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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(12)タルザール編 気になるアイツは新興国

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男どもの会話

「なんだこのちっけぇの」


モルフェはマルクの姿を見て、鼻で笑った。


「あ? ノエルと髪の色がなんか似てんな」

「弟なんだ」

「弟!? ああ、なるほど、たしかに」


じろじろと見ていたモルフェは不思議そうに呟いた。


「それでお前は、なんでその弟に攻撃されてんだ?」

「いや、実は……」


ぷんすかしている少年を両手でとめながら、ノエルは事の顛末をモルフェに話した。



「ああ。なるほど」


何やら納得したモルフェが言った。


「そりゃあ仕方ねぇよ。あー……なんだ、お前の姉ちゃんは聖女なんだ」


「せ、せいじょ?」

マルクが目をまん丸にした。

モルフェは適当に言う。


「そーそー、聖女ってのは格が高ければ高いほど高位の霊を降ろせるからな」

「姉上は格が高い、聖女……」

「そうだぞ。ノエルに会ったら挨拶がわりに地面にダイブする変わり者……いや、敬虔な信者だっているんだ」

「姉上、領地を出てどうしているのかと思っていましたが、そんなことになっていたんですね」

マルクはいつしかキラキラした目になっていた。


スラムで小さい者たちの相手をしていたこともあるモルフェは、案外に子どもの扱いがうまい。


モルフェはポン、とマルクの頭を撫でて言った。


「まあ、お前の姉ちゃんはノエルの体の中にいるさ。口調は荒っぽいが」

「うん……確かに、そう言われたらそんな気もしてきた」


単純な弟が可愛い。


口元をおさえるノエルに向かって、モルフェは面倒を押しつけるなとばかりに眉をしかめてみせた。




夕飯の席にはマルクも同席した。

手紙を渡すついでに暫く滞在して、レヴィアスで頼まれた別の用を済ませるらしい。


モルフェが不思議そうに言った。

「っていっても、お前一応伯爵家の跡継ぎなんだろ? 危なくねぇのか」

「はあ……でも、ゼガルドからグレイムまでは馬車でしたし。レヴィアス西から東への道のりは、銀色の髪の毛のかっこいい獣人さんが送ってくれました」


モルフェがごくんと咀嚼して言った。


「そいつ、なんて名前だった」

「アーロンさんという方でした。有名な方ですか? 副団長だとお聞きしました。もうすらっとして、クールで。戦闘だってとっても強くて、途中に出てきたコボルトもすぐ追い払ってくれました」

「……そうか」


モルフェたちは口をつぐんだ。

いたいけな青少年にわざわざ大人の裏側を見せなくても良いだろう。


「帰るときだけでも、変化薬があればいいんだけどなあ」

と、ノエルは言った。



聖ルキナス大聖堂に協力してもらえればいいが、プルミエは気まぐれで薬をほいほいくれないだろう。

どちらにせよ、対価が払えない。



農園の仕事を終えて、もくもくとキッシュを食べていたレインハルトが言った。


「そういえば、俺が王子だったころの話なんですが」


「王子ィ!?」

と叫んだのは、マルクだった。

「王子って……レインが!?」


しばらく家族同然に屋敷で生活してきた執事が王族だったという衝撃で、マルクはボアの肉を取り落とした。


ノエルはすっと皿を差し出して、肉が地面に落ちるのを防ぐ。

食べ物は大切だ。

ノエルは言った。

「あ、マルク、それはもう過ぎた話で、今はそんなに重要じゃないんだ。レイン、それで?」


マルクは腑に落ちない顔をしていたが、レインハルトは続きを話し出した。


「俺は昔、数回、プルミエに授業をしてもらいに神殿に行ってました。王族はそうする決まりだったんです。俺はそこで薬学の基礎を学びました。そこで聞いた話なのですが、プルミエには一人だけ弟子がいたようです。オリテの出自の人間で、魔力は無かったけれど調合が抜群にうまかった、と」


そんな人間がいたなんて初耳だ。ノエルは

「ふぅん」

と、相槌をうった。


レインハルトは続けた。

「プルミエによると、数十年単位の永続的な変化薬は、彼女やエルフのような膨大な魔力がないと作れないらしいんです。プルミエは莫大な魔力持ちです。俺には魔力がないから、調合はそれなりにできても、オリテの秘薬のようなものは作れません」

