ネズミ退治2
「効率でいうなら二手に分かれて進むのが良いだろう」
とレインハルトが提案した。
「一方が正面から進み、もう一方が背後から集団を攻撃する」
「うん。なら、俺とリーヴが正面から進むのがいいんじゃないか」
とノエルが言った。
「俺は魔法が使えるし、リーヴはここに一番詳しいだろ? 俺は細かい出力は苦手だけど……集団にデカイ炎ぶちかますのとかは得意だと思う。ティリオンとレインハルト、それにモルフェが背後から攻撃したら挟み撃ちにできるんじゃないか」
「了解した」
とティリオンが頷いた。
「ノエル殿。これを持っていってくれ。回復薬だ」
ティリオンが肉厚の胸元から、小さな葉っぱを数枚取り出した。
光沢のある緑色の葉には、よく見ると表面に小さく文字が書いてある。
その葉の中に、黒と紫の丸薬が封じ込められていた。
「これは……なんかすげぇ苦そうな色をしてるんだけど……」
「気にするな。私の精霊ルルは聖なる属性の精霊なのだ。こちらの部隊全体の回復ができるだろう」
「もしもし? 聞いてる? 気にするなとかじゃなくて、ティリオン、これ絶対苦いよね?」
「さあ、武運を祈るぞ」
「おーい……」
エルフの薬をしぶしぶ懐に入れたノエルは、リーヴィンザールと正面突破を試みることにした。
地図によると、ここを曲がれば正面へ、真っ直ぐ行けば。
「皆、準備はいいか?」
とノエルが確認した。
「万端です」
レインハルトが答えた。
「腕試しといったところだな」
ティリオンが笑う。
「ネズミ共に思い知らせてやる」
モルフェが意気込んだ。
「出発だ!」
とリーヴィンザールが号令をかけ、五人は地下へと降りて行った。
*
地下は薄暗く、湿気が漂っていた。
三人と別れたノエルはリーヴィンザールと共に慎重に進み、魔鼠の巣へと向かって行った。
途中で魔鼠がちらほら出てきたが、問題にならなかった。
ノエルの魔法でほとんどは一撃だったが、リーヴィンザールの魔道具が秀逸だった。
「いいじゃん。リーヴ、この調子で行こう」
とノエルが言った。
「巣に近づくにつれて、敵の数も増えるはずだよな」
「気を引き締めて進むで」
とリーヴィンザールが応じた。
そしてついに、地下迷宮の奥深くにある魔鼠の巣にたどり着いた。
薄暗い洞窟の中、無数の赤い目が彼らを見つめている。
魔鼠たちの不気味な鳴き声が響き渡り、空気が一層緊迫した。
「来る!」
と、ノエルが叫んだ。
リーヴィンザールが剣を抜いた。
彼は剣を抜き放ち、魔鼠の群れに突撃した。その動きはまるで疾風の如く、彼の剣が光を帯びて振るわれるたびに、魔鼠が次々と倒れていった。
「疾風剣舞!」
リーヴィンザールの剣を振るわれ、ネズミはすぐにバラバラになって地下の地面に落ちた。
(おお、かっこいいぞ……?)
ノエルは密かにリーヴィンザールに憧れた。
いつもの『ファイア!』でもいいけれど、自分にだってこういうのが欲しい。
剣さばき自体はレインハルトで見慣れてはいるが、ノエルが気になったのは命名だった。技に名前があるというのはやはり格好いい。
(そうか、自分で生み出せばいいんだ……)
学院のテキストになかったことを、実践では当然のように試される。
画一的な詠唱以外のやり方があるのだと、ノエルは悟っていた。
閃光のように輝き、無数の斬撃が一瞬で繰り出される。
魔鼠たちはその圧倒的な力に圧倒され、逃げ惑った。
少しずつ歩みを進めながら、ノエルは考えた。
(どんな必殺技だとかっこいいか)
詠唱は自由だ。
学校で習ったことだけではなくて、自分の見つけた知を形にするときだ。
「いた!」
リーヴィンザールが声を小さくして言った。
確かに、暗い通路の奥に、気配を感じる。
「ノエル。あの奥に特大の炎を放ってくれ」
「よーし……」
ノエルははりきった。
否、張り切りすぎた、
「す……スーパーデカイファイア!」




