第七十八話 深まる謎
---主人公視点---
王族と宰相との謁見後。
私達は宿舎として開放されたエラール王宮に足を踏み入れた。
尚、士官以上の者がこの王宮に、
一般兵や冒険者及び傭兵の大半は、
王国軍の兵舎の一部、また王都内の宿泊施設に泊まる事となった。
どうやら私達は戦乙女とその盟友という事で、
王宮内に泊まる事を許されたようね。
エラール王宮は王城と同じように、
白を基調としており、建物全体から壮麗な雰囲気が漂っていた。
とりあえず私とエイシル、アストロスとジェインが
二人一組となって、女性の近衛兵に王宮内の客室に案内された。
「こちらが戦乙女様とそのご盟友のお部屋となります。
部屋には一通りの物が揃ってますが、
何か欲しい物があれば、部屋の外の近衛兵に命じてください」
「ここまでの案内ご苦労様」
「いえいえ、これも仕事ですので。
それでは私はこれで失礼します」
そう言って二十代半ばと思われる女性の近衛兵は踵を返した。
ちなみに王宮の東側に男性が泊まり、
西側に女性が泊まる形だ。
特別な用事でない限り、
異性の部屋へ行く事は固く禁じられていた。
まあこの辺を厳しくしないと、秩序が保てないから無理もない。
「じゃあエイシル、中へ入りましょう」
「はい」
私達の客室は白とピンクを基調とした豪勢な部屋だった。
ベッドカバーやソファまでも、
レースやフリルであしらわれており、
貴族の令嬢やお姫様の為に、用意されたような部屋だ。
「なかなか悪くない趣味ね」
「ええ、でもボクには少し不釣り合いです」
「それを言ったら私も同じよ。
こういう少女趣味は私には似合わないわ」
「……まあとりあえず荷物を置きましょう」
「そうね」
私達は部屋の隅に自分達の荷物を置いた。
それから私とエイシルは武装解除して、
武器や防具の類いも部屋の白い円卓の上に置いた。
調度品の類いも揃っているわね。
豪奢な白のシャンデリア、高そうな黒革のソファ。
そしてシングルサイズのベッドが二つ。
部屋の奥には、簡易式のシャワーボックスと
簡易式の脱衣所が用意されてるわ。
……そうね、少し汗を流したい気分だわ。
「エイシル、先にシャワーを浴びてよいかしら?」
「はい、ボクに気兼ねなくお使いください」
「ではお言葉に甘えるわ」
そして私は部屋の奥へ進み、
簡易式の脱衣所の前で着ていた黒のインナースーツを脱いだ。
その下には上下の白い下着という格好。
脱衣所の棚にピンクのバスタオルが置いていたので、
それを身体に巻いて、上下の下着を脱いで脱衣カゴに投げ込んだ。
女同士だけど、元貴族の令嬢として安易に他人に裸は見せたくないわ。
何というか羞恥心ってものは、こういう場でも大事にしたい。
それから私はピンクのバスタオルを脱衣カゴの上に置いて、
シャワーボックスの中へ入った。
そしてボックス内にある柱にあるボタンを押した。
固定式シャワーヘッドから適温のお湯が出て、私はそれを全身に浴びた。
これらのシャワーボックスも魔道具の類いらしいわ。
魔石を動力にして、水やお湯の温度を調整しているとの話。
それから私は両手で石鹸を泡立てて、泡で包むように全身を綺麗に洗った。
ここ数日におけるファーランドの戦いでは、
時々川で水浴びするくらいだったから、
こんな風に綺麗に身体を洗うのは久しぶりな気がするわ。
そしてシャワーヘッドから流れるお湯で全身の泡を綺麗に流した。
ふう、気持ちいいわ。
そこで私は一糸まとわぬ状態で自分の身体を見てみた。
まるで打撃系格闘技フィスティングの拳士のように、
全身が引き締まっていて、手足も長く運動に適した体型。
だけど女性として丸みを帯びる部分には、
しっかりと肉がついており、
バストサイズやヒップサイズも比較的大きい方だわ。
自分で言うのもアレだけど、
なかなか魅力的な身体つきと思うわ。
そこで私は左手で自分の左脇腹を摩る。
あの野蛮人――ラング将軍に傷つけられた左脇腹は、
今では傷跡一つなく、綺麗な肌を保っていた。
回復魔法に加えて、戦乙女の高い自己再生能力。
その双方の効果があって、怪我した部分も綺麗に治っていた。
そういえば、戦乙女になって初めて怪我らしい怪我をしたわね。
そう考えたらあのラングという男、かなりの実力者ね。
まあこう思う事自体が思い上がりかもしれないけど……。
だけど冷静に考えれば、
戦乙女という存在は色々と謎な部分が多いわ。
戦乙女は不老の存在だけど、不死ではない。
高い自己再生能力を持っているけど、
首を跳ねられたり、心臓などを破壊されたら死ぬでしょうね。
そして私が女神サーラと結んだ契約期間は十年。
この十年の任期を全うすれば、
私は普通の人間に戻れる筈だけど、
もしこの間に私が死んだらどうなるのかしら?
この世界――ハイルローガンにおいては生物であれば、
どのような存在も魂という概念を持っている。
つまり魔物や魔獣、更には人間を倒してたら、
その魂を吸収して、経験値などに変換される。
それによって吸収されたその魂は、
生前の記憶や経験などを失い、
無の状態となって、再び生物の肉体に宿り生を得る。
あるいは魔力の源の魔素になる。
というがこの世界における常識である。
でも仮にも女神との契約よ。
その契約期間を全う出来ず、死んだらまた他の生物に転生する。
……なんて事は恐らくないでしょうね。
となると私が出会った女神サーラ。
そしてあの肖像画の戦乙女は、
何らかの関係性がある、と思うわ。
とはいえ現時点では分からない事だらけね。
この辺の事は自分で地道に調べるしかなさそうね。
そこで私はシャワーを浴びる事を止めて、
シャーボックスの中から右手を伸ばして、
脱衣カゴの上のピンクのバスタオルを手に取った。
「いずれにせよ、この辺の謎を知る必要があるわ。
でもこれに関しては、アストロス達にも打ち明けない方が良さそうね」
それから私はバスタオルで入念に髪と身体を拭いた。
そして再び上下の白い下着を身につけて、
その上に黒のインナースーツを着込んだ。
「……終わったわ。 エイシル、貴方もシャワーを浴びたら?」
「そうですね、そうさせてもらいます」
そう言って今度はエイシルが脱衣所へ向かう。
私は近くのベッドに腰掛けて、しばし沈思黙考する。
……。
「強い力にはそれ相応の代償が伴う。
それは恐らく戦乙女も同じ筈よ。
とはいえ慌てては駄目、慎重に慎重を重ねて地道に調べるわ」
……とりあえずあの肖像画の戦乙女に関しての
逸話などをファーランドの人間から聞いてみよう。
でも勘ぐられては駄目。
それとなく聞き出すわ、それとなく……ね。
次回の更新は2023年6月11日(日)の予定です。
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