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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(14)激ヤバ侵略国ロタゾ編

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ネズミ退治3

ノエルが叫んだ瞬間、すべすべした白い手から、紫色をした巨大な光が生み出された。それはみるみるうちに橙色の炎へと姿を変えて広がっていく。


リーヴィンザールがヒュウと口笛を吹いた。


ゴウッと爆風が巻き起こり、ノエルは目をつむった。頬に熱があたる。でも、ここで踏ん張らなきゃいけない。


炎が地下の空間を一瞬で照らし出した。


「キイイッ!」

魔鼠の真っ黒い瞳が一斉にノエルを向く。


リーヴィンザールが魔道具のブレスレットを掲げた。

何か攻撃があれば、これが自分たちを守ってくれるはずだ。


「来るぞ。魔法が……!」


魔鼠の一群の周りの空間が歪んだように見えた。

毒の霧を出しているのだ。

何匹もの鼠たちが放つ毒の空間は地獄だろう。

後ろにいる魔鼠たちも毒霧を発しようと、尾を立て始めた。

リーヴィンザールは袖口を鼻に当てて言った。


「まずい。ノエル、あれを吸い込んだらいかん。気をつけぇ。毒や。体が痺れてしばらく動けへんくなる。鼠は百以上いそうや、一度ひいて仲間と合流してから……」


「おりゃー!」


リーヴィンザールの声を遮って、ノエルは気合いを入れて声を発した。


ゴオオオッ!


途端に、紫の炎が生き物のようにぬるりと動き天井に這い上がると、上から一気に鼠の一群に襲いかかった。


ギィィィという鳴き声と、肉の焼ける音。


色は青に変わり、高温の火炎の渦が通路を埋め尽くした。

魔鼠たちは一瞬で焼き尽くされていく。

霧を発する時間も与えないまま、『駆除』は完了した。


山を燃やしたときも炎は一面に広がったが、今回は火力が違う。


音はしたものの、肉の匂いが一切しない。一気にとてつもない火力で炭化したらしい。


「すごい威力や……」

とリーヴィンザールが驚嘆した声を上げる。


しかし、あまりに強力すぎたその炎は、通路全体を揺るがし、壁や床、天井にまで広がっていった。

地下の湿った空気が一気に熱を帯び、焼けた石がパチパチと音を立て始める。廊下全体が石窯のようになっている。


「ちょ、ちょっと張り切りすぎたかも!」

ノエルは焦って言った。


「確かにグレッドでも焼けそうな火加減やな」

と、リーヴィンザールが言う。


「水出した方がいい!?」

と、焦ってノエルは尋ねた。


「あかん、洪水は勘弁やわ。万が一ちゃんとできたとしても、こんだけ熱かったら水蒸気が膜になってしもて冷えへんわ。いいやん、目的は達した、あとは合流すればいいやろ」


炎は制御を失い、こちら側にまで広がり続けていた。

おろおろするノエルに、リーヴィンザールは喝を入れる。


「ノエル! はよここから離れるで!」

リーヴィンザールが冷静に指示を出す。

「おっ、おう!」

ノエルは急いで、熱気のこもる廊下を駆け戻った。


二人は全力で走りながら、その場から脱出しようとした。

後ろで聞こえるのは、焼ける石の弾ける音と、消えゆく魔鼠の悲鳴。


「ま、まあ、結果的には魔鼠を一掃できたから……よかった、かな?」

ノエルが息を切らしながら言う。


「せやな……ただ次はもう少し、威力を抑えてやってくれるとええかな。地下全体を崩壊させるところやったから」

リーヴィンザールが苦笑しながら答えた。


ノエルは照れ笑いを浮かべながら、有り難い忠告を心に留めた。

大きな力を扱うには、慎重さが必要だ。


(分かっちゃいるんだけどなあ……)


