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第八十八話 大同団結(前編)


---主人公視点---



 何分か、宮殿内を歩きラミネス王太子殿下の部屋に到着。

 部屋の扉の前には漆黒の軍服を着た青年の衛兵が二人立っており、

 私は敬礼した後、労いの言葉をかけた。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です、戦乙女ヴァルキュリア殿」


「王太子殿下はいらっしゃいますか?」


「はい、いらっしゃいます」


「私は王太子殿下にお呼びされてここまで来ました。

 宜しければ王太子殿下に入室のご許可を取って頂けませんか?」


「はっ、少々お待ちください」


 すると左側に立つ青年の衛兵がドアを軽く開いた。


「王太子殿下、戦乙女ヴァルキュリア殿がご到着されました」


「そうか、ならば中へ入ってもらいたまえ!」


「はっ!」


 部屋の奥から王太子殿下の声が聞こえてきた。

 すると青年の衛兵二人は、

 扉を大きく開いて、それぞれ横に移動する。


「どうぞ、お通りください」


「ありがとう」


 衛兵とそう言葉を交わして、私は部屋の中へ入った。

 部屋の内装は黒を基調としたシックな雰囲気を漂わせていた。

 そして私は室内に視線を張り巡らして、王太子殿下の姿を探す。

 ……居たわ、殿下は向かい合った黒革のソファに座っていた。


「リーファ殿、お久しぶり」


「はい、お久しぶりです」


「君も座りたまえ」


「はい」


 私は王太子殿下と向かい合う形で黒革のソファに腰掛けた。

 目の前には金色こんじきの髪が似合う美形の青年が座っている。

 すると王太子殿下は穏やかな口調で語り出した。


「知っての通り今この王都エルシャインに各国、

 各種族の首脳部が集結している。

 そしてこれからそれらのメンバーを集めて会談が行われる。

 以前にも言ったが、君にもこの会談に是非参加して欲しい」


「ええ、私は王太子殿下のご命令に従うつもりです」


 私がそう答えると、王太子殿下が「うむ」と小さく頷いた。


「ヒューマンだけでなく、エルフ族。

 それに三獣人も参加するが、

 対帝国との決戦を控えている状況だ。

 だから多少のことは目を瞑って、

 大同団結して、この会談に臨んで欲しい」


「了解致しました」


 だが次の瞬間、王太子殿下の表情が少し強張った。

 だけど私は怯む素振りは見せず、辛抱強く彼の言葉を待った。

 そして彼は意を決したような面持ちで、口を開いた。


「しかし私はファーランド政党政府。

 それと神聖サーラ帝国に対しては譲歩するつもりはない。

 まあファーランド政党政府の連中は、

 首に縄をかけた状態だから、奴等もこちらの指示に従うであろう。

 だが神聖サーラ帝国、私は此奴こやつには容赦するつもりはない」


 ……。

 どうやら王太子殿下は、神聖サーラ帝国の事がお嫌いのようね。

 でもその気持ちはよく分かるわ。


 これまで散々及び腰だったのに、

 連合軍が有利になった途端に、

 急に連合軍に参加するなんてムシの良い話だわ。

 だから私もこの場では、殿下の言葉に同調する姿勢を貫いた。


「確かにここに来て、突如、連合軍に参戦するのは

 戦後の戦勝利権目当てという心の声が嫌でも聞こえてきますわね」


「嗚呼、全くその通りだ。

 大体、皇帝オスカー二世が直接顔を見せないのも気に入らん。

 手下の有象無象の将軍を派遣する根性が浅ましくて反吐が出るわ」


「そうですね、こういう時は弁舌だけが得意の凡将が

 会議の場を荒らすという事は珍しくないですわ。

 だからここは何らかの先手を打つべきでしょう」


「嗚呼、私もその辺の事は考えているさ。

 まずファーランド政党政府の連中には、

 王都エルシャインの防衛、それとペリゾンテ方面に兵を派遣。

