表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(10)マールの村、街になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/278

侵入者の末路

「もういい、口を離してやれ、アーロン。ただし爪は離すな」

「承知」


命令をしたのはセシリオだった。

『何か』に噛みついたアーロンは、鋭い犬歯を舐めた。

血の味と花の匂いがする。


「なぜ分かったのだ……」

「匂いだ」

と、アーロンは言った。


ティリオンたちは透明化の術を用いて静かに移動していたが、その術には欠陥があった。完全に匂いや音を消し去ることはできない。

その微かな痕跡を、獣人は捕らえたのだった。


町中にいた盲目の牛の獣人が、

「変な匂いがするぞ」

と、騎士団に密告したのだった。


報告を受け、獣人のアーロンが現場に急行した。

アーロンはすぐに不審な気配を察知した。


「俺たちは人間とは違うんだ。耳を澄ましてみれば変な音が聞こえるじゃねぇか。よくも俺たちの大事なセルガムを踏んでくれたな」


アーロンは鋭い爪を透明な『何か』に突き刺しながら、言い放った。

ノエルの作り出したオアシスの農作物をとるようになってから、獣人たちは健康になっていた。そのおかげなのか、今までよりもずいぶんと、感覚が鋭敏になって力が湧き出てくる。そして、攻撃的な動物的本能とも言うべきものが、獣人たちの身中に芽を出し始めていた。


「妙なことをすれば即刻、噛み殺す」


ティリオンの部下たちは動揺した。

次は我が身かもしれない。

緊張感が高まっていく。


「ちょっと待ってくれ。我々に敵意はない」

とティリオンは必死に説得を試みた。


その瞬間、騎士団長のセシリオが一歩前に出て冷ややかに言った。

「敵意がないというなら、その得体のしれない魔法を解け。」


「そ……それは……」

ティリオンは躊躇した。


セシリオは威圧感を隠さず命じた。

「おい、アーロン。その侵入者の肩を半分噛み千切ってやれ」


「う、ぐううううっ!」

ティリオンの部下が苦痛の声を上げる。


「やめろ! 待て、分かった。分かったから攻撃を止めてくれ」

ティリオンは叫んだ。


アーロンは顎の力を抜き、様子をうかがった。


「はあ……すみません、ティリオン様」

「仕方ない。我々の負けだ」

とティリオンは嘆息した。


獣人騎士団は全員、透明な空間を睨みつけ、少しでも怪しい動きがあれば噛み殺そうと喉を鳴らしていた。


ティリオンは冷静に、

「だが、我々は……」

と始めようとしたが、それをアーロンが遮った。


「くどいぞ。こちらに交渉の余地はない。五つ数える内に姿を現さなければ、問答無用で侵入者たちを攻撃する。」

「分かった」

ティリオンは諦めて透明化の魔法を解いた。


すると、月光に照らされて美しいエルフたちが現れた。

しかし、一つだけ、獣人たちが予想していなかったことがあった。


エルフたちはすべすべとした白い肌をしていた。

首も、胸も、腹も、二の腕も、足も、下腹部にさえ毛がないのだ。

なぜそれが分かったかというと、彼らは皆、服を着ていなかったからだった。


「……」

「……」

「さあ、これが我々の全てだ」

「……おい」

「何だ」

「何だじゃないだろう……」


彼らのつるりとした尻が月光に反射してやけに白く見える。

あまりの光景に、騎士団の女性団員カルラが

「キャアッ」

と小さく叫んだ。

しかし、隠した指の隙間からばっちりと状況を確認しているところは逞しかった。


もう一人の女剣士、ユーリンは男どもと生活しているのが長いからか、

「なんなんだ」

と呆れて、冷たい視線を送っていた。


他の騎士団員たちは皆、同情を禁じ得なかった。

なぜ、このようなことになっているかは良く理解できないが、双方の望む結末でないことは確かだ。


セシリオは口を手で押さえ、やけに堂々と立っているエルフをしげしげと眺めていた。


ついに、全身をぶるぶると震わせたアーロンが鋭く叫んだ。


「なぜ敵地で裸なのだ!」


(ありがとうございます……)

(さすが副団長、俺たちに言えないことを)

(簡単に言ってのけてくれる! そこに憧れます!)

と、騎士団員たちは深くアーロンに心中で感謝の祈りを捧げていた。


しかし、エルフの軍神も負けてはいなかった。

全裸だというのに、彫刻のように堂々としながら、アーロンを見返す。


「透明化の魔法は生体にしか効果を発揮しないのだ」

「それならば何か? あんたたちは偵察のときには全裸になるのか!?」

「そうだ。これこそがエルフの調査隊に伝わる秘術」


ティリオンは前を隠そうともせず、気持ちの良いほどの仁王立ちである。

エルフの部下もティリオンにならって、堂々とした立ち姿だ。

服さえ着ていればさぞかし神話の絵のように、様になっただろう。


「敵地だぞ!? 自分をもっと大切にしろ! そんなもんゴボウで攻撃されてもダメージを負うだろうが! エルフはばかなのか!?」

「何たる侮辱。透明化した我々はこれまで見つかったことなどない。今日が初めて失敗したのだ。そもそも敵地ではない。我々は中立だ」

「その姿はどう見ても敵、というか排除すべきもののように思えるのだが!?」

「だから敵ではない。貴殿らが魔法を解けというから解いたまでだ」

「なぜ早く言わないのだ!?」

「言おうとしたが、貴殿がせっかちにも五つ数え始めたからだろう」

「まさか敵が全裸で乗り込んでくるとは思わないだろうが! 武器も何も無いなんてどうかしているんじゃないのか!? エルフは皆そういう生き物なのか!?」

「失敬な。今回は特別任務だから脱いでいるだけだ。我々に露出の趣味はない」

「説得力が無いのだ! そう言うならば前くらい隠せ!」

「なぜだ。侵入者の身体を検めたいのだろう。我々は丸腰だ。敵意はない」

「その腰の部分が問題だと言っているのだ!」


常に冷静な副団長アーロンが取り乱す姿を、部下たちは珍しいものを見るかのように眺めた。


団長セシリオは、ふむ、としばらく考え込んだ後、深く息を吸って言った。


「ティリオン殿。貴方がたに敵意がないというのは分かった。だが、このままにするわけにもいかない。私たちの長、『聖女』に会って貰う」


セシリオは自分の上着を脱いで、ティリオンにそっと渡した。

さすがに、『聖女』にこの状態の侵入者を見せるわけにはいかない――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あはははは!裸族!! 前回からのシリアス潜入パートが、全開エルフに置き換わり久々のスマッシュヒット!腹筋が痛い!! シリアス&コメディこのバランス感が最高です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