レインハルトの覚悟
月曜日に元気出そうキャンペーンで、今日は二回更新しやす。
「父上……」
「そうだ。その手を引いてくれ。言うことをきくんだ」
催眠をかけるようなリーヴの低い声にレインハルトがゆらりと腕を動かす。
「そうだ。いいぞ。そこに跪け」
「レイン! そいつは偽物だ……むぐっ!」
リーヴは片手でノエルの口を塞いだ。
「んー!」
「ごめんなぁ。これ、一人用なんや。ノエルはちょっと待っとってな。順番や」
リーヴは小声で耳打ちすると、崩れるように膝をついたレインハルトの前に堂々と立った。
絶対的な君主のようだ。
周りを従えることを当然に思う人間がいる。
カリスマというやつだ。
善や悪ではなく、当人はそうなるべくして権力者になっているのだ。
リーヴはそのような、権力者たる権力者だった。
ノエルは空気を吸うようにレインハルトを跪かせたリーヴを見ながら、リーヴが並々ならぬ者であることを察した。
(リーヴ、まるで王様みてぇだ。こんなの、街の酒屋の主人っていうか、それよりもまるで、まるで……)
リーヴはレインハルトの金糸の髪を見下ろしながら、何でもないことのように言った。
「ほな、洗いざらい喋ってもらおか。君のお姫様返すんはその後や。まずは名前から……」
絶体絶命だ。
口も塞がれているから詠唱はできない。
(どうする!? 無詠唱で攻撃魔法を発動させるか……? でも、何が起こるか分からない。俺はまだ力を使いこなせてないから、もし、前みたいに暴発でもしたら……)
狭い裏路地。
つい砂漠に意図せず山脈を現出させてしまった、先日のやらかしが思い返される。
ここで膨大な魔力の魔法が暴発したら、密集した小さな建物など全壊するだろう。
(どうする……どうすれば)
だけど、レインハルトを守らなければ。
失った家族の思い出の傷。
そこに塩を塗ることだけは避けなければならない。
無詠唱でのファイアにノエルが踏み切ろうとした、その瞬間だった。
「あ゛……?」
不思議そうにリーヴが呟いた。
何が起こったか分からないといった感じだった。
ブシュッと飛んだ赤黒い液体が、バタバタッと地面に落ちた。
細かい花びらのように縁をギザギザにさせた赤い水滴が、ノエルの足元にも降り掛かった。
ノエルの口を塞いでいたリーヴの腕が離れた。
裏路地の陰の多い地面の砂の上、激しく飛んだ血が石粒を真っ赤に染めあげている。
「言ったぞ、次は斬ると」
レインハルトは膝をついたまま血のついた矢を持っていた。
低い姿勢のままで、レインハルトは目にも止まらない早業で、リーヴの足元を切りつけたのだ。
レインハルトは息も荒げずに言った。
「ノエル様の命令を守るのは骨が折れますね。殺さないように攻撃するなんて」
リーヴが地面に尻をついた。
ノエルは弾かれたように走った。
レインの隣にいけば、ひとまずは距離がとれる。
リーヴが信じられないように、斬りつけられた己の足を見ている。ズボンの布が剥がれ、足の傷口が見えていた。
これが腹ならば、致命傷になったに違いない。
レインハルトは剣のような持ち方でエルフの弓矢を持っていた。矢じりの先からは、細い刃のように青白い炎が吹き出ている。
(炎の……刃?)
「ずいぶん使いにくいですが、威力はありましたね」
と、レインハルトは言った。
今このときも、リーヴの足からは血液が出続けている。ノエルはきゅっと唇を引き結んだ。
敵の怪我など心配してはいけない。
「お前、なんで……幻覚は」
リーヴが、初めて苦しげな顔をした。
「幻覚は鮮明に見えた。だが、ノエル様に危害を加えるなら、実の父でも俺は斬る」
「くそ……この女好きめ」
(それはお前だろ!?)
と、ノエルは思ったが、レインハルトは涼しい顔で言った。
「女が好きなのではない。俺は俺の主に忠誠を誓っているだけだ」




