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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(12)タルザール編 気になるアイツは新興国

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最低の夕飯

ハウスキーパーのウィリーはテキパキと、マルクを客間へ案内していった。


マルクのいなくなった談話室に、モルフェとレインハルトはまだ残るようだ。

食事は終わったというのに、二人とも水入りのグラスを傾けている。


(こいつら、酒に興味無いんだよなあ……)


ノエルは彫像のような美貌のレインハルトと、野性味溢れるモルフェを見ながら、もったいないと感じていた。


(くそ~……俺もあと5年もしたら、堂々と飲んでやるのに……)


いくらこちらの世界では飲酒に年齢制限がないとはいえ、前世でさんざん『飲酒は20歳から!』と啓蒙してきた立場の者としては、15の令嬢の体にアルコールを摂取させるわけにはいかない。


「おまえらって酒飲んだことあるのか?」

と、好奇心からノエルは尋ねた。


レインハルトは、

「ありますよ。というか国境の宿屋に泊まったとき、あなたも一緒にいたでしょう」

とさらりと答えた。

あの時のレインハルトは肌も上気して、無駄に色気が増して、普段語らない己の過去についてすすんで喋っていた。

おそらく、レインハルトは酒を嗜好品というより、自白剤とか媚薬の類いだと認識しているのかもしれない。


モルフェはというと、

「俺も飲んだことはあるが……スラムには病気にならない水なんて無かったからな。一晩か二晩置いた酒なら気分も悪くならねぇから。あ? 年? 忘れたが……十六くらいだったんじゃねぇか。俺がスラムから拉致された時だったから」

「もういいもういい、ごめんな、なんか! 水もう一杯飲むか? もっとフルーツ食べるか?」

「んだよ、いきなりチヤホヤしてきしょくわるぃ……んな珍しいことでもなかったぞ、あそこでは。あとフルーツはもらう」


フルーツの盛り合わせをもりもり食べているモルフェは元気そうで、ノエルはじんわりと涙がこみ上げてきそうになる。


(おっさんになると涙もろくってダメだな……いや、今は十五だけども……)


「そういや、モルフェは今何歳なんだ?」

「あ? 知らねぇ」

「え、どういうことだよ」

「地下だと時間の経過が良く分からねぇから……たぶん21?か20か、それくらいじゃねぇのか。変化薬から戻って、猫から人間に変わったときに、もう腕の入れ墨も消えちまったから分からねぇな」

「年を刻んでたのか?」

と、ノエルは何気なく尋ねた。


「いや、あれは俺が地下や命令で殺した人間の名前だ」

「え……」

ノエルは直前の自分の発言を激しく後悔した。


モルフェは黄色い実を指先でつまみあげながら言った。

「ゼガルドの闘技場で怪我や病気で使えなくなった奴隷は無残に放置されてた。蛆がわこうが、嘆願しようが、貴族連中あいつらは何もしなかった。俺は希望して瀕死の奴隷たちと戦って、能力を使ってそいつらを殺した」


こんな地獄のような晩餐会になると思ってもみなかった。

ノエルは沈痛な面持ちでモルフェの話に耳を傾けた。


「30日だ。50日に一回、奴隷は必ず闘技場に出されるルールだった。が、希望すれば30日に早めることができた。俺は必ず30日に設定していた。だからまあ、俺の年齢は、その入れ墨の数を数えれば分かるって計算だが……」


我慢しきれずにノエルは叫んだ。

「もうお前が何歳だってかまわねぇよ! もういいから! 辛いこと聞いてごめんな! モルフェ、俺のブドウも食べるか!?」


「だからチヤホヤしてくんなってきしょくわりぃ……別に辛いとかそういうんじゃねぇ。あいつらを殺した俺は、罪人だからな。その罪は一生背負って生きるのが当然だろ。ま、そんな俺だからろくな死に方はしねーだろけど、ゼガルドの王族やら貴族やらに使われて死ぬんじゃなくて、どうせならお前のために死ぬ。盾くらいにはなんだろ。あとブドウはもらう」


ノエルが鼻水をすすりながらブドウを明け渡している対面で、レインハルトは優雅に紅茶を飲んで言った。

「そんな悪趣味なもの、消えて良かったと思え」

「なんだと」

「この戦の世で、人を殺さぬ戦士などいない。時代と場所が変われば人殺しは英雄だ。俺の父を殺したバルナバスは、今のオリテの国王だ」

「ふん。王族と奴隷を一緒にするな」

「俺は元王族だが、元奴隷のお前と今一緒に飯を食べている」

「何が言いたい」


不穏な空気にノエルはため息をつきたくなる。


「あのー……レインさ、励まし方が独特すぎねぇ?」

「別に励ましてるわけでは……」

「そうだぞ、こいつが俺を励ますなんて天地がひっくり返ってもありえねぇ。大雨でも降るか、槍でも降ってくるんじゃねぇのか」




ヒュンッ! トン!


その時、開いていた窓から小さな矢が飛び込んできて、ノエルたちの円卓の中央に綺麗に刺さった。


ビヨンビヨン……と、余韻で木がしなる。




「……槍じゃないけど、矢が降ったな」

と、ノエルは言った。

「お前のせいか?」


「何を言ってるんですか。そんなわけないでしょう」

と、レインハルトはぴしゃりと言った。



「敵襲か!?」

モルフェがすぐに窓に近付こうとする。

すぐにでも飛び出していきそうだ。


レインハルトが止めた。

「いや、待て。手紙が付いている」





ノエルは引き抜いた矢から手紙を外した。


小さく折りたたまれたそれは、意外な人物からの物だった。



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