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第七十六話 既視感(前編)


---三人称視点---



 聖歴1755年9月7日。

 連合軍はファーランドの王都エルシャインの制圧に成功。

 そして国旗や教会旗を翻して、王都を闊歩する連合軍の兵士達。


 エルシャインの住民達は、

 住居の二階からその姿を息を呑んで見守っていた。

 この王都の統治者が帝国から連合軍へと変わる。


 その事実が彼等を不安にさせていたが、

 連合軍の総司令官シャーバット公子は、

 全軍の兵士に「市民への暴行と略奪行為」の禁止を命じていた。


 それに不満を覚える兵士も少なくなかったが、

 シャーバット公子が部下に命じて、

 徹底して「暴行と略奪行為」が起きないように監視していた。


 その結果、王都内では「暴行と略奪行為」が殆ど行われなかった。

 無論、それでも何件かは起きたが、

 シャーバット公子は違反者を王都の広場で

 革の鞭による「百叩きの刑」の実行して、

 王都の住民の溜飲を下げる事に成功。


 また一万人を超える捕虜に関しては、

 王都に数カ所ある地下牢に投獄して、

 捕虜として最低限の扱いをする事を保障した。

 これによって王都の住民達も連合軍に対して、

 歓迎ムードで迎える事になった。


 一方、その他の地域で戦っていた連合軍に関しては、

 ラミネス王太子率いる第一軍は、

 ロスジャイト方面で小競り合いは何度か続けたが、

 それ以上、戦火を広げる事なく、膠着状態を保っていた。


 オルセニア将軍率いる第二軍もペリゾンテ王国の

 国境付近のユリス川を挟んで、

 ペリゾンテ王国軍と睨み合いを続けたが、

 結局どちらも攻撃する事なく、最後まで戦闘が開始される事はなかった。


 こうして今回における連合軍と帝国軍の戦いは、

 またしても連合軍の勝利に終わり、

 連合軍はジワジワとではあるが、帝国領に包囲網を築きつつあった。


 そしてシャーバット公子は勝利者の権利を行使して、

 部下達を引き連れて、王城エルシャインの中に足を踏み入れた。

 すると王城の入り口でファーランドの宰相ラステバン、

 それと白いドレスを着た十人前後の美女達が彼等を迎い入れた。

 黒い礼服を着たラステバンが綺麗なお辞儀をする。


「連合軍の皆様、私はファーランドの宰相ラステバンであります。

 我々はあなた方に対して、全面降伏を致しますので、

 なにとぞ寛大なご措置をお願い申し上げます」


「お願いします」


 と、宰相の周囲の美女達もお辞儀して頭を下げる。

 だがシャーバット公子はそれで気を許す事はなかった。

 シャーバット公子は周囲を見渡して、宰相に問うた。


「宰相殿、この王城に残された最高責任者は貴公かね?

 ファーランドの王族は残されてないのかね?」


「そ、それは……」


「私の質問に素直に答えたまえっ!」


 鋭い口調でそう問うシャーバット公子。


「……二階の謁見の間で第二王子のファン様と

 第一王女のオリビア様、第二王女のライム様が

 皆様をお待ちしております」


「……国王と王妃、それと王太子は何処へ行ったのかね?」


「……国王陛下と王妃陛下、王太子殿下は帝国領へ逃亡なされました」


「成る程、つまり国民を見捨てて、国外逃亡した訳か」


「……我々にはもう連合軍に逆らう力はありません。

 都合の良い話かもしれませんが、

 残された王族や王都の住民には、罪はありません。

 ですのでどうか寛大な処置を……」


 低姿勢を貫く宰相ラステバン。

 そんな彼の姿にシャーバット公子も「ふう」と小さく嘆息する。

 ここで宰相を責めても仕方ない。


 とはいえ必要以上に優しくする必要もない。

 こういう連中はいざとなれば、すぐに掌を返す。

 だからシャーバット公子も必要以上に彼等を甘やかす気はなかった。


「……まあとりあえず残された王族と会いましょう。

 ジュリアス将軍、ニャールマン司令官。

 それとリーファ殿とレイラ殿も私について来てください」


「「「「はい」」」」


 シャーバット公子の言葉に声を揃えるリーファ達。

 すると宰相ラステバンは笑顔を崩さないまま、

 猫なで声でシャーバット公子達に話掛けた。


「では私が案内しますので、

 私の後について来てください」


「うむ、では行こうか」


 シャーバット公子とその盟友は宰相に言われるまま、後についていった。

 王城の内装は白を基調としており、

 所々に置かれている調度品や美術品にも品が有り、

 全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


(……悪くないセンスね)


 と、二階に上がる階段を登りながらそう思うリーファ。

 彼女の傍には教会騎士団の騎士団長代理を任された

 女性騎士レイラ・ラインベルグが並んで歩いていた。


 身長は女性にしては高い方だ。

 168セレチ(約168センチ)のリーファよりも高そうだ。

 髪は銀髪のセミロング。 

 秀麗な眉目だが目つきは、やや鋭くて冷気を帯びていた。


 おまけに白皙、手足も長く女性的な丸みを帯びた

 体型でありながら、引っ込んでいるところは引っ込むという理想の体型。

 そして黒のインナースーツに白銀の鎧に背中に白い外套マントという格好。


「……戦乙女ヴァルキュリア殿、私に何かご用ですか?」


 レイラが低い声でそう聞いてきた。

 気が付いたら、彼女と視線が合っていたようだ。


「いえ……何もありません」


「そうですか、ならば良いです」


「……」


 見た目通りクールな性格のようね。

 でもこの若さで騎士団長代理を任されるのだから、

 剣術や武術だけでなく、きっと家柄も良いのだろう。

 などと思いながら、階段を登り終えて王城の二階の廊下を歩くリーファ。


 するとに廊下の壁に全高二メーレル(約二メートル)はあろうと思われる肖像画がかけらていた。 黒いインナースーツの上に黄金の鎧を着た女性の肖像画だ。艶やかなプラチナシルバーのロングヘア、眉目は当然秀麗。また気品も有り、見る者を魅了するような甘美な雰囲気を漂わせた女性の肖像画。その時、リーファはどことなく既視感を感じた。


(何処かで見た顔だわ)


 彼女が怪訝な表情でそう思っていると、

 宰相ラステバンがリーファに視線を向けて、語りかけた。


「ああ、こちらの肖像画の女性は、

 三百年前に我が国を救ってくれた戦乙女ヴァルキュリアでございます。

 彼女のおかげで我が国は、デーモン族の圧政から解放されたのです。

 やはり同じ戦乙女ヴァルキュリアという事で惹かれ合うものがあるようですね」


「……成る程、そうでしたか」


 その時、リーファの背中に電流が走った。

 そしてもう一度目をこらして肖像画を覗き込んだ。

 そこでリーファは突如思い出した。


 そう、この肖像画の女性と似た人物と会った事がある。

 忘れもしない。

 リーファが戦乙女ヴァルキュリアに覚醒した時に

 出会った女神サーラと瓜二つなのだ。


(……こ、これはどういう事なの!?)


 衝撃の展開にリーファは戸惑いを隠せなかった。


次回の更新は2023年6月7日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 偶像崇拝の為、便宜上先代の戦乙女を「女神サーラ」として祀っているのか... それとも、女神サーラが人間に干渉して何かをする際に「戦乙女」と言う立場を利用したのか... …
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