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第七十七話 既視感(後編)


---主人公視点---



 三百年前の戦乙女ヴァルキュリアと女神サーラ。

 その二人が何故瓜二つなのかは分からないわ。

 でも私の直感が言ってるわ。


 この人物と女神サーラは同一人物と。

 でもどうして戦乙女ヴァルキュリアと女神サーラが

 同一人物なのかはまるで検討がつかないわ。

 だけど何かとても嫌な予感がする。

 

「――殿、――殿」


 ……この謎を解くか、

 どうかで私の今後の人生が大きく変わる気がする。

 ……しかし現時点では何も分からないわ。

 

「――戦乙女ヴァルキュリア殿!!」


 そこで私は我に返った。

 気が付けば、ファーランドの宰相が怪訝な表情でこちらを見ていた。

 ……とりあえず今はこの件に関しては忘れましょう。


「……すみません。

 肖像画の女性があまりにも美しかったので、

 思わず見惚れてしまいした」


「成る程、でも戦乙女ヴァルキュリア殿も充分お美しいですよ」


「いえ、そんな事はありません」


 ……そうね。

 今は目の前の事に集中しましょう。

 これからファーランドの王族に会うという重大な任務があるわ。

 

「この扉の先の謁見の間にて第二王子のファン様。

 それと第一王女のオリビア様、第二王女のライム様が控えております。

 皆様、くれぐれも失礼のないように」


「……宰相殿、扉を開けてくれたまえ!」


「……了解です」


 シャーバット公子の言うとおり、宰相が目の前の大きな扉を開いた。

 そして私達はシャーバット公子を先頭にして、部屋の中に進んだ。

 謁見の間は他と同様に白を基調にした内装で、

 天井には見事なステンドグラスが張り巡らさていた。


 そして部屋の中央部に、

 金の刺繍が施された豪奢な赤い絨毯が敷かれていた。

 その赤い絨毯の終着点である玉座に、

 十代半ばと思われる少年が座っていた。


 サラサラの栗色の髪、眉目もそこそこ整っている。 

 豪奢な白いコートに黒のチュニックとスラックスという格好。

 そして頭に金の王冠を乗せて、玉座に座っている。

 恐らくこの少年が第二王子のファンなのでしょう。


「こちらがファーランドの第二王子のファン様です。

 皆様、ファン殿下にご挨拶をして――」


「皆、その必要はないぞっ!」


 宰相が喋り終える前に、

 シャーバット公子が言葉を遮るように大きな声で叫んだ。

 すると第二王子と宰相が両眼を見開き、驚いた表情をする。


「……公子殿下、どういうおつもりでしょうか?」


 責めるような視線を公子殿下に向ける宰相。

 だが公子殿下は動じる事なく、宰相に反論する。


「宰相、貴公は何か勘違いしてないか?

 我等は勝者、貴公等は敗者なのだ。

 だから王族とはいえ勝者が敗者に媚びる必要などない!!」


「なっ……」


 絶句する宰相。

 その姿を見て女性騎士レイラも後に続いた。


「私も公子殿下と同じ考えであります!

