第八十四話 新たな盟友
---三人称視点---
「ジュリアス将軍、戦乙女殿と御盟友をお連れしました」
東館の客間の扉の前でそう言う白兎の兎人。
すると扉の前の男性ヒューマンの衛兵二人も手にした戦槍を下ろした。
「……入りたまえっ!!」
中からジュリアス将軍の声が聞こえてきた。
すると案内役の白兎と黒兎の兎人が――
「では戦乙女殿、扉をお開きください」
「ええ……」
リーファは言われるがまま、
目の前の扉を開いて、客間の中へ入った。
客間の中は、黒と白を基調とした高級感のある内装であった。
円形の机と椅子、小さいシングルベッドが置かれている。
部屋の中には何匹かの兎人の姿が見える。
この部屋に小柄な獣人が護衛なしで一匹で寝るには、
少々心の許ないのかもしれない。
「――リーファ殿、お呼びだてして申し訳ない」
茶色がかったふわふわの体毛。
その上に着込んだ白いコートとズボンという服装。
品種はロップイヤー。
その兎人――ジュリアス将軍がリーファ達に視線を向ける。
「いえいえ、ところでジュリアス将軍。
わたくしにどういったご用件がおありでしょうか?」
するとジュリアス将軍は左手を顎に当てながら。
視線を左隣へと向けた。
リーファがその視線を目で追うと、
そこには知った顔があった。
毛の色は白。 体長は五十セレチ(約五十センチ)前後。
品種はレッキス。毛が短く髭が縮れているのが特徴的だ。
上下共にピンク色のチュニックとズボンという格好。
その背中に獣人サイズの黄金の弓と矢筒を背負っている。
「どうも、戦乙女殿とその御盟友。
アタシの事は覚えているかしら?」
「勿論覚えているわ。 ロミーナ、また会えて嬉しいわ」
「ええ、アタシも同じ気持ちだわさ」
「……ふむ、君達自身の相性も悪くないようだね」
「ジュリアス将軍、つまりは……」
と、リーファ。
「察しが良くて助かるよ。
そう、このロミーナを君の盟友に加えて欲しいのさ」
「……成る程」
リーファはそう言って、しばしの間、沈思黙考する。
恐らくジュリアス将軍は、
兎人の上層部に自身の身内を
戦乙女の盟友として、
派遣するように命じられたのであろう。
比較的温和な兎人ではあるが、
彼等の社会にも階級や身分制度、
そして政治的判断というものは存在する。
だが運が良い事にロミーナは優れた弓兵だ。
戦力的にも性格的にも問題はない。
だから彼女をパーティに加える事自体は、
リーファとしても戦力強化に繋がるから賛成の立場である。
しかしリーファはあえて慎重の姿勢を崩さない。
ここで安易にロミーナを仲間に加えたら、
似たような事がこれから先も何度も起こるであろう。
だからここはあえて勿体をつけてみせた。
「それは将軍の御意志ですか?