「じゃあ、俺も変化薬、作れるのかな?」

と、軽い気持ちで訊いたノエルは、レインハルトの冷たい目に射すくめられて後悔した。


「ノエル様は魔力は膨大ですが、器用かと言われると……」

「なっ、なんだよ!?」

「13の時にお作りになったカップケーキ、食べる直前にコランド伯爵の手元で爆発しましたよね。それでも伯爵、どうにか食べてましたけど……それに、先日作っていた、ノエル様のその辺の野草を煮込んだオリジナルスープは、結果的に【紙】になっていましたし」


ノエルは昔の恥を晒されて半泣きになった。

「調子のって悪かったから! レインやめてくれよぉ……」


マルクが、

「えっ? 姉上、スープって紙になるの? どういうことですか?」

と、純粋にたずねてくる。


「知っているか、マルク……紙は草木からできるんだ。だが、これは本題にはあまり関わってこない、さして重要ではない事柄だ。次にいくぞ。レイン」


「はい、続きを話します。そのプルミエの弟子というのは、魔力はほとんどありませんでした。しかし、神がかって調合が上手かった。天性の才能があったそうです。永続的なものはともかく、一時的な変化薬ならば、誰よりもうまく作れた。その者は出自にも恵まれていたようで、そこそこ裕福だったのか、家でもずっと調合していたと。ただしかし、それが誰なのかは教えてもらえませんでした。どこにいるかも謎です」


ノエルは腕を組んで考えた。

「うーん……となると、味方にするってのも時間がかかるなあ。見つけ出すのにまず一苦労だ。あのプルミエが素直に喋ってくれるとも限らないし」


一癖も二癖もありそうな、魔女の姿が脳裏に浮かんだ。

別の策を考える必要がある。


「死にかけたやつにヒールをかけるときに、魔力を流してみるか?」

と言ったのはモルフェだった。


「だって、『ヒール』は回復薬みたいなもんだろ。そこに別方向から魔力を流し込めば、変化もできるんじゃないのか」


「なるほど! 怪我を修復して治す、治癒力みたいなのと関わってんのかなあ。怪我人いないかなあ」

「あ、ちょうど、さっきの農作業でちょっと腕をひっかけました。軽い切り傷なので放っておきましたが……」

「タイミングいいなあ、お前。じゃあ、モルフェ、やってみてよ」


変なことをしたらただじゃおかない、と言わんばかりのレインハルトの碧眼に見据えられたモルフェは、少しばかり怯んだようだった。

が、ノエルの言葉に頷いた。


「おし。ものは試しだ。いくぞ。おら、もっと腕出せ。服まくれって……あ?自分でやれよ! おい、テメェは何様だ!?」

「元・王子様だが」

開き直ったレインハルトが言う。

「うっせぇよ! クソ王子が!」

「クソは余計だ」

ノエルはみかねて口を挟む。

「ケンカすんなよ~。マルクがびっくりしちゃうだろ」

「チッ……おら、そこ動くなよ。やるぞ。『ヒール』!」


紅い線のような切り傷がぽうっと光った。

そして、美しい金の羽毛が、七枚生えた。


「……羽だ」と、ノエル。

「……羽だな」と、モルフェ。

「羽、ですね」と、マルク。


心底嫌そうなレインハルトが言った。

「……なんで羽なんだ」


自分の腕に金色の羽が整列して生えていたら、気持ち悪くもなるだろう。

いやにシュールな光景だ。


「お前、前、鳥だったじゃん」

モルフェが何も考えてなさそうな台詞を口にした。


レインハルトは黙って、金色の羽毛を一枚指でつまみ、プチッと引き抜いた。


「おいおいおいおい! 痛いのやめて! 弟が怖がるから!」

「わあ……キラキラして綺麗ですよ、姉上」

「羽はね!? でもレインの腕見て! また新しい血が出てるから!」


しかし、これで分かったことがある。

ノエルは言った。


「だめだ、これ全身の毛穴から血が噴き出すとかしてないと、完全に変化できない」 



紛れもない失敗である。

ノエルたちは変化薬を諦めて、みんなでボアに舌鼓を打つことに決めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女がポリモーフを使えないのは良いことだし、ノエルが彼女の風変わりな性格を処理できる男性を見つけることができることを願っています
[良い点] そして、薬で変身したいと思っても出来ないので ーーそのうちノエルは 考えるのを止めた
[一言] ノエルは作るのだめで食べ専だったか!
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