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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(14)激ヤバ侵略国ロタゾ編

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タルザールの城

ノエルたちは、タルザールの城内に案内された。


商人の天国というのは伊達ではなく、財政の潤った新興国家の象徴として、城は壮大かつ威厳を放つ姿で佇んでいた。


白い大理石で造られた壁が、灼熱の太陽の下で輝いているのが、オリテ産のモラビア硝子の格子窓からよく見える。

城門には精巧な彫刻が施されて、金色の装飾がきらきらと輝いていた。


天井の高い広間には豪華なシャンデリアが吊るされ、床には美しい東方の国の絨毯が敷かれている。

その中でもひときわ豪華な装飾が施された部屋へ、ノエルたちは案内された。

以前、逗留したことがあるから分かる。

ここは謁見の間。

つまり、リーヴィンザールが公務をする場所だ。


壺や珍しい織物の間に、絵画や香辛料、宝石などが並べられている。

まさに栄華を誇る、権力者といった風情である。


彼は剥いたオランジュを片手でかじっていた。

白いだぶついた薄布を巻いている姿は、石油王のような貫禄がある。

ひじかけに肘をついて、気怠げに玉座に腰掛けている。


リーヴィンザールはノエルたちに気付くと、オランジュを皿に置いた。

小間使いがすぐに皿を下げて退出する。

リーヴィンザールは紺碧の瞳を揺らめかせ、感情の見えない冷静な表情でノエルたちを出迎えた。


「案内して参りました」

と、臣下が言うと、リーヴィンザールは仰いでいた大きな扇子を玉座の傍の机に置き、

「ご苦労。下がっていい」

と指示をした。


(別人みてぇだな)


ノエルは感心しながらリーヴィンザールを見た。


こうして見ると、威風堂々としていて、為政者たる器というのが頷ける。

酒屋の気の良い兄ちゃんのようだったリーヴィンザールは夢か幻だったのかもしれない。


以前、世話になったときと違うのは、ラソの国のティリオンがいることだ。

しかし、それを避けては通れない。

レインハルトとモルフェ、そしてジンは俯いて、主であるノエルの言葉を待っている。

ノエルは意を決して口を開いた。



「……お邪魔します」





リーヴィンザールはすげなく言った。




「邪魔すんやったら帰って」






「はーい、お邪魔しましたー……って違う! おいおいおい、つれないこというなよぉ」


「聞いてんで。荷馬車いっぱいのオランジュがすぐに売り切れたとか」


「あ、ああ。まあ、その、人海戦術で……」


「ふうん。で? そこのダンディなおじさまが? 俺らの打診を断ったラソのお偉いさん? 亡命しに来はったんかな?」


冷たい声音はまさに独裁者の冷徹なものだった。

普通ならギクリと背筋を凍り付かせ、平伏するのだろう。


しかし、短いながらも世話になり、共にいたノエルにはリーヴィンザールの本心が理解できていた。

すなわち、


(あー……拗ねてんな……これは……)


ということである。

冷徹な独裁者の顔の裏に、ぼんやりとほっぺを膨らませた幻が見える。


(貿易してくれなかったのに! 今更! ぷん! ってな感じだろうなー……リーヴ、若いっつーか、賢いのに子どもみたいなとこあるもんな……)


ノエルは生暖かい目で成り行きを見守ることにした。


真面目なティリオンは深く息をつき、顔を曇らせた。

「その説は申し訳なかった。あれが、我らの総意だったのだ」

「エルフってのはずいぶん都合がいいんやな?」

「貴殿には無礼を働いたことを詫びるしかない」

「誠意を見せて欲しいなあ」

「というと」

「魔石を渡して欲しい」

「それは」


リーヴィンザールは声に力を入れた。


「エルフたちは知っているのか? ラソにある魔石は人間にとっては宝や。魔力があふれているあんた方にはわからへんやろうけど、魔力のない者にとっては喉から手が出るくらい欲しいんや」


ティリオンが、眉根を寄せた。

「ああ。だが、もうラソはない。滅んだ国がどうこうできる物ではない」


リーヴィンザールが褐色の頬に微笑を浮かべる。

「もし、ロタゾから取り返したら、ラソの魔石はタルザールに卸してくれるか?」


冗談だと思ったティリオンが、諦めた目で笑った。

「はは、もしそんなことができたら、我々には宝の持ち腐れだ。山ごとそなたに献上しよう」


ノエルは見逃さなかった。

リーヴィンザールは不敵に笑っている。

こういう類いの冗談を言うような奴ではない。

言葉にするとすれば、リーヴィンザールは本気なのだ。

そんな予感がした。

それならば、言っておかなければならない。


「あっ、待て! それは俺もちょっと言わせてもらうけど! フミリユ岩塩の部分だけは俺にくれ! 魔石はどうでもいい、ただ岩塩はレヴィアスに!」


ゆずれない物というのは誰にだってあるものだ。

ノエルが必死で言いつのった結果、ティリオンは軽い様子で、

「岩塩でも何でも持って行け」

と約束をしてくれた。


リーヴィンザールがポンと手を打った。


「よし。話は決まったな。タルザールとレヴィアスは、ラソの側につく。そういえばノエルは、その話をしにきたのか?」


「ああ。協定を結ぼうと思ってな。あと、オランジュもったいなかったから」


「オランジュはともかく、正式な不可侵協定を結ぶってことやな。うん、ええよ」


「いいのか!?」


「おん。こっちにもメリットあるしなあ……俺らはここを守りたいだけや。もう、故郷を追われるようなあんな思いはしたくない、させたくない……ロタゾは俺らにとっても宿敵なんや」


リーヴィンザールは真剣な顔をしていたが、ノエルと目が合うとふっと表情を緩めた。


「レヴィアスの武力は脅威やけど、味方についてくれたら百人力。俺らとしては不可侵協定結んで、仲良うしてくれるのは大歓迎やで」


リーヴィンザールは付け加えた。


「まあ、ノエルたちのことやから、東側からの攻撃に備えてラソを奪還しようとしてるんやろ。俺たちは東、最もレヴィアス側に近いもんなぁ」


ノエルはほうとため息を吐いた。見事な洞察力だ。

「察しがよくて助かる。さすがリーヴだな」


リーヴィンザールが片目を瞑っておどけてみせる。

「留学してたときはこれでも成績良かったんやでえ」


「もしかして、首席だった?」


「いや。俺の友達やったゼガルドのやつが首席で、俺は二番目やったわ。さ、今日は宴会やな! こんなときこそパーッとやらな。ほら、ティリオンさんて言うた? 自分、飲める? イケる口? エルフって水以外も飲めるん?」




コミュ力お化けの独裁者は、気まずさなど全く感じさせない人好きのする笑顔で、ティリオンに喋りかけていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] さてさて場が温まってきました、ラソを襲った大バカ者に100倍返しの時が来たで~~~ ちなみに逃げるんだったらこの世から去ることや!
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