第八十話 成長の証(前編)
---三人称視点---
聖歴1755年9月22日。
連合軍が王都エルシャインを制圧して、約二週間が過ぎた。
この王都で連合軍の今後の方針を決める会談が
行われる事が決定した為、エレムダール大陸の各地から
各国及び各種族の重鎮及び支配者層が集結しつつあった。
だがまだ全員が揃うには暫しの時間を必要としていた。
その合間を縫って、リーファ達は王都の冒険者ギルドに訪れた。
この王都エルシャインも他の都市同様に四つの区画で構成されている。
王都の下層エリアには、冒険者区と商業区。
王都の上層エリアには居住区と娯楽区といった区画で分けられていた。
「ここが王都の冒険者ギルドのギルドハウスか。
……王都のギルドハウスにしては小さいわね」
リーファはそう言って、眼前に立つギルドハウスを見上げる。
木造二階建ての白いギルドハウス。
リーファの言うように、王都エルシャインのギルドハウスにしては、
比較的小さな施設であった。
「まあほんの少し前までは帝国領だった訳ですし、
訪れる冒険者も帝国領の人間だけだったでしょうから、
他の王都や主要都市に比べたら、見劣りするのも仕方ないでしょう」
アストロスが言う事は正しかった。
基本的に冒険者という人種は、大規模な都市での活動を好む。
それ故に名のある冒険者の多くは、
連合軍加盟諸国の王都や主要都市を根拠地にしている。
逆に脛に傷を持つ者や犯罪者紛いの冒険者は、
こういった訳ありの場所で活動する事が多い。
逆説的に言うと訳ありの者以外は、
帝国領内で冒険者活動するメリットがない。
「う~ん、これはあまり期待出来そうにないですね。
でもスキル一覧表くらいは複写して貰えるでしょうし、
ボク達は適当な場所を借りて、仲間同士で相談すべきでそしょうね」
「うん、オイラもエイシルちゃんと同じ意見だワン」
「……そうね、そうしましょうか」
そう言ってリーファ達はギルドハウスに足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
入り口付近のウェイトレスらしき女性ヒューマンが明るい声で叫んだ。
どうやら他のギルドハウス同様に酒場が併設されているようだ。
そして思っていた以上に、中は混んでいた。
ヒューマン、エルフ族、ダークエルフ、竜人族。
更には犬族や猫族、兎人の冒険者の姿も所々で目に付いた。
どうやらこの戦乱時を生かして、「一旗当てよう」という連中が集まったようだ。
まあそれ自体は悪い事ではない。
冒険者という職種は得てして、そういう人種の集まりだ。
「ちなみに貴方達はレベルいくつになったのかしら?
私は……あら早いわね、もうレベル40だわ」
「お嬢様はもう40ですか、私は35ですね」
「ボクは34です」
「オイラは37だよ」
「へえ、皆も意外に上がっているわね。
これは頭を使って、スキルを割り振る必要がありそうね。
あ、そこのウェイトレスさん」
「はい? 何でしょうか?」
赤髪セミロングの女性ヒューマンのウェイトレスがそう聞き返す。
「きちんと注文もするから、
四人で座れる席を用意してもらえないかしら?」
「はい、ではこちらへどうぞ!」
そう言って女性ヒューマンのウェイトレスが
リーファ達を部屋の奥のテーブル席へ案内する。
そんなに広くはないが、
この広さなら話し合いするくらいの余裕はあった。
そしてリーファ達はオレンジジュース二つとミルク二つ。
それに加えてラムステーキとチキンステーキを注文した。
「とりあえずステーキは好きに食べていいわ。
ここの支払いは私の奢りよ!」
「「はい」」「やったぁっ!!」
それからリーファを除いた三人は、
ギルドの受付に並んで、
自分の職業のスキル表を複写してもらった。
そしてリーファ達はお互いのスキル表を見ながら、
注文した料理や飲み物に程よく口をつけて、お互いに意見交換した。
「やはり戦乙女の場合は、
全体の能力の底上げをすべきですよね」
と、アストロス。
「そうね、でも個人的には剣技と
パッシブ・スキルにスキルポイントを振って、
新しい剣技と職業能力が欲しいわ」
「成る程、ちなみに欲しい技や能力の目星はついてるのですか?」
「ええ、エイシル。 目星はついてるわよ」
「ふうん、お姉ちゃんはどんな風にスキルを割り振るつもりなの?」
「それはね――」
リーファはジェインの言葉に小さく頷いて、
スキル一覧表を片手に周囲の仲間に説明を始めた。
リーファの現時点のスキルポイントは全部で50。
その30ポイントを戦乙女のパッシブ・スキル『勇気』に振ると、
得られるパッシブ・スキルと職業能力は、