ちょうど良い適当さというのはなかなかに難しい。




ノエルとリーヴィンザールは火の海と化した通路を駆け抜けた後、やっとのことで安全な場所へとたどり着いた。


振り返ると、燃え上がる炎の向こう側で魔鼠たちが完全に沈黙しているのが見えた。積み重なった屍のようだ。壁に寄りかかり、二人で息を整える。


リーヴィンザールは深い息をつきながらノエルに視線を向けた。


「ノエル、ほんまにすごいんやな。せやけど、その力はいつでも完全に制御できるわけじゃなさそうや。あの炎が味方を巻き込んだら、どうなるか……」


ノエルは悔しげに唇を噛みしめた。

「ああ、わかってる。つい興奮しちゃって……次はもっと冷静にやるよ」


リーヴィンザールは優しく微笑んだ。

「いや、助かったんもほんまや。さっきのを魔道具でやろうと思うと、膨大なエネルギーが必要や。戦場では誰だって熱くなる。それでも、その熱さをうまく利用するのが、真の力や。少しずつ学んでいけばええ」


ノエルは頷き、内心、

(次はもっと慎重にしよう)

と、決意した。


そして二人は、再び進むべき方向を確認した。

北の方角だ。


「ティリオンたちが背後から攻撃を仕掛けてくれているはずや。俺たちはこのまま正面突破を目指して進む」

リーヴィンザールが言った。


「了解。次はもっと計画的に行く」

ノエルは自信を取り戻し、再び前を向いた。



二人はさらに奥へと進んだ。ノエルの強力な魔法が多くの敵を一掃したおかげで、しばらくは敵の気配もなく静かな時間が流れていた。


しかし、その静けさが逆に不気味に感じられる。何かが近づいているような気がして、ノエルは無意識に背筋を伸ばした。


「リーヴ、何か変だ。静かすぎる……」


「確かに、何かが潜んでいるかもしれない。慎重に進まな」

リーヴィンザールは警戒を強め、手にした剣をしっかりと握り直した。


二人は慎重に一歩一歩進みながら、周囲を見渡す。すると、突然前方の暗闇の中で、無数の赤い光が彼らの方を睨みつけているのが見えた。


「また魔鼠か?」

ノエルがつぶやいたが、リーヴィンザールはすぐに否定した。


「いや、これは……ただの魔鼠やない。もっと大きな……いや、強力な何かや」


その瞬間、闇の中から巨大な影が飛び出してきた。


全長は天井に達するほどある。黒い毛皮と赤い目。

まるで悪夢のような化け物が、二人を威圧した。


それは普通の魔鼠の何倍も大きく、さらに知性のある動きをしていた。


「これは……ボスか?」

ノエルが驚きの声を上げる。


「そのようやな」

リーヴィンザールは剣を構え、戦闘態勢に入った。


巨大な魔鼠は低い唸り声を上げながら、二人に向かって猛然と突進してきた。


その動きは驚くほど速く、ノエルとリーヴィンザールはそれぞれ反射的に飛び退いた。


「ノエル、あの一撃で片をつけるつもりでいけ!」

リーヴィンザールが指示を飛ばす。


ノエルは頷き、手に魔力を集中させた。次こそは慎重に、しかし確実に決める必要がある。

だが、その魔力を集中させるための時間は、巨大な魔鼠が与えてくれるわけもない。


「リーヴィンザール、少しの間だけでいい! 俺に時間をくれ!」ノエルが叫ぶ。


「任せえ!」

リーヴィンザールはすぐに魔鼠の注意を引くべく、その前に飛び出した。


リーヴィンザールは剣を振りかざし、巨大な魔鼠の体に斬撃を与え続けた。しかし、その硬い毛皮と筋肉は、一撃で倒せるほどやわではなかった。

だが、リーヴィンザールは決してひるまず、ノエルに十分な時間を稼ぐために攻撃を続けた。


「唸れ、乱打斬り!」

リーヴィンザールは、レインハルトほどではなかったが、優秀な剣の使い手のようだった。

よく見れば、剣からは微弱な電流が放たれており、麻痺の効果が付与されやすいらしい。緑色の小さな魔石が柄に埋め込んであった。


「ライトニング・スラッシュ!」


(くそ、必殺技の名前がいちいちカッコイイな)

と、ノエルは気になったが、文句は言ってられない。


深呼吸をし、集中力を高めた。手のひらに感じる魔力がどんどん大きくなり、まるで体全体が炎に包まれるような感覚が広がっていく。


「今度こそ……絶対に成功させる!」


ノエルの手から、今までとは比較にならないほど巨大な火球が生まれた。その火球は周囲の空気を巻き込みながら、赤く燃え上がる。それはまるで小さな太陽のようであり、地下迷宮の暗闇を照らし出した。


「いけぇぇぇぇ!」


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