第八十七話 エルフ族のお転婆姫
---主人公視点---
聖歴1755年9月24日。
既にこのファーランド王国の王都エルシャインに、
各国、各種族の首脳部が集結していた。
そして王城エルシャインにて、会談が行われようとしていた。
この会談の結果如何によって、
連合軍とサーラ教会の今後の命運が大きく変わるでしょう。
それ故に王城やこのエラール宮殿内でもピリピリしたムードが漂っているわ。
まあ私はあくまで一兵士。
だから作戦内容などは上層部が決めれば良いわ。
私は上層部の命令通り戦うだけよ。
と思っていたけど、
ラミネス王太子から私もこの会談に参加するように言われたわ。
また会談の前に王太子の部屋に来て欲しい、との話。
まあ私はあくまで付録的な存在でしょうけど、
他国の首脳部の前で「噂の戦乙女」の姿を
披露して、自己の力を周囲に見せつける。
という思惑がラミネス王太子にもあるのでしょうね。
私としては少しばかり迷惑な話でもあるけど、
戦乙女の役割を果たす義務もある。
そういう訳で私はいつものように、
セミロングの髪を黒のシュシュでまとめたポニーテール。
黒の長袖のインナースーツの上に白金の軽鎧。
剣帯には「戦乙女の剣」。
背中に裏地の黒い白マントといういつも格好で、
宮殿の客間の鏡台の前に立った。
「リーファさん、いつも以上に決まってますよ」
「うん、うん、とても綺麗だわさ」
「ありがとう」
エイシルとロミーナの言葉に私は笑顔で答えた。
やはりこうして褒められると嬉しいものね。
「じゃあ行って来るわ」
「「いってらっしゃい」」
そして私は客間から出て、
ラミネス王太子が待つ東館へと向かった。
時折すれ違う侍女や兵士達が好奇な視線でこちらを見て来た。
「アレが噂の戦乙女か。 随分と若いな」
「とても綺麗な人ですわね。 まるで綺麗なお人形みたい」
「何でも王太子殿下のお気に入りらしいわよ」
聞こえよがしに周囲の者達がそう囁いた。
まあ悪口の類いじゃないから良いけど、
こんな風に妙に持ち上げられるのも少し気疲れするわ。
と思っていたら、前方に女性のエルフ族の集団の姿が見えた。
その集団の中心に立つ少女らしきエルフがこちらをじっと見えているわ。
髪の色は黄緑。 その見事な髪を頭の右側で結わってアップにして、
目は猫のように大きい。 手足も長く、顔立ちも非常に整っているわね。
身長は165前後というところかしら?
凹凸のハッキリとした身体のライン。
紺色の半袖のインナースーツの上に、
翠玉色の軽鎧を纏っているわ。
恐らくアレはミスリル製の軽鎧だわ。
背中にはエストラーダ王国の王家の紋章が刺繍された白マントを羽織っている。
そして私の視線に気付くなり、
眼前の美少女エルフがカツカツと軍靴で床を踏みしめながら、
こちらへと向かってきたわ。
「アナタ、もしかして噂の戦乙女かしら?」
「ええ、そうですわ」
「ふうん」
すると眼前の美少女エルフは値踏みするように、
私の全身をジロジロと無遠慮に凝視する。
まああまり気分が良いものではないけど、
この少女はかなり身分が高そうだわ。
「グレイス様!」
そこで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声の方に視線を向けると、そこには知った顔があった。
青い鎧に白のマントという格好の男性エルフ。
そう、エストラーダ王国の騎士団長エルネス殿だわ。
「あら? エルネス騎士団長、何かしら?」
「そちらの御婦人はアスカンテレスの戦乙女でございます。
仮にも王女であらされるアナタが無遠慮に接するのはお止めください」
「ふうん、やっぱり噂の戦乙女だったんだぁ。
私はエストラーダ王国の第二王女のグレイス・エストラーダよ。
噂の戦乙女さん、アナタのお名前を教えて頂けるかしら?」
……。
やっぱりね、でもまさか第二王女というのは予想外だわ。
あ、でも噂は聞いた事あるわ。
エストラーダ王国の第二王女は、見目麗しき美少女だが
男顔負けの冒険好きのお転婆姫。
という噂はこれまで何度か耳にした事があるわ。
まあそれはさておき、自己紹介はしておくべきよね。
「グレイス・エストラーダ王女殿下。
わたくしの名はリーファ・フォルナイゼンと申します。
以後お見知りおきを」
私はそう言って綺麗な姿勢でお辞儀する。
するとグレイス王女が微笑を浮かべた。
「へえ、なかなか礼儀正しいじゃない。
アナタ、もしかして元は貴族令嬢かしら?」
「……一応元侯爵令嬢です。
今は色々あって生家であるフォルナイゼン家を
私と周囲の従者と共に切り盛りしております」
「わおっ、元は侯爵令嬢なのね。
それが噂の戦乙女とはなかなかのドラマがありそうね!」
「……」
「グレイス様、戦乙女殿にも色々と事情があります。
故にそれ以上の詮索はお控えください」
空気を読んでエルネス団長がグレイス王女に窘めた。
するとグレイス王女は両肩を竦めて「分かったわ」と応じた。
……悪い人ではなさそうだけど、
少し好奇心が旺盛過ぎる性格のようね。
「ごめんなさいね、少しお喋りが過ぎたわ」
「いえいえ」
「今度の戦いに私も参戦するから、
戦場でのアナタとの活躍を期待しているわ」
「微力を尽します」
「そう、期待しているわよ。
あ、良かったら親睦を深める為にこれからお茶会しましょう。
ちょうど紅茶の良い茶葉が入ったのよ」
「すみません、これから人と会う予定があるのです」
「そう、それは残念ね。
ちなみに誰と会う予定かしら?」
……本当に良く喋るお姫様ね。
悪意はないんだろうけど、少し無神経ね。
だからここは牽制する意味でも王太子殿下の名を出しておこう。
「アスカンテレス王国のラミネス王太子殿下ですわ」
「へえ~」
するとグレイス王女はすっと両眼を細めた。
でも私も彼女から視線をそらさず、毅然とした態度を貫いた。
「グレイス様。 戦乙女殿をこれ以上、お引き留めする事はお止めください。彼女も困っているではありませんか」
「そうね、リーファさん。 呼び止めて悪かったわね。
でも私はアナタと仲良くしたいのよ、これは嘘じゃないわよ?」
「はい、勿論分かっております。
それでは私はもう行きますね」
「うん、また会いましょうね」
私はそう言ってこの場から去った。
う~ん、今後彼女と戦場で共に戦う可能性もあるのね。
まあその時は今のようにうまくあしらうのが一番ね。
何というか世間知らずのお転婆お姫様、って感じの人ね、
……まあいいわ。 彼女の事は今は忘れましょう。
そして私は軍靴でつかつかと床を踏み鳴らしながら、
王太子殿下のお部屋へ向かった。
次回の更新は2023年7月2日(日)の予定です。
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