 ラステバン宰相、卿等けいらは云うならば帝国と国王に

 捨てられた存在。 ご自分の立場をよくよく考えてもらいたいっ!」


「……」


 たちまち無言になる宰相。

 このレイラという女性はなかなか気が強いわね。

 まだ二十代なのに、騎士団長代理を任されたのも頷けるわ。


「自分も公子殿下と同じ意見です」


「ニャ、ならボクも同じ意見だニャン」


 ジュリアス将軍とニャールマン司令官も後に続く。

 でもニャールマン司令官。

 ここで語尾に「ニャン」をつけるのはどうかと思うわ。


「……まず名乗るならそちらから名乗りたまえ!」


 追い打ちをかける公子殿下。

 すると宰相及び玉座の王子。

 そしてその右隣に立つ水色のドレスを着た十代半ばの少女。

 左隣に立つ十歳前後の黄緑のドレス姿の少女の表情が固まっていく。


 どうやら彼等も自分の立場をわきまえたようね。

 公子殿下、少し見直したわ。

 これで場の主導権はこちらが握ったわ。


「……分かりました、ではファン王子。

 まずはご自分の自己紹介をお願いします。

 その後でオリビア様とライム様も……」


「う、うん」「「は、はい」」


 硬い表情でそう答える王族三人。

 そして玉座に座るファン王子が弱々しい声で自己紹介を始める。


「ぼ、ボク……わ、私がファーランドの第二王子ファンである。

 い、以後お見知りおきを……」


「わたくしは……第一王女のオリビアですわ」


 王子の右隣に立つ水色のドレスを着た少女がそう名乗り上げた。

 彼女が第一王女のオリビアね。


「わ、わたくしは……第二王女のライムでございます」


 今度は王子の左隣に立つ左隣に黄緑のドレス姿の少女が

 ぎこちない動きで両手でスカートの端を掴み淑女の礼(カーテシー)をする

 第二王女の方がしっかりしてるわね。


「ふむ、ではこちらも名乗り上げましょう。

 私はパルナ公国の第一公子のシャーバットです。

 こちらが兎人ワーラビットのジュリアス将軍。

 猫族ニャーマンのニャールマン司令官です」


「よろしくお願いします」


「よろしくニャン」


「そしてこちらの女性が教会騎士団の騎士団長代理のレイラ殿。

 それと若き戦乙女ヴァルキュリアのリーファ殿です」


「よろしく……」


「以後お見知りおきを……」


 とりあえず私は無難な返事をしておいた。

 だが自己紹介を終えても、

 ファーランドの王族と宰相は堅い表情をしていた。

 そして追い打ちをかけるようにシャーバット公子が――


「それでラステバン宰相。

 あなた方はどうなされるつもりですか?」


「……それはどういう意味でしょうか?」


「では端的に言いましょう。

 あなた方には連合軍の支配下に入ってもらいます。

 ですが自治権は認めます。 但しその条件として

 国外逃亡した国王を廃位して、ファン王子を

 ファーランド新政府の代表として新国王に即位してもらいます」


 成る程。

 公子殿下もなかなかの交渉上手ね。

 外堀から埋めて、それでいて相手にもメリットを提供する。

 所謂、飴と鞭ね。


「そ、それは私の一存では……」


 と、宰相が言葉を濁す。

 すると公子殿下は今度は優しい口調で語りかけた。


「新政府の代表は新国王のファン様となりますが、

 政務及び軍務の代表者としてラステバン宰相にも

 新政府のもとで働いてもらう事になるでしょう」


「わ、私に新政府の許で働けと仰るのですか?」


 宰相の問いに公子殿下が「ええ」と頷く。

 すると宰相はしばし沈思黙考する。

 恐らく頭の中で色々考えているのでしょうね。

 でもここまで来たら彼も首を縦に振るしかないわ。


「……少しお時間を頂けませんか?」


「そうですね、では一週間の猶予を与えましょう。

 その間に宰相殿、そして王族の御三方で、

 今後の身の振り方をお決めください」


「は、はい」


「それと……」


「な、何でしょうか?」


「いえ我々、連合軍の士官や兵士が寝泊まりする宿舎が欲しいのですが……」


 すると宰相はしばらく考え込んでから――


「で、でしたらエラール王宮の一部の客室。

 それとファーランド王国軍の兵舎の一部。

 また王都内の宿泊施設を開放しましょう」


「ありがとうございます」


「い、いえ……」


「では宰相殿、一週間後に!

 良いお返事をお待ちしております。

 それでは皆さん、我々も今後の方針を決めましょうか」


「「「はい」」」「はいニャン」


 公子殿下の言葉に私達も声を揃えて返事した。

 とりあえず寝床は確保出来たわね。

 今回の戦いはかなり激しかったから、ゆっくり休みたいわ。


 でもあの戦乙女ヴァルキュリアの肖像画も気になるわね。

 女神サーラとどんな関連性があるのか。

 個人的に探りを入れてみる必要があるわね。


 そして私達はシャーバット公子を先頭にして、

 胸を張りながら勝利者気分で、王城を後にした。


次回の更新は2023年6月10日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 リーファの注目が、肖像画に全部向いていますね。 「欲しい」だなんて言って、家に持ち帰り愛でてるリーファ... そして、王族に優しさのカケラもみせないシャーバット公子。…
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