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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(9)西レヴィアス 反逆の兆し

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カルラとルーナ

カルラの目は警戒と疲労で曇っていた。

目の前の橙色のオランジュの実は、極限の緊張感を何度も切り抜けてきたカルラの本能を誘惑する。


ルーナは躊躇っているカルラに、そっとハンカチに包まれた柑橘の実を渡した。

「どうぞ。食べてみて下さい」


こんなもの、砂漠では観光客用の超高級品だ。

西レヴィアスの市民、人間でさえ容易く買うことはできない。


それを何でもないもののように、ルーナは容易くカルラに渡した。

みずみずしい暖色の実に、カルラはこわごわと口をつけた。


「美味しい……」


甘く酸っぱい甘露が体に染みこんでいく。

カルラはむさぼるように果実を食べた。

物を食べて泣きそうになるなんておかしいだろうか。


「カルラさん、少しお話しできませんか?」

ルーナは柔らかい声で言った。


カルラは一瞬ためらった後、うなずいた。

「ええ。西について、獣人について知りたいの?」


ルーナは微笑んだ。

「はい。でも、それだけじゃありません。実は、あたしたちはマールの村に、獣人の皆さんに戻ってきてもらいたんです」


カルラの眉が上がった。

「いったいどういうこと?」


ルーナは周囲を確認し、人目がないことを確かめた後、静かに話し始めた。


「えっと……実は復興に成功したんです」

「なんですって?」

「マールの村ですよ」

「まさか! あそこはもう……」


焦土と化した不毛な土地。

見捨てられた跡地だ。


ルーナは首を振った。

「さっきオランジュの実を食べましたよね。あれは、マールの村でとれたものです。きっと信じないだろうからって、ノエルさんにいくつか持って行くように言われたんです。ね、カルラさん。みんなで、生き返った故郷に帰りませんか?」


カルラは信じられなかった。


(だまされているんじゃないだろうか?)


不幸な境遇になれきったせいで、カルラは希望さえ疑うようになっていた。

期待すれば、だめになったときに痛みを受けるのは自分たちだ。


「でも……そんなこと」


ためらっているカルラに、ルーナは変わらずほほえみかけた。


「反乱を起こすんです」


過激な言葉に、カルラはぎょっとして辺りを見渡した。



「いいですか、市長に一番近付けるのはわたしたち女性の獣人です。古代兵器について、きっと秘密があるはずです。どうにか……どうにかその秘密を、市長から奪い取りましょう。ノエルさんは、あと二十日ほどの間に決着をつけるつもりです。あんな男のクズのところにいるのは嫌だと思いますが、あたしも一緒にいますから、少しだけ辛抱して下さい。その間に情報を集めて、反乱に備えるんです」


カルラは目の前の少女の目を見つめた。

真っ直ぐな光が見える。

カルラは息をのんだ。

彼女は本気だ。



「東と西の均衡は、崩れます」


ルーナの声には確信があった。


「力を合わせれば、この悪夢から抜け出すことができるんです」



カルラはしばらく考え込んだ後、深く息を吐いた。



「そういえば、昔は私も同じように考えてたわ。素直に、みんなで力を合わせたらきっとうまくいくって……だけど何度も裏切られて、不幸は訪れて、酷い目に合って……私たちはいつの間にかみんな、希望なんて忘れてた……」


「カルラさん。あなたたちの協力が必要なんです。どうしても……」


この計画には大きなリスクが伴う。

カルラにも理解できた。

成功する保証はない。おそらく、失敗すればさらに厳しい迫害が待っているだろう。


「それでも、何もしなければ今のままなのよね」


「ええ」

ルーナは断固とした口調で言った。


「あたしも前は諦めてました。でも、ノエルさんが教えてくれたんです。目の前のものばかり見ていたら、生きていけなくなってしまうから、それなら顔をあげて空を見ようって……そしたら、分かったんです。あたしが生きてたとこはずいぶん小さな場所だったんだって。他にいくつも素晴らしい場所はあったのに、歩きだそうともしないで……」


ちょうど砂漠の上を、鳴きながら鳥が通っていく。

ルーナは眩しそうに目を細め、何が面白いのか少しだけ声を出して笑った。


「旅に出るまで知らなかったです。あんなに忌み嫌った世界にも、綺麗なものや面白いものがいっぱいある」


カルラは思った。

このまま一生、あの男のもとで隷属して物のように生きていくのか。

それでいいのか。

本当に?


ルーナが言った。


「ねえ、カルラさん。もう、失うものはないですよ。はっきり言います。ノエルさんは、あたしたち()人を仲間にしたいんです。対等な仲間に」


カルラはしばらく沈黙していた。

ゴミ捨て場に朝の市場の名残の喧騒が、風に乗ってやってくる。

そろそろ戻らなければ、昼飯を食べたばかりのディルガームに遅いとどやしつけられるだろう。


カルラはやがて諦めたように微笑みを浮かべた。

「分かったわ、ルーナ。あなたの計画に賭けてみましょう」


その顔はまだ不安が残っていた。

が、瞳には昨日までは無かった光が宿っていた。

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