらく無言でその場に座っていた。戦いの疲れが一気に押し寄せてくる。


ノエルはゆっくりと立ち上がり、懐からティリオンが渡してくれた回復薬を取り出した。

葉っぱの良い匂いがする。


「これ、使ったほうがいいな。イヤだけど……お互いボロボロだし」


二人は葉を開き、薬を飲んだ。

それぞれの体に力が戻る。

苦い味が口の中に広がったが、それが徐々に癒しの感覚へと変わっていく。


「苦いけど、効くな」

ノエルが微笑みながら言った。

「さすがエルフの薬やな。これで少しは元気が出た」


リーヴィンザールも同意した。


二人は再び進み始めた。地下迷宮の奥深く、さらに暗い通路を慎重に進んでいく。やがて、遠くからかすかな戦闘音が聞こえてきた。


「ティリオンたちだ!」

ノエルが耳を澄ませながら叫んだ。


「急ぐで」

リーヴィンザールが先頭に立ち、二人は戦闘音のする方へと全速力で駆け出した。


戦闘音が大きくなるにつれ、通路はますます狭く、複雑になっていった。

それでも、音を頼りに進むうちに、ついにティリオンたちの姿を発見した。


ティリオン、レインハルト、そしてモルフェは三方から迫る魔鼠の大群と激しく戦っていた。


彼らは力を合わせ、互いに背中を守りながら巧みに戦っていたが、敵の数があまりにも多く、次第に押され始めていた。

「くそ、倒しても倒しても湧いてくる」



「ティリオン!」

ノエルが叫び、援護射撃として魔法を放った。

炎がネズミの群れに飛んでいく。


ドン、と音がして、敵が弾け飛んだ。


突然の助けに、ティリオンたちは驚きながらもすぐに状況を理解した。


「ノエルたちか!」

ティリオンが感謝の声を上げた。


「まだ終わってへん。ここからや」

リーヴィンザールが叫び、二人はすぐに戦闘に加わった。




ノエルの強力な魔法とリーヴィンザールの剣技が加わったことで、戦況は一気に逆転した。


モルフェの強力な一撃が次々と敵を吹き飛ばし、レインハルトは冷静に状況を見極め、戦略的な指示を出し続けた。


ティリオンはその中心で、仲間たちの回復を行いながら敵を打ち倒していく。


「このまま押し切れ!」

レインハルトが指示を飛ばす。


五人の連携は次第に完璧なものとなり、魔鼠の大群はその圧倒的な力の前に次々と倒れていった。


やがて、最後の一匹がティリオンの剣によって倒され、迷宮に再び静寂が訪れた。


「皆、無事か?」

ティリオンが辺りを見回しながら言った。


「ネズミどもよりは元気だ。あー、昔の嫌な記憶が蘇りそうになったが……」


モルフェが言い、レインハルトも軽く頷いた。

以前の聖堂での無限ネズミ捕り体験は、モルフェたちの心には影を落としていたらしい。


ノエルは額の汗を拭いながら、リーヴィンザールに視線を向けた。


「だいたいこれで全部か?」


リーヴィンザールは微笑みながら頷いた。

「ああ、たぶん、これで全部……」


レインハルトが険しい表情で奥の方を見据えた。


「そうだな、ここまで来たら引き返すわけにはいかない」


ティリオンが同意し、弓を持った。

五人は再び整列して前進を開始した。


迷宮の奥に進むにつれ、空気はますます重くなり、異様な雰囲気が漂い始めた。


やがて、彼らは一つの大きな扉の前にたどり着いた。その扉は不気味な模様で覆われ、まるで生き物のように脈打っているかのようだった。


「これは……何か封じられているのか?」

ノエルがつぶやいた。


「おそらく、この扉の向こうに何かがいる。これが最後の戦いだろう」

リーヴィンザールが剣を構えた。


「準備はいいか? 皆」

ティリオンが仲間たちに確認を取る。


「万端だ」

レインハルトが剣を抜いた。


「いつでもいける」

モルフェが力強く答えた。


「よし! 今度こそネズミどもを焼き尽くす! うまいエールのためにも!」

ノエルは自信を持って言った。

脳裏に穀物畑が広がる。

タルザール産の醸造エールのためには、この魔鼠を一掃しなければならない。


ティリオンが最後に頷き、ゆっくりと扉を押し開けた。


扉の向こうに広がっていたのは、巨大な地下空間だった。


中央には、異様に大きな魔法陣が描かれており、その上に一匹の巨大な存在が立っていた。


それはまるで、魔鼠の王とも言えるべき存在であり、その全身から黒いオーラが立ち昇っていた。


「これが……最後の敵か」


ティリオンが低く呟いた。


「全力で行くぞ」

リーヴィンザールが冷静に言い、五人は一斉に構えを取った。


魔鼠の王は彼らの存在に気づくと、ゆっくりとその巨大な身体を動かし、赤い目で彼らを見下ろした。その瞳には、明らかな敵意と怒りが込められていた。


「キイイ!!」

王の貫禄だろうか。

鼠というより、魔物と言ったほうが近い。


それは、明らかな攻撃性をもってノエルたちを睨み、飛びかかってきた。


「行くぞ、皆!」

ティリオンが叫び、五人は一斉に攻撃を開始した。


ノエルは火の魔法を放ち、リーヴィンザールはその隙を突いて斬撃を加える。


モルフェは重い一撃を叩き込み、レインハルトは冷静に敵の動きを観察しながら指示を出した。


ティリオンはその中心で仲間たちのサポートを続ける。


だが、魔鼠の王は簡単には倒れなかった。その巨大な爪と鋭い牙が彼らに襲いかかる。


「今だ、ノエル! 最後の一撃を!」

ティリオンが叫んだ。


ノエルは全力で魔力を集中させた。これまでにないほど強大な炎が手のひらに集まり、それが一つの巨大な火柱となった。


「これで終わりだ! 超新星ファイア!」


ノエルが叫び、その炎を魔鼠の王に向かって放った。


炎は魔鼠の王に直撃し、その全身を包み込んだ。

魔鼠の王は断末魔の叫びを上げながら、その巨体が炎に焼かれ、やがて完全に消滅した。



地下空間に静寂が戻り、炎の残り火がゆっくりと消えていく。

五人はその場に立ち尽くし、しばらく言葉を失った。


「……終わりか?」

ノエルが静かに言った。


「ああ、間違いない。これで全部だ。精霊が告げている」

ティリオンが疲れた表情で答えた。


「よっしゃあぁ!」


これで、タルザールの穀物畑の平和は守られた。



「感謝するわ。これでようやく、脅威は去った」

リーヴィンザールが深い息をつきながら言った。


レインハルトは疲労を滲ませながら言った。

「ノエル様、あの魔法のネーミングは……」

「んっ」


ノエルはぎくりと表情を強張らせた。


「超新星?」

「あっあっあれはノリで言っただけで……! いや、なんかさ、ファイヤっていうより、イメージがまとまるって発見したんだよ」

「いいんですけど、もう少し……その、大声で言うのでしたら、言葉をお選びになってもいいかなと」


モルフェがやってきて、ノエルの肩をポンとたたいた。


「おい、ノエル! やったな! でもあの魔法の詠唱、クソダセェな! お前らしいぜ」


「……ひらたいファイア!」


ノエルの手から手裏剣のように炎の刃が飛んでいき、モルフェの腕をかすった。


「うおおお!?」

驚くモルフェの隣で、レインハルトはため息をついた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔鼠の王を倒せてよかったwww 暑い中の執筆お疲れ様です。
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