続・作戦会議
「気付かないうちに床とかも、ここ、なんか紅い石になってるし……え、大理石っぽいけどまさかね?」
「よく気付いたな! 石灰岩に鉄を混ぜると紅くなる。それを応用して、元々あった素材に鉄を……」
「モルフェは賢いのか、不良馬鹿なのかどっちなんだよ……」
「確実に後者ですね」
とレインハルトが茶々を入れた。
「わあ、ここも! ここも! こんなの昨日はありませんでしたよね」
と、ルーナが足下と壁を指し示した。
床には美しいモザイク模様が施され、壁にはどこから持ってきたのか絵画や歴史的なタペストリーが飾られている。
「がらくたの中に入ってたんですよ。おそらくこれは獣人たちには価値のある物のようです」
「価値があるのなら、どうして置いていったんだろうな?」
「有事の際には全てを捨てなければ逃げ切れませんからね」
己もその苦難を越えてきたレインハルトは、さらりと説明した。
確かに、命がどうなるかという瀬戸際に、こんなかさばるものを持ってはいけない。
「それでもきちんと布に包まれていましたよ。きっと誰かが大切にしていたのでしょうね」
大広間の奥には『談話室』があった。
そこは金と赤い絨毯で装飾されており、あたかも王の玉座の間であるかのように仰々しい。
特に今は敵もいないのに「ナメられるだろうが」という不良まるだしのモルフェの理由と、「綺麗じゃないですか」というレインハルトの王族感性が混ざり合った結果なのだろう。
大きなステンドグラスの窓があり、日差しが差し込むと美しい色彩が部屋を満たした。
ノエルたちが談話室と呼ぶこの部屋の中央には大きな円卓が据えられている。
その周囲に座り込み、会議が始まった。
ルーナが小脇に抱えていた地図を広げた。
「こんなもの、よく見つけたな」
と、モルフェが言う。
「えへ、羊のお婆さんに貰ったんです」
ノエルはふと思いだした。
泉で文句をつけられ、モルフェが論破して泣かせたあのお婆さんだ。
「え、ルーナ、仲良しなの?」
「うーん? どうでしょう、仲良しかは分かりませんが、時々お話します! 地図みたいなのがあればいいなあって言ったら、あげるよって。親切にして下さるので甘えてしまいました」
ルーナは明るく笑って、レヴィアスと書かれた文字を人差し指で押さえた。
広大なレヴィアス、そして不毛な北の氷河地帯。
オリテ、ゼガルド……。
「私たち、今はレヴィアスの東にいますけれど……ここからどうしますか、ノエルさん」
「うーん……」
西レヴィアスの獣人差別と支配。
オアシスを中心にした観光業の栄華。
これは切っても切り離せない。
また、いにしえから伝わる兵器というのも気になる。
ノエルは今はひげもない、剥き卵のようなあごをさすりながら考えた。
(でも、オリテよりゼガルドより、まずは)
ノエルは顔を上げ、しゃんと姿勢を正して皆を見渡した。
「レヴィアスを大きくする。本当の一つの国にするんだ」
レインハルトが言った。
「と、いうことはつまり……手を組むと?」
ノエルは首を振る。
「オリテやゼガルドに対抗するには、西と東に別れたままじゃ勝ち目は無いさ。東西併合だ」
ルーナが目をまん丸くさせた。
「本気で言ってるんですか? 古代兵器があるんですよ……? それに、騎士団も」
ノエルは頷く。
「うん。本気だ。騎士団だって元々は東にいたんだろ。きっとやり方はあるさ」
「ノエルさんがそう言うなら、そうかもしれませんけどぉ……」
と言いながら、ルーナは半信半疑だ。
モルフェが頬杖をつきながら言った。
「内部崩壊を狙うのか? 暗殺か? それとも主要施設に火でもつけるか?」
ノエルは呆れる。
モルフェの発言はいちいち、過激だ。
「おいおいおい。自らすすんでテロリストになるのはやめろ!」
「じゃあどうしろってんだよ」
「前にも言っただろう。こういうときこそ」
対話だ。
ノエルは西を獲得するための準備について、三人に話を始めた。




