第八話 守護聖獣(しゅごせいじゅう)
---主人公視点---
「凄いわ、凄い。 この溢れるパワー!!
これが戦乙女の力なの!?」
「ええ、そうです。 それが戦乙女の力です」
「……女神サーラ、このような力を頂き誠に感謝します」
私は気が高ぶる中、眼前の女神に礼を告げる。
だが女神サーラは表情を変える事無く、言葉を紡いだ。
「まだ私から貴方に与える物がありますよ。
約束通り聖剣と盾を与えますわ、せいっ!」
「っ!?」
女神が眉間に力を入れると、
私の右手に剣が握られていた。
重量は通常の剣と同じね。
でも分かるわ。
この剣は凄い魔力を発している。
恐らく聖剣の類いだろう。
そして私は聖剣の鞘に手をかけた。
聖剣は鞘から抜かれて、
鏡のように光った美しい刃が堂々と現れた。
「す、凄い。 なんて美しい刀身なのっ!?」
「その聖剣は戦乙女の剣です。
硬度は超合金を超えるオリハルコン級です。
切れ味は抜群で闘気を篭めたら、
鉄塊でもバターのように斬る事が可能です。
刀身に魔力を篭めて振れば、
光の波動や炎塊が放たれて、標的を一掃できます。
また自動再生機能があるので、
その聖剣が壊れる事はまずありません……」
「そ、そう。 これは凄い贈り物ね」
「次は盾を与えます」
「え、ええっ……」
女神がそう云うと、私の眼前に目映く輝いた盾が現れた。
見た目は白水晶のように盾の表面が透明だ。
私は左手を伸ばして、眼前の盾を手に取った。
重さはほどほどね。
でもこの盾からも強い魔力が発されているわ。
盾の裏側は金細工や銀細工で加工されている。
「その盾は『幻魔の盾』です。
硬度、魔法耐性共に最高クラスの代物です。
またその盾に魔力を篭めれば、
自分を中心に結界や対魔結界を張る事が可能です。
更には魔法の反射、標的の魔力を吸収する事も出来ます。
この盾にも自動再生機能があるので、
壊れても、しばらくすればまた使えるようになります」
「この盾も凄いわ。素敵な贈り物ありがとう」
「いえいえ」
この聖剣と盾があれば、大抵の相手には勝てそうね。
それどころか、多対一も充分戦えそうだわ。
……これが戦乙女の力なのね!
「まだ終わりじゃありませんよ。
最後に守護聖獣との契約があります」
「守護聖獣? 一流の上級職のみに許される聖獣との契約よね?
成る程、戦乙女ともなれば、
当然守護聖獣とも契約するわよね」
「ええ、そうですわ」
噂によれば守護聖獣と契約する事によって、
様々な恩恵を受ける事が可能らしい。
守護聖獣は云わば神の化身。
各種族の頂点に立つ神の化身の聖獣と契約する事によって、
契約者は新たなスキルや魔法が与えられ、
ステータスや魔力、魔法力向上の恩恵の受ける事が可能となるとの話。
そうね、これを断る理由はないわ。
でもどんな聖獣と契約するか、少し悩むわね。
出来れば可愛くて強い聖獣がいいわ。
「貴方が契約出来る守護聖獣は二体です。
今から私が守護聖獣を召喚するので、
お好きな方の守護聖獣と契約してください」
「ええ」
「では行きますっ! 出でよ、ガーラ、出でよ、ランディッ!!」
女神サーラがそう云うなり、
魔法陣が現れて、まばゆい光を放った。
白、青、赤、黄色、緑とカラフルな色の光が魔法陣から溢れ出る。
「ニャオオオンッ!」
「ミィィィッッ!!」
鳴き声をあげながら、魔法陣の中から体長六十セレチ(約六十センチ)のサバ虎の猫、ほっそりとした体形の茶色の猫らしき聖獣が現れた。
一匹は愛くるしいのサバ虎の猫。
いや二足歩行してるから、獣人の猫族かしら?
愛くるしいまん丸の蒼いの瞳。 ふさふさの毛。
そして肩下まで丈のある緑のケープマントを羽織っている。
「やあ、こんにちはニャン。
ボクは猫妖精のガーラだニャン。
魔法に関するエキスパートだニャン、以後お見知りおきニャンッ!」
猫族ではなく、猫妖精なの?
