ノレモルーナ城での作戦会議(ゲロダセェな!)
それから数日後。
「じゃあーん!」
嬉しそうなルーナが看板に顔を寄せて微笑んだ。
「どうですか? けっこう自信作です」
ノエルたちの『拠点』の玄関口に深々と突き刺さった木の看板には、こう書いてあった。
「ノレモルーナの城」
ノエルたちの『拠点』は、かつての元・騎士団の寮から大きく変貌していた。
確かに、これはもはや城である。
そこに関してはノエルは納得していた。だが――。
「ねえ、ルーナ。この、『ノレモルーナ』っていうのは……」
「ふふ、私たち4人の名前からとったんです」
レインハルトが
「ああ、なるほど」
と納得した。
「つまり、ノエル・レインハルト・モルフェ・ルーナの4人の名前の一部分をつなぎ合わせたということですね」
ノエルとしては、城の名称など何でもよかった。
だから、ルーナに『適当になんか……名前つけてよ。看板作って』と発注したのだ。レインハルトもこだわりはないようで、
「それにしても大きな一枚板ですねぇ」
と、名称よりも看板自体に興味を示している。
しかし、一名だけ様相の異なる者がいた。
「ゲッ……」
何か言葉を飲み込んだ様子のモルフェである。
「げ?」
ルーナがきらきらした目でモルフェを見る。
モルフェは案外にもアニキ肌のようで、年下の少女のルーナには優しくありたいと思っている節がある。昔はスラムに住んでいたこともあると話していたから、妹のように可愛がった存在もかつてはいたのかもしれない。
しかし、現在の『妹』分のルーナには、翻弄されっぱなしのようだ。
「げって何ですか?」
「いや、その……なんだ」
ルーナの大きな瞳がしぱしぱっと瞬く。
そして少しの間の後、
「あ……もしかして、お気に召しませんでしたか?」
と、ルーナは熊耳をしゅんと萎びさせた。
モルフェが見るからに慌てる。
「ゲ……現実的。なんつーか、現実的だ、と言いたかった」
(おい! モルフェ、厳しいぞ! それはかなり言い訳としてはレベルが低い!)
ノエルは内心突っ込みたかった。
おそらく、『ゲロ面倒くせぇ』とか『ゲロダセェ』とか、まあそんなような言葉が口をつきそうになったのだろう。
レインハルトが金の前髪を指先でかき分けながら、優美に微笑んだ。
「モルフェが無い知恵を絞っている姿を見るのは心底愉快ですね」
(俺はお前のそういう腹黒いところがちょっと怖いんだけどな……)
とノエルは思いながら、曖昧に微笑み返した。
ここは黙っておくのが吉だと判断したのだった。
「ノエル様、もしや俺のことを腹黒いとか陰険だとか思ってやしませんか」
「俺ってサトラレなの!?」
「なんですかそのサトラレというのは」
「いや……昔流行ったんだよ、思っていることが全部周りの人に筒抜けになるっていう……」
「周りの人間はともかく、俺はノエル様のことならお顔を見なくてもたいてい分かりますよ」
「え、こっわ……」
凄腕の占い師、もしくは精度の高いコンピューターのようなレインの発言に、ノエルは思わず自分の肩を両手で抱きすくめた。
看板を確認した一行は、館の中を歩いて移動した。
今日は作戦会議の日だ。
ルーナの名付けのセンスはともかく、『ノレモルーナ城』の内部は荘厳だった。レインハルトの元王族の貴族的センスと、モルフェの魔法の力が結集し、この館は優美でありながら実用的な空間に進化を遂げていた。
壮大な大理石の柱が天井までそびえ立ち、壁には彫刻されたレリーフが装飾されている。室内には優雅な家具が配置され、一つ一つに植物をモチーフにした美しい飾りが配置されている。
建物の外側には、ジャバウォックの素材の一部も使用されていた。
堅牢な鱗は城壁の一部に加工され、光景の勇壮さを一段と強めている。
「あのさ、確かにすごいんだけど、レインもモルフェもさ、一個きいていいか?」
「なんなりと、どうぞ」
「俺たちたったの4人なのに、なんでこんな、超豪華な城なんだ? 広すぎない? いや、だって……このシャンデリアみたいなやつとかさ……いる?」
「要ります」
とレインハルト。
「飾りでも付けとかねーと、ナメられるだろーが」
というのはモルフェ。
こういうところだけ無駄にチームワークがいい。