それとも兎人の上層部の御意志ですか?」
「……その両方と言えるだろう。
何だね? それだと何か問題でもあるのかね?」
「そうですね、私としましては、
あまり他国や他種族の政治的問題に巻き込まれたくないですね。
私はこの戦いが終われば、何処かの僻地へ引っ込んで
友人や従者共に楽隠居生活を送りたいと思ってます」
「うむ、そうか……」
「ですので彼女――ロミーナを仲間に加えるなら、
私もジュリアス将軍や兎人の上層部に約束して欲しい事があります」
「……それは何だね?」
「簡単ですわ、戦争後に私達が窮地に陥ったら、
ジュリアス将軍及び兎人の上層部のご助力が欲しいですわ」
「成る程、君は戦場においては、右に出る者が居ない程の女傑だが、
自分が置かれている状況を冷静に見る知性も持ち合わせているようだね」
「……それでご返事は?」
リーファは無表情でジュリアス将軍を見据える。
無言の圧力をかけるリーファだが、ジュリアスも将軍の端くれ。
そして彼はこの場における正しい選択肢を選んだ。
「うむ、我が名にかけて、君との約束を護らせてもらう。
もし何か困ったことが起きたら、私に相談してくれたまえ」
「……将軍、期待してますわよ」
「嗚呼……」
実際ジュリアス将軍が約束を護る保証はない。
だがこれで相手に対する牽制は出来た。
だからこの場においてはリーファも納得した表情を見せた。
「では早速今日からロミーナと組んでくれたまえ。
ロミーナ、君からもご挨拶なさいっ!」
「はい、改めまして自己紹介するわ。
アタシは聖弓兵のロミーナ。
見た目は小柄だけど、獣人としての器は大きいわよ!!」
「……宜しくロミーナ」
「「よろしく」」「よろしくワン」
ロミーナはそう自己紹介を終えると、
右手を差し出して、リーファ達と握手を交わした。
「それじゃ早速で悪いけど、
ロミーナ、貴方の能力値とスキル表を見せていただけるかしら?」
「そうさね、アタシの冒険者の証を見せればいいかな?」
「ええ」
「それじゃあ……」
ロミーナはそう言って、
自分の冒険者を証をリーファ達に見せた。
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名前:ロミーナ・ラスタール
種族:兎人♀
職業:聖弓兵レベル35
能力値
力 :145/10000
耐久力 :230/10000
器用さ :915/10000
敏捷 :1854/10000
知力 :490/10000
魔力 :1257/10000
攻撃魔力:976/10000
回復魔力:914/10000
※他職のパッシブ・スキル込み
魔法 :ヒール、ハイヒール、キュア、キュアライト
アクセル、アクセルドライブ、フライ、
ストーン、ストーンシャワー、アースハンド、
ロック・バレッド、クエイク、ビッグ・クエイク、
サイコキネシス、テレパシー、アポート、
レビテイト、サイキック・ウェーブ
スキル :結界、対魔結界、封印結界、ハイジャンプ
軌道変化、射撃命中アップ、投擲命中アップ、
武器スキル:各種属性矢、クイック・ショット、ダブル・ショット、
トリプル・ビート、スナイパー・ショット、影縫い、
メテオ・フラッシュ、セラフィム・アロー、
クイック・スロー、フレイム・スロー、
アイス・スロー、ウインド・スロー、
ライト・スロー、パワフル・カッター
能力 :ホークアイ、精神集中、魔力探査、
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「へえ、なかなか良い能力値ね」
「えっへん、こういう見えてアタシは出来る女なのさ」
「ならば彼女を仲間に加える事に問題はないかね?」
「ええ、ジュリアス将軍。 問題ありませんわ。
優秀な仲間をご紹介頂き、誠に感謝しております」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「じゃあ皆、改めてよろしくだわさ。
お互いに力を合わせて、帝国と戦うわよ!」
「「ええ」」「ウン」
こうして新たな盟友がリーファ達に加わった。
それ自体は歓迎すべき事であったが、
それと同時にこの王都エルシャインに各国の首脳部が集まりつつあった。
三日後の9月25日。
護衛を引き連れたアスカンテレス王国の王太子ラミネス。
それとアームカレド教国のアルピエール枢機卿が王都に到着。
その半日後に、エルフ族の代表として、
エストラーダ王国の第二王女グレイスと王国騎士団長エルネスも王都に到着した。
更に三日後の9月28日に、
神聖サーラ帝国のセットレル将軍とその護衛も到着。
また伝統の島国ヴィオラール王国からも若き宰相シークが派遣された。
これで各種族の代表がこの王都エルシャインに集結。
そして五日後にこのメンバーで大規模な会議が行われる。
会議の形式は円卓会議。
この会議の結果次第では、
この大陸――エレムダールの歴史が大きく変わろうとしていた。
だがそれと同時にこの事態を利用して暗躍しようとする者達の姿もあった。
連合軍と帝国軍の戦いも佳境に入り、
その表舞台、舞台裏でも事態が大きく動き始めていた。
次回の更新は2023年6月25日(日)の予定です。
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