……愛想はいいわね。 でもこういうタイプはあまり好きじゃないわ。
基本的に「自分が可愛い」と思っているタイプね。
猫族にはよく居るタイプだわ。
もう一匹は ほっそりとした体形のネコ科の動物っぽいね。
あまり見た事ないわ。
イタチやカワウソにちょっと似てるわね。
体色に斑紋などは無く、毛の色は鈍い赤。
脚は短く、尻尾は長め、頭がやや長く、
眼は虹彩が褐色で、瞳孔は丸いわね。
短くて丸い耳が可愛らしいわ。
首元の赤いスカーフがお洒落ね。
でもなんというか少し無愛想な感じな表情だわ。
「……初めまして、自分はジャガランディのランディだ。
得意な能力は分析能力と探査能力、予測能力だ。
自分と契約すると、自分の能力が貴公と共有されて、
貴公にも分析眼と予測眼が使えるようになる。
また個体としての戦闘力にも自信がある。
中クラスのモンスターなら単体で狩る事も可能だ」
なんだか質実剛健って感じね。
でもこういう飾りっ気のない所が良いわ。
それに加えて分析能力と探査能力、予測能力か~。
これはどちらを選ぶか少し悩むわね。
「でどっちにするニャン?
というか当然ボクでしょ?
だってボクは可愛くて強いモン!
ボクを選ばない理由はないだニャン」
……ウザいわね。
これは軽くしめてやる必要があるわね。
「私はランディの方が好みだわ」
「えっ~、なんでボクじゃないだニャン?
ボクは可愛いだけでなく、魔法のエキスパートだニャン。
魔力の保管も出来るし、保管した魔力をキミに与える事も出来る。
攻撃、支援、回復魔法も使えるだニャンッ!」
「うん、能力は魅力的ね。
でもアナタは却下よ、却下!」
「ニャ、ニャニャオンッ!
な、何でニャン? 納得いかないニャンッ!」
「その性格よ、自分は他人から愛されて当然と思ってるでしょ?
でもね、この世の全ての人間が猫好きと思わないで頂戴。
大体アナタ達は食う、寝る、遊ぶが基本でしょ?
我が物顔で他人の家の敷地を歩き、
挙げ句の果てには花壇にウンコもする。
私はね、猫のそういう所が嫌いなのよっ!!」
「ニャ、ニャ、ニャアアァンッ!」
「五月蠅いわね、ニャー、ニャー鳴かないで頂戴!」
すると眼前の猫妖精は露骨に動揺した。
「ニャ、ニャ、ニャ、こんな仕打ちは初めてだニャン。
く、屈辱ニャン、悔しいニャン、悔しいニャンッ!」
「そうやって甘やかされたから駄目なのよ。
人間で言えば我儘に育てられた貴族の息子や令嬢ね。
自分が全ての中心に居ると思ってる甘ったれた考えだわ」
「ニャー、ニャー、この人無理、マジで無理ニャンッ!
ボクちゃんはもう帰るニャンッ、バイバイニャーンッ!!」
眼前の猫妖精がそう言い残すなり、
ポンと音が鳴り、その姿が見えなくなった。
「……堪え性がないわね。
だから猫は好きじゃないのよ……」
「……」
気が付けば周囲がシンと静まり返っていた。
……少し言い過ぎたわね。
そこで私とランディの視線が合う。
「……自分もある意味、猫のようなもんだが……」
「アナタの事は嫌いじゃないわ。
私も全ての猫及びネコ科を否定してる訳じゃないわ。
あの猫妖精のようなタイプが嫌いなだけよ」
「……そうなのか?」
「そうよ」
「ならば自分との契約を望まれるのか?」
「ええ、私の守護聖獣になって頂戴」
「……我は守護聖獣ランディ。 戦乙女リーファよ。
汝は我との契約を望むか?」
「ええ、だから私に力を貸して頂戴」
「うむ、良かろう。 我はランディ。 汝リーファ・フォルナイゼンよ。
我と力を合わせて、共に戦おう!」
そう告げると、ランディの身体が目映く輝いた。
そしてその身体が私の胸部に触れて、その姿が消滅する。
すると私の全身を眩い光が包み込んだ。
「うおおお……おおおっ!!」
凄い、凄い力が全身から漲ってきたわ!
これが守護聖獣の力なの!
戦乙女の力に守護聖獣の力が加わり、
まさに虎に翼状態、今の私に敵はないわ。
と、私の全身が感じたことのない万能感に包まれた。
「――無事に守護聖獣と契約を果たしましたわね。
では今から貴方を現実世界に戻します。
では戦乙女リーファさん。
その力を正しく使って、世の中を良き方向に導いてください」
「ええ、使命はきちんと果たすわっ!」
女神がそう告げると、私の身体が眩い光に再び包まれた。
これから先どんな困難が待っているかは分からないけど、
今の私は希望に満ちていた。
だが後にして思えばここが分岐点。
婚約破棄された私こと追放令嬢リーファ・フォルナイゼンは、
この時を境に波乱万丈の人生を歩むことになるのであった。
だがこの時の私はそんな事も知らず、
「必ず幸せになってみせるわ!」
と自信に満ちた表情でそう言い切った。
そしてそこで私の意識が暗転した。
次回の更新は2023年2月3日(金)の予定です。
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