第九十話 大同団結(後編)
---三人称視点---
ファーランド王国の王城エルシャインの二階の作戦会議室。
そこに大陸の各地から集結した各国、各種族の首脳部が集結していた。
この会談に参加するのは、ファーランド政党政府の新国王ファン一世。
それと宰相のラステバンが一応、主催者という事になっているが、
場の主導権を握っているのは、アスカンテレス王国の王太子ラミネス。
それとパルナ公国のシャーバット公子であった事は周囲の者達も理解していた。
、
ヒューマンの参加者はアスカンテレス王国の王太子ラミネス。
その同席者として戦乙女のリーファ。
それとアームカレド教国のアルピエール枢機卿。
また教会騎士団の新団長に任命された女性騎士レイラ。
冒険者及び傭兵部隊を指揮するオルセニア将軍。
彼等に加えて神聖サーラ帝国のセットレル将軍と総参謀長のハーランド。
伝統の島国ヴィオラール王国からも若き宰相シークが参加していた。
エルフ族は、今まで共に戦ってきた騎士団長エルネス。
そしてエストラーダ王国の第二王女グレイス・エストラーダが新たに加わっていた。
獣人族はこれまで通り犬族のパルナ公国のシャーバット公子。
猫族のニャルザ王国のニャールマン司令官。
兎人のジェルミア共和国のジュリアス将軍。
以上の十五名で円卓会議が行われる。
円卓会議という名目ではあるが、
実際には大きな四角いテーブルを囲んで、
それっぽく演出しているのに過ぎない。
壁を背にして新国王ファン一世が上座に座り、
その右隣に太子ラミネス、左隣に宰相ラステバンが座る。
ファン一世の右手側の席に戦乙女のリーファ、
アルピエール枢機卿、騎士団長レイラ、オルセニア将軍。
ヴィオラール王国の若き宰相シークが座っていた。
国王ファン一世の左手側の席に、
神聖サーラ帝国のセットレル将軍と総参謀長のハーランド。
エルフ族の第二王女グレイスと騎士団長エルネス。
兎人のジュリアス将軍。
そして下座にはニャールマン司令官とシャーバット公子が座っている。
これだけの顔ぶれが一つの場に、
揃うことはそうはない事である。
それだけにこの会談が各国、各種族の未来にとって、
大きな重要性を持つ事は、誰の目から見ても明白だった。
「では早速ですが会議を始めたいと思います」
そう切り出したのは、宰相ラステバン。
「会議の議題は言うまでもありません。
我々連合軍と帝国軍の次なる戦いについて話し合いたいと思います」
「嗚呼、それならば具体的な戦略と戦術に関しては、
僭越ながら連合軍の総司令官である私の口から語らせて頂きたい」
右手を挙手しながらラミネス王太子が凜とした声で云った。
それに対して宰相ラステバンは控えめに「どうぞ」と返す。
「……ではまず各部隊の配置に関して語らせてもらいます!」
そう言うと同時にラミネス王太子が席を立ち、
上座の奥にある黒板にエレムダール大陸の地図を張り、
指揮棒を片手に説明を始めた。
「現在、我等連合軍はアスカンテレス王国軍、サーラ教会騎士団。
エルフ族の王国軍と王国騎士団、傭兵及び冒険者部隊。
獣人の三部隊、それと神聖サーラ帝国の増援部隊。
大まかに分けて、この八部隊で構成されています。
この八部隊を帝国の領土及び周辺地域にそれぞれ配置しようと思います」
ラミネス王太子はそこで一呼吸してから、二の句を継ぐ。
「まず都市ロスジャイト方面にシャーバット公子殿下率いる犬族部隊。
それとサーラ教会騎士団の合計三万人の部隊を第一軍とします。
そして兎人領のジェルバ方面に、
オルセニア将軍率いる冒険者及び傭兵部隊を約一万五千人。
それにファーランド軍一万人を加えた約二万五千人の部隊を第二軍。
更にこの王都エルシャインの防衛部隊としてファーランド軍一万人を配置します」
「うむ、確かに帝国の両隣から攻めるのが良いでしょうな。
その第一軍の司令官はこの私でしょうか?」
と、シャーバット公子。
「無論、公子殿下にお任せしますよ。
教会騎士団は新団長レイラ殿に指揮を執って頂きたい」
「……了解しました」
無表情で頷く女性騎士レイラ。
「……自分はまたジェルバ方面ですか?」
やや不満げな表情でそう問うオルセニア将軍。
するとラミネス王太子はオルセニア将軍をじっと見据えて――
「オルセニア将軍としては不服でしょう。
ですがペリゾンテ王国を牽制するのは重大な役割です。
あの国が帝国側に参戦する可能性は現時点では低いですが、
状況次第ではペリゾンテ王国軍が我々に攻撃する可能性もあります。
それ故にある程度の戦力を持って、
ペリゾンテの動きを封じる必要があります」
「まあそうですな、誰かがやらないといけない任務なのは確かです。
但し第二軍の指揮権を私に与えて欲しい」
「はい、元より将軍に任せるつもりでした」
「……ではその大役、謹んでお受け致します」
「……ありがとうございます」
「王太子殿下、我等ファーランド軍からはどの将軍を
派遣すべきでしょうか?」
と、国王ファン一世が問う。
「そうですね、人事に関しては、
ファーランド政党政府の判断にお任せします」
「……そうですか、ラステバン。
この辺りの人事は全て貴公に任せる」
「……畏まりました」
「……それでこの王都から帝国領に西進する部隊はどうするのかしら?」
エルフ族の第二王女グレイスがそう言って、
ラミネス王太子に視線を向けた。
するとラミネス王太子はその問いに丁寧に応じた。
「そうですね、ある意味その部隊編成が一番重要となるでしょう。
なのでここの部隊編成及び配置に関しては、
