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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(8)レヴィアスの拠点造り おかえり!令嬢のカラダ 

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副団長アーロン

獣人たちは難民として西レヴィアスに移動していた。

が、獣人たちは差別と迫害に苦しめられていた。


「いつまでこんな日々が続くんだ……」

獣人たちは町の外れにある荒れ果てた区域に追いやられ、粗末な家に住まされていた。家と呼ぶにはあまりにもみすぼらしいその建物は、風雨を凌ぐことすらできないほどに壊れていた。


壁は崩れかけ、隙間風が容赦なく吹き込んでくる。床は土で、歩くたびに埃が舞い上がる。天井には大きな穴が開いており、雨が降るたびに屋内に水が流れ込んでくる。東にいたときはもう少しましだった。黒竜が来るまでは……。


寒さに震え、暑さに耐えながら、過ごす日常は、獣人たちをじわじわと苛立ちと哀しみ、絶望と無力感で包み込もうとしていた。


食料も十分には支給されない。彼らは自らの力で何とか食べ物を手に入れるしかなかった。オアシスの豊かな恵み、色とりどりの果実は観光用のもので、普段の食料とは別物だ。


荒れ地でわずかな植物を育てようにも、支援体制がない。あるのはひからびそうな豆。そして、固くてとてもかめた物では無いグレッドだけだ。

グレッドはこの地域の主食とされているが、権力者たちは小麦で作った柔らかく白いものを食べる。獣人たちは黒っぽく、酸っぱくて固いグレッドしが流れてこない。


満足な食事には程遠かった。子供たちはお腹をすかせて、大人たちも疲労困憊していた。


水も貴重な資源だが、ここには十分ない。医療の支援など期待できず、怪我や病気は自己責任で何とかするしかなかった。

まだここに来て日が浅いから被害はそこまで深刻ではないが、時間の問題だ。

アーロンは憂慮していた。

薬草を使った治療も限界がある。

もう少しすれば、多くの命が失われていきそうだ。


西レヴィアスの住民たちは、獣人たちに冷たい視線を送り、あからさまな嫌悪感を示していた。

市場で物を買おうとすれば追い払われ、仕事を求めても雇ってもらえない。

日常生活の中で浴びせられる心ない言葉や冷たい態度に、獣人たちは心身ともに疲弊していた。


もはや集落はない。

アーロンたちは元・騎士団の仲間たちと、肉体労働のあとの遅い夕飯を食べていた。今日も昨日の残りの味の無い豆の煮込みだ。

城壁の工事や修復は骨が折れた。

腹一杯食べたいところだが、こんなものしかない。


若い獣人の青年が、泣きそうな声で呟いた。

「もう限界だ……」

「そうはいっても、ここ以外に俺たちの行き場なんてない」

「オリテに行くか?」

「仕事はないさ……あたしたちはどこに行ったって、鼻つまみものなんだよ」

姉御肌の獣人が、ため息をついた。

このユーリンという獣人は、剣の腕は随一なのに、ここでは水くみばかりをさせられている。


その中で、騎士団長のセシリオは仲間たちを励まし続けていた。

「今は耐え抜こう。必ず道は開ける」


太陽のようなセシリオの陽気さに救われる。

しかし、このままではいられない。

限界であることに間違いは無かった。

アーロン自身もまた、内心では絶望と苛立ちに苛まれていた。



若い兵士然としたフードをかぶった青年が、

「そういえば、知っていますか? 東が黒竜を倒したらしい」

と、アーロンに囁いた。


アーロンは驚いた。

まさか。


「本気で言っているのか?」

「ええ。確かな情報のようです」

「まさか。あれは……いや、どうやって。誰がやったというんだ」

「それは……分かりませんが」


アーロンは考えた。

東に戻ろうとするのは簡単な決断ではない。

信用できる情報なのだろうか?

たちの悪い冗談だとしたら――。


西の権力者たちは獣人を簡単に離してくれないかもしれないし、情報が間違っていたら危険が増すだけだ。


それでも、縋りたくなる。

希望を夢見たくなる。


アーロンは偵察に行くことを決意した。

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