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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(9)西レヴィアス 反逆の兆し

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逃亡

静かな夜だった。しかし、うごめいている影はいくつもいくつも列をなして、暗い砂地を歩いていた。

西レヴィアスの獣人たちは、全員息をひそめて砂漠の入り口を目指していた。


「明日の朝にはもぬけの殻だな」


黄色い目の獣人が呟いた。ユーリンだ。

腰に剣を差し、列の最後尾につく。

避難していた集落の獣人はこれで全員だ。


消えそうに細い月の明かりが、大荷物を持った集団を照らしている。

百人ほどはいるだろう。

マールの村から逃げのびた、生き残った者たちだ。


落ち合った獣人たちは、夜逃げ同然の様相を呈していた。

震える手で荷物を抱え、不安と焦燥感を抱えている。

幼い子どもも声を出さずに、息をひそめているのが健気だ。

特に力の強い者たちが集まっている騎士団の獣人たちは、集団の中でも力の弱い老人や子連れの者を助けていた。


「ずいぶん遅いな……」

アーロンが呟いた。

あとはカルラたちの到着だけだ。

市長ディルガームの屋敷で奉公させられている女性の獣人たちは、古代兵器についての資料を奪って、ここに落ち合うはずだった。

監視が厳重で、外に出られないかもしれない。

その場合は見捨てて逃げるようにと念を押されていた。


「もうすぐ、定刻だ」

騎士団長のセシリオが言った。

「酷なようだが……」


時間になったら出立する。

それが取り決めだ。

情にまかせて待っていては、西の人間に見つかるかもしれない。

無断で領の外に出てはいけない。

最初に取り決められた、不平等な誓約書の証文の中に書かれていた。

西に東の獣人を迎え入れるかわりに、獣人たちは最低賃金よりも低い金額で働き、ほとんどの権利を剥奪されるのだ。


生きるために、セシリオは獣人を代表してそれにサインをした。

悪法もまた法である。

その約束を反故にして逃げ出すのだ。

見つかったら全員ただでは済まないだろう。


アーロンは音の無いため息をついた。

その肩を、セシリオが励ますように軽く叩いて言った。


「行こう」


アーロンは頷いた。

犠牲は仕方が無い。

だが、犠牲など、無い方がいい。


集まった獣人たちはそわそわと出立を待っていた。

一刻も早くこの場を離れたい。

全員が同じことを思っていた。


セシリオが一歩踏み出した。

砂漠の影が一体となり進み出す。


その時、遠くからかすかな足音が聞こえてきた。

最後尾のユーリンが剣を抜いた。

足音は次第に近づき、やがて影が浮かび上がった。


「来た!」

ユーリンが小さく叫んだ。

アーロンとセシリオは先頭にいたが、ユーリンの声に視線を向けた。

群衆の後ろに、カルラの長い髪の毛がちらりと見えた。

セシリオが、今度は強くアーロンの背を叩いた。


「出立!」

短く鋭いセシリオのかけ声で、獣人たちは今度こそ歩き出した。

夜空には星が瞬き、彼らの行く手を照らしていた。


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