 そして残った半数の部隊をファーランドの東部にある

 バールナレス共和国へ投入する予定だ」


「確かにファーランドの東部には、

 帝国の同盟国のバールナレス共和国がありますわ。

 我々が帝国本土へ攻め込んだ隙に、

 バールナレスがファーランドへ侵攻する。

 という可能性は充分考えられますわ」


「うむ、流石はリーファ嬢だ。

 物事や状況を正確に把握する能力に長けている」


「いえいえ」


 まあ王太子殿下に褒められると悪い気はしないわ。

 なので私は謙遜する素振りを見せながら、笑顔で応じた。

 すると王太子殿下も気を良くしたのか、饒舌に言葉を紡いだ。


「だから私は神聖サーラ帝国の連中を

 バールナレスの迎撃部隊として派遣するつもりだ。

 これならば奴等を本作戦から除外できるし、

 邪魔なバールナレスを食い止める事も出来る」


 成る程、確かに名案だわ。

 でもサーラ帝国の連中がその案に素直に従うかが問題ね。

 だが王太子殿下は、私がそう思うのも想定の範囲だったようだ。


「無論、奴等がそう素直に従うとは思ってない。

 だから私は鞭だけでなく、飴も用意している」


「それはどんな飴でしょうか?」


「単純な飴さ、もし神聖サーラ帝国の連中が

 バールナレスを無事に平定出来たら、

 バールナレスの一部を奴等にくれてやるつもりだ。

 バールナレスは地理的にデーモン族の生存圏と近い。

 それ故に下手に領土を得ても、

 更なる問題が発生する危険性をはらんでいる。

 ならばそんな面倒な領土は奴等にくれてやってもいい」


「……ああ、それは名案ですわ」


 私は想わず感心して、そう口にした。

 確かにこれならばサーラ帝国の連中が王太子殿下の案に従う可能性は高い。

 まさに飴と鞭ね、やはりこの人は優秀な為政者だわ。


「嗚呼、恐らく奴等もこの餌に食いつくであろう。

 あそこの連中は臆病だが、強欲だからな。

 仮に食いつかなくても、

 私がさとして奴等をその方向へ誘導してみせるさ」


「殿下ならばそれも容易い事でしょう」


「うむ、まあこれで邪魔なファーランドと神聖サーラ帝国は、

 蚊帳の外へ置ける。 だが帝国の本土へ攻め込むには、

 今まで以上に我々は団結する必要がある。

 だから君もこの会談に参加して、

 頃合いを見てアジ演説の一つでもして欲しい。

 この戦いに勝つか、負けるかでこのエレムダール大陸の歴史が変わる。

 そして私は何としても勝利を掴むつもりだ!」


 そういう王太子殿下の表情は真剣そのものだわ。

 良いでしょう、私もアジ演説の一つや二つしてもいいわ。


「私で良ければご協力させて頂きます」


「うむ、君には期待しているよ」


「微力を尽します」


「……そろそろ時間だな。

 では君も私と一緒に会議室に来てくれたまえ」


「はい」


「衛兵! 私の護衛を呼んで来てくれ」


「ははっ」


 そして数分もしないうちに、

 王太子殿下の護衛がこの客間にかけつけてきた。

 

「ではリーファ嬢、行くとするか」


「はい、お供させて頂きます」


 そして私達は護衛に前後を固められながら客間を後にした。

 向かう先は王城二階の作戦会議室。

 ここで運命の会談が行われる。


 ……少し緊張してきたわ。

 でも大丈夫、私ならきっと上手くやれる。

 私は自分にそう言い聞かせながら、

 王太子殿下や護衛と共に王城に向かって歩き続けた。


次回の更新は2023年7月5日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 話の内容は、神聖サーラ帝国のことでしたか。 飴と鞭と言っていますが、面倒ごとを押し付けているので「飴」と読んでいいのか... でも、領土が手に入ると言う状況だけを鑑みれ…
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