皆様の意見を交えて、じっくりと取り決めようと思う次第です」
「まあそれが良いでしょうね」
と、グレイス王女。
「では王都から西進する部隊を決めたいと思います。
まずは総司令官である私がアスカンテレス王国軍を率います。
それに猫族部隊を加えた第三軍。
そしてエルフ族の王国軍と王国騎士団に
兎人を加えた第四軍。
この第三軍と第四軍を持って、
王都エルシャインから帝国領に攻め込みたいと思います」
「ボクらは第三軍ニャのね、了解だニャン」
「我々は第四軍ですか、了解致しました」
ニャールマン司令官とジュリアス将軍が賛成の意を示す。
「私達エルフ族も西進して帝国領へ攻め込むのね?」
「そうです、グレイス王女陛下。
もしかしてご不満でしょうか?」
グレイス王女はラミネス王太子の言葉に首を左右に振った。
「……いえ不満はないわ。
むしろ望むところだわ、でも一つ意見を言いたいわ」
「……どうぞ、申してください」
「では遠慮なく、私はこう見えて女勇者。
自分で言うのもアレだけど、かなりの戦闘力を秘めてるわ。
だから私を中心とした五百人から一千人の特別部隊を編成して欲しいわ。
その少数精鋭の部隊で戦場を自由自在に移動して、
敵部隊を各個撃破して見せるわ。 どう? 悪い話じゃないでしょ?」
「成る程、確かに戦術としては悪くないですね。
では総司令官として王女陛下の要望に応えましょう」
「ありがとう、それともう一つ言いたい事があるわ」
「……何でしょうか?」
するとグレイス王女はちらりとリーファに視線を向ける。
そしてリーファの顔を見ながら、新たな提案を述べた。
「但し私の部隊だけでは強大な帝国相手に戦うのは厳しいわ。
だからそこに居る戦乙女のリーファさんにも
私同様に五百人から一千人の特別部隊を率いてもらい、
私とリーファさんの二部隊で帝国軍に揺さぶりをかけたいわ」
「……成る程、その意図を聞かせて頂けますかな?」
ラミネス王太子が真意を探るべく、グレイス王女に問いかける。
すると彼女は綺麗に背筋を伸ばして、
やや芝居がかった口調で自身の意図を語り出した。
「やはり私だけでは不安という部分があるわ。
私は高レベルの上級職だけど、
戦場における戦闘経験は乏しいわ。
でもそこに居るリーファさんは、
この帝国との戦いで数々の戦果を上げられているわ。
だからこの戦術を生かす為には彼女の協力が必要なのよ」
「……分かりました、ではリーファ殿。
貴方の意見を聞かせて欲しい」
自然と周囲の視線がリーファに集まった。
リーファは内心では「正直あまりやりたくないわ」とも思ったが、
ここでグレイス王女の提案を断る理由も特に見つからなかった。
どのみち戦乙女である自分は最前線に放り込まれる。
ならばここでグレイス王女の知己を得ておくのも悪くない。
リーファは短時間でそういった結論を導き出して、
グレイス王女同様に芝居がかった口調で言葉を発した。
「そうですね。 私としてもグレイス王女殿下の提案に賛成しますわ。
正直これまでは私個人で敵部隊や敵将と戦う状況が多かったので、
グレイス王女陛下に共闘して頂けたら、
私も色々と助かりますし、連合軍の戦術、戦略も広まると思います」
「成る程、つまり王女陛下の提案に賛成する、という事なんだね?」
と、ラミネス王太子。
「はい」
「……という事だ、王女陛下も宜しいでしょうか?」
「はい、リーファさん。 共に帝国と戦いましょう」
「はい……」
二人のその姿を見てラミネス王太子は、満足げに頷いた。
そしてラミネス王太子は指揮棒を片手に持ちながら、
周囲を一望して、次のように述べた。
「良し、では帝国本土へ侵攻する部隊編成はこれで終わりとしましょう」
「……ちょっと待ってください」
そう異議を唱えたのはセットレル将軍。
「セットレル将軍、何か異論がありますか?」
「……我々、神聖サーラ帝国の部隊の配置が決まってないのですが?」
「ああ、その事ですか。 それなら心配ありません。
セットレル将軍と神聖サーラ帝国の部隊は、
この王都から東進して帝国の同盟国バールナレスへ侵攻して頂きます」
「な、何っ!? 我々は帝国本土でなく、
帝国の属国領で戦えと申すのか!?」
怒りを露わにするセットレル将軍。
だがラミネス王太子は動じる事なく、冷淡に述べた。
「いえこれは我が軍の戦いを左右する重要な任務です。
ですからセットレル将軍にその大役を引き受けて欲しいのです」
「……」
ラミネス王太子の圧力に気押されるセットレル将軍。
ここで彼を説き伏せるか、どうかで連合軍の運命は大きく変わる。
それはラミネス王太子だけでなく、
リーファやシャーバット公子やグレイス王女、その他の首脳部も感じ取っていた。
それらの期待に応えるべく、
ラミネス王太子は冷淡な声でセットレル将軍に言い放った。
「バールナレス共和国を制圧出来るか、
どうかで我々、連合軍の運命は大きく変わります。
ですのでその大事な任務を貴方達、神聖サーラ帝国に
お任せしたいのです。 お願いしますよ、セットレル将軍」
「……ぬうっ」
一歩も引かないラミネス王太子。
ラミネス王太子の圧力に呑まれつつあるセットレル将軍。
そして周囲の首脳部も無言で同調して、
セットレル将軍及び総参謀長ハーランドに見えない圧力を掛けた。
このエルシャイン会談における大きな分岐点を迎えようとしていた。
次回の更新は2023年7月9日(日)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。




