デウス・エクス・マキナ
ディルガームは兵士たちを迎え入れた。
人数の減った彼らの姿は、一目で手ひどくやられたと分かる。
しかし、ディルガームにとってそんなことは知ったことではなかった。
兵隊の百人や二百人がどうなろうと、彼にとっては何ら重要ではない。
唯一問題になるのは、あの忌々しいマールの獣人たちに打撃を与えられたかどうかだった。
「報告しろ」
ディルガームの声には冷淡さが漂っていた。
前に進み出た一人の兵士が進み出て、
「恐れながら」
と、声を震わせながら答えた。
彼の背後には包帯で頭部をぐるぐる巻きにした赤毛の兵士が、俯いて控えている。茶色の髪の若い兵士は、決心したように口を開いた。
「ディルガーム様、我々は全力を尽くしましたが、マールに大きな打撃を与えることができませんでした。彼らの防御は非常に堅固で、我々の攻撃はほとんど効果がありませんでした」
ディルガームの眉間に皺が寄る。
「つまり、無駄骨を折ったというわけか?」
茶髪の兵士は俯いて、答えを濁した。
後ろの数十人の兵士たちも同じように俯いた。
「……申し訳ありません」
と、若いその兵士が、緊迫した空気に耐えかねて言った。
ディルガームは、分かりやすく苛立ちを露わにした。
彼は口の端に泡を飛ばしながら、ぎょろりと目を剥いた。
「建物に火はつけたんだろうな!? 街を焼き払えとお前たちに命じたはずだが」
兵士は疲れた顔を見せながら、首を振った。
「試みましたが、獣人たちの防御は固く……何しろ我々には見えない程速く動くのです」
「ええい! うるさい!」
ディルガームは手近にいた茶髪の兵士を蹴り飛ばした。赤毛の包帯を巻いた兵士が、彼を抱きとめる。
(弱い者同士で傷を舐め合いやがって! 使えん奴らだ!)
ディルガームは腹を立てながら、考え込んだ。
どうやってこの状況を打破するか。
敵の防御を突破するには新たな戦術が必要だ。
(兵士を増やす……いや、よくわからんが、獣人たちは攻撃をするようになったようだ。これ以上、人口を減らしたくはない。わしの支持率も下がるだろうしな……ああ、そうだ)
ディルガームは集まっている兵士たちを見渡した。
まだ動けそうだ。
「よし。そこのお前たち。腹に爆弾を括り付けて、もう一度マールへ行け」
「えっ……? それは、それはどういうことですか!?」
「わしのささやかな命令もまともに守れんような軟弱者は、ここにはいらん。鞭に打たれて餓死するか、名誉の特攻をしてこい」
「そんな!」
「獣どもがいくらすばしこくとも、あいつらは魔法が使えん。あいつらは接近することでしか、まともに戦えんのだ。攻撃するために近付いてきたところを爆破しろ」
呆気にとられている兵士たちに、ディルガームは告げた。
「ああ、金か? 心配するな、残った家族はここから追い出すことはない。お前達は勇ましくこの西レヴィアスのために戦ったのだと伝えよう。名誉市民だぞ」
「ばかを言うな……」
「おいおい、誰がばかだと!? 暴言を吐いた身の程知らずの駒はどいつだ!? 見せしめにトライデントの餌食にしてやる!」
ディルガームは首にかけた紅い宝石を手で掴んだ。
「名乗り出ろ! 誰もいないなら、そこの……茶色の髪のお前だ! こいつが代わりに殺されることになるぞ」
「ええっ……そんな」
茶髪の兵士は蒼白になった。
ディルガームは誰だっていいのだ。
自分の権威を保つためだけの見せしめなのだ。
そのとき、手があがった。
白く、やけにきめの細かい腕だった。
「ああ? 無礼ものはお前か?」
ディルガームは舌なめずりをした。
いらいらして仕方が無い。
誰でもいいから、痛めつけたくて仕方が無かった。
「そうだよ、俺だ」
それは包帯を巻いた、赤毛の兵士だった。
「さっきから聞いてれば……お前がディルガームか」
「記憶喪失か? 手を挙げた勇気に免じて、死に方を選ばせてやろう。東の特攻隊の隊長になるか、この古代兵器トライデントの実験台になるか、どちらかだ」
赤毛の兵士は微笑んだ。
「どちらも断る」
ディルガームの目が細まり、顔には冷笑が浮かんだ。
「貴様に断る権利は無い」




