第八十二話 成長の証(後編)
---三人称視点---
アストロスとジェインのスキル割り振りが終わり、
エイシルの番が回ってきたが、
彼女は左手の指で額を押しながら「う~ん」と唸っていた。
「エイシル、どうしたの?」
「あ、リーファさん、自分のスキルの割り振りを
どうするかで悩んでるんですよ~。
アストロスさんやジェインちゃんのように
パーティ戦で役立つ技や能力を覚えるか。
それとも自分の能力値や技を磨くか。
どっちにすべきか、と迷っている最中です」
「成る程、でもこういう場合は自分のやりたい方にするべきだわ。
パーティ戦も大事だけど、自分の能力を第一に磨く!
というのは冒険者としては大事な事よ」
「そう言われると少し気が楽になりました」
「エイシルちゃんは上げたい技や能力があるの?」
「ジェインちゃん、あるといえばあります」
「へえ、どんな感じに上げたいの?」
「え~と……それはですねえ~」
ジェインの率直な質問にエイシルも少し戸惑う。
相手に悪意がないのは分かるが、
控えめな性格のエイシルは、自己主張するのが少し苦手であった。
そんな空気を感じ取ったリーファが優しい声音で彼女に問うた。
「あまり私達に遠慮する必要はないわよ。
私達は仲間だけど、この戦いが終わればそれぞれ自国に
戻る事になるでしょう。 だから自分の能力値を上げることに
躊躇いや疚しさを感じる必要はないわよ」
「……そうでしょうか?」
「ええ、パーティも大事だけど、自分はもっと大事よ。
だから貴方の思うままに能力を上げるべきと思うわ」
「……お心遣い感謝します。
それじゃあボクの意見を述べさせてもらいます」
「ええ」
するとエイシルは「コホン」と軽く咳払いする。
そしてやや真剣な表情で自身の考えを述べ始めた。
「ボクもパーティ戦に役立ちたい、という気持ちはありますが、
今のスキルポイント50を全部、
賢者のパッシブ・スキル『叡智』に振っても
得られる職業能力が微妙なんですよ。
習得出来る職業能力『叡智の悟り』は、
自身の知力、それと攻撃魔力と回復魔力を上昇させる感じです。
ボクも「魔力覚醒」を覚えているので、
この能力を無理に覚える必要はないと思うんですよ」
「そうよね、エイシルは基本的に私の魔法攻撃に
自分の魔法攻撃を合わせる感じが多いから、
その能力を習得しても、
イマイチ使いどころがない気がするわ」
「でしょ? ですからボクは自身の魔法攻撃を強化したいんですよ」
「成る程、それで上げたい属性は決まってるの?」
リーファの問いにエイシルが控えめに「はい」と頷く。
「上げたい属性は風属性と念動属性です」
「へえ、ちなみに理由はあるのかしら?」
「はい、火炎属性と光属性はリーファさんも使えますが、
風属性と念動属性はリーファさんは使えませんよね?」
「ええ、そうね」
「だからリーファさんとの連携魔法を想定して、
自身の魔法力の強化したいと思います」
「成る程、それで風属性と念動属性な訳ね」
「はい、まずは攻撃魔法の項目・風属性に30ポイント振って、
帝王級の風属性魔法「サイクロン」を習得したいです。
そして残る20ポイントを念動属性に振って、
聖王級の念動属性魔法「サイコ・ブラスター」も覚えたいです」
「そう、なら早速振っちゃいなさいよ」
「そうですね、では……」
エイシルはそう云って、自分の冒険者の証に右手の人差し指で触れた。
すると『常時・攻撃魔力+50』をパッシブスキルとして習得。
そして帝王級の風属性魔法「サイクロン」、
聖王級の念動属性魔法「サイコ・ブラスター」を習得した。
「……振りました!」
「そう、じゃあ能力値とスキル表を見てみましょう」
「はい!」
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名前:エイシル・クインベール
種族:エルフ♀
職業:賢者レベル34
能力値
力 :159/10000
耐久力 :336/10000
器用さ :404/10000
敏捷 :525/10000
知力 :1946/10000
魔力 :3638/10000
攻撃魔力:2369/10000
回復魔力:2097/10000
※他職のパッシブ・スキル込み
魔法 :ヒール、ハイヒール、ディバイン・ヒール
キュア、キュアライト、ホーリーキュア
プロテクト、クイック、アクセル、
アクセルドライブ、フライ
ウォーター、アクア・スプラッシュ、アイスバルカン、
シューティング・ブリザード、大氷結、
ウインドカッター、ワールウインド、
アークテンペスト、トルネード、サイクロン、
ライトボール、スターライト、
ライトニングバスター、プラズマバスター
サイコキネシス、テレパシー、サイキック・ウェーブ、
サイコ・ブラスター、アポートetc
スキル :結界、対魔結界、封印結界、召喚魔法、転移魔法
武器スキル:スイング、ヘビースイング、スカル・クラッシュ
能力 :魔力探査、魔力覚醒、二重詠唱、三重詠唱
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「へえ、なかなかの数値になったわね。
魔法系の能力は私より上じゃない?」
「そりゃそうですよ。
紙装甲の賢者が万能職の戦乙女に
魔法系の能力で負けていたら、それこそ沽券に関わります」
「……それもそうね」
納得した表情でそう言うリーファ。
「でも大したものだよ、凄いよ」
「うん、オイラも凄いと思うワン」
「ありがとう、アストロスさん、ジェインちゃん」
「それじゃあスキルの割り振りはこれで終わりね。
となれば次は装備の新調と行きましょう。
まあ服や防具は前に高級仕立屋で
仕立ててもらったけど、武器に関しては新調した方がいいわ」
「お嬢様、それならば連合軍の武器庫へ行きましょう。
各国の補給部隊から送られた多数の武具があるようです。
戦乙女とその盟友なら恐らく無償で提供して貰えるでしょう」
「そうね、そうしましょう。
それじゃアストロス、武器庫まで案内して頂戴」
「はい、じゃあ皆、私の後について来てください」
そしてリーファ達は、酒場の注文代金を払って、
ギルドハウスから出るなり、冒険者区にある武器庫へと向かった。
次回の更新は2023年6月21日(水)の予定です。
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