『常時・耐久力+40』と『常時・敏捷+40』。
それに加えて職業能力の『ゾディアック・フォース』を覚える。
『ゾディアック・フォース』は残りの魔力や闘気を振り絞って、
次に放つ攻撃スキル及び攻撃魔法を強化する職業能力だ。
また攻撃だけでなく防御にも使える。
更にその対象には、対魔結界や障壁も含まれる。
端的に言えば、余力を振り絞って、
次の攻撃や防御を強化するという能力である。
「ふん、ふん、確かに便利そうなスキルだね」
「でしょ? だからまずはパッシブ・スキルに30ポイント振ってみるわ」
リーファは自分の冒険者の証を指で触りながら、
スキルポイント30を戦乙女のパッシブ・スキル『勇気』の項目に割り振った。
すると『常時・耐久力+40』と『常時・敏捷+40』を習得。
更には帝王級の職業能力の『ゾディアック・フォース』も習得。
「うん、また力が沸いてくる感覚があるわ」
「それで残り20ポイントはどうするおつもりですか?」
「アストロス、残り20ポイントは剣技に注ぎ込むわ」
「……何か欲しい剣技でもあるのですか?」
「ええ、このスキル表を見て頂戴」
「……はい」
するとリーファが手にしたスキル一覧表には、
ギルド職員が描いたと思われるイラストがあった。
そのイラストから最初に袈裟斬り、逆袈裟を繰り出す。
それから薙ぎ払いの二連撃を放つという剣技のようだ。
スキル一覧表のイラストから見て、
最初に×の文字を刻んでから、
薙ぎ払いで二つの三角形を描くという聖王級の剣技。
剣技の名前は「ダブル・デルタスラッシュ」。
「成る程、一見複雑に見えて比較的シンプルな連続技ですね」
アストロスが感心した表情でそう言う。
するとリーファも微笑を浮かべて「ええ」と頷く。
「使い勝手の良さそうな技だから、
連続技や魔法との連携技にも使えそうね。
それじゃあ残り20ポイント全て割り振るわ」
リーファは冒険者の証を指で操作しながら、
残りスキルポイント20を剣術スキルに全振りした。
それによって『片手剣装備時・力+50』、
更に聖王級の剣技の「ダブル・デルタスラッシュ」を習得。
「……よし、覚えたわ」
「それじゃあ全ステータスとスキル表を見てみませんか?」
エイシルの提案にリーファも「そうね」と答える。
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名前:リーファ・フォルナイゼン
種族:ヒューマン♀
職業:戦乙女レベル40
能力値
力 :1185/10000
耐久力 :1930/10000
器用さ :975/10000
敏捷 :1612/10000
知力 :2180/10000
魔力 :3696/10000
攻撃魔力:2215/10000
回復魔力:2212/10000
※他職のパッシブ・スキル込み
魔法 :ヒール、ハイヒール、ディバイン・ヒール
キュア、キュアライト、ホーリーキュア
プロテクト、クイック、アクセル、フライ
フレイムボルト、ファイアバースト、フレアバスター、炎殺
ライトボール、スターライト、
ライトニングバスター、シャイニング・ティアラ
スキル :結界、対魔結界、封印結界、戦乙女の陣
戦乙女の波動、戦乙女の祝福、速射
武器スキル:イーグル・ストライク、ヴォーパル・ドライバー
ダブル・ストライク、トリプル・ドライバー
ハイ・カウンター、グランドクロス、
ライトニング・スティンガー、
ダブル・デルタスラッシュ、シールド・ストライク
正拳突き、ローリング・ソバット、掌底打ち
能力 :予測眼 分析眼 魔力探査 能力覚醒、魔力覚醒、
メディカル・リムーバー、ゾディアック・フォース
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「なかなかの数値ね」
「い、いえ……なかなかどころじゃないですよ」
と、アストロス。
「ほ、本当ですよ、かなりの高ステータスですよ」
と、エイシルも相槌を打つ。
「ウン、オイラよりも全然凄いだワン」
「そう? まあでも確かにそうかもしれないわね」
仲間に褒められて、リーファは心なしか上機嫌になる。
これでとりあえずリーファのスキルの割り振りは終わった。
「じゃあ次は貴方達のスキルの割り振りを行うわよ。
そうね、まずはアストロス! 貴方からしましょう」
「はい!」
そしてリーファ達は、アストロスのスキル一覧表を眺めながら、
再びお互いに意見交換を始めるのであった。
次回の更新は2023年6月17日(土)の予定です。
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