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第七十五話 エルシャインの大攻防戦(後編)


---三人称視点---


「まだだ! まだ戦いは終わってない。 何としても王都を護るんだぁっ!

 さあ勇気ある帝国兵よ、皇帝陛下と帝国の為に共に戦おうではないか!」 

 

 王都防衛部隊の指揮権を任されたミカエル・レイ将軍が大仰な口調でそう叫んだ。

 最早、戦いの勝敗はついた。

 だがこの王都エルシャインには、まだ多くの一般人が居残っていた。


 だから勝ち目のない戦いと云えど、レイ将軍は戦う事を選んだ。

 とはいえ彼も犬死にする事には躊躇いを感じていた。

 先に撤退したタファレル将軍から――


「戦死する前に投降せよ」

 

 と言付けを預かったが、

 レイ将軍は限界まで戦うという選択肢を選んだ。

 それは皇帝や帝国に対する忠誠心というとりかは、

 自身の武人としての矜持だったかもしれない。

 結果的にそれが彼の運命を大きく変える事となった。


「――弓兵アーチャー狙撃手スナイパー部隊に中衛からの狙撃を命じよ!」


 後衛の本陣に陣取るシャーバット公子がそう命じた。

 すると彼の副官であるチワワのエーデルバインが周囲の者達に指示を下す。


「――前衛部隊は中央を空けよ!

 そして中央が空いたら、弓兵アーチャー狙撃手スナイパー部隊は狙撃せよっ!」


「了解です、弓兵アーチャー部隊。 準備完了です」


狙撃手スナイパー部隊、同じく準備完了であります」


「よし、ならば撃て! 撃ちまくるんだ!」


 前線で兵を指揮していたジュリアス将軍が号令を下す。

 すると無数の射線となった矢と銃弾が帝国兵の甲冑や肉体に突き刺さる。

 

「怯むな! 一度後退して体勢を立て直すんだぁっ!

 その間に魔導師部隊は対魔結界と障壁バリアを張るんだ!」


 後方からそう指示を飛ばすレイ将軍。

 帝国兵は将軍の指示に従い、

 乱れた陣形を立て直そうと一端、後退を試みたが、

 連合軍の第二射がまたもや帝国兵を襲った。 

 再び斉射された矢と銃弾が次々と帝国兵の肉体を貫く。


「――よし、今だ! 前衛部隊を前に押し出して白兵戦に持ち込むワン!」


「――前衛部隊、前進して白兵戦を挑めっ!」


 総指揮官に命じられた連合軍の前衛部隊は、

 勝利を確実なものにするべく果敢に戦いを挑んだ。

 リーファとアストロス、ジェインも彼等の後に続いた。

 

「チェンバレン総長の仇を討つぞ! 教会騎士の矜持を見せてやれっ!」


 そう大声で叫ぶのは、教会騎士団の騎士団長の代理を任された

 二十八歳のヒューマンの女性騎士レイラ・ラインベルグであった。

 

 レイラはリーファ達と同様に自ら陣頭に立ち、

 その卓越した剣術で帝国兵を斬り捨てて行く。 

 凍てつくような殺意を帯びたレイラの斬撃が次々と帝国兵を切り裂いた。 


 帝国兵達もレイラの襲撃に果敢に応戦するが、

 振り下ろした大剣や戦斧は空を切り、

 その次の瞬間に大剣や戦斧を手にした腕が切り落とされた。


 死の恐怖と激痛に喘ぐ帝国兵の頭部にレイラの銀の長剣が振り下ろされ、

 兜ごと頭蓋骨が撃ち砕かれる。 レイラの剣が空を水平に切り裂く、

 弧を描くと一連の動作を幾度も繰り返し、

 帝国兵を次々と切り裂き、死体の山を築き上げる。


「私達も後に続くわよっ!」


「了解です」「了解だワン!」


 レイラの姿を目の当たりにしてリーファ達も競争意識を刺激されて、

 彼女の後に続くように手にした聖剣や武器を振るう。 

 レイラに勝るとも劣らない勢いで、

 リーファとアストロスも髪を翻しながら、

 速度と殺気に満ちた斬撃を繰り出す。


 連合軍の精鋭部隊と相対した帝国軍の残存部隊は、

 勢いづいた連合軍の猛攻に耐えながら闘志を振り絞った。

 また王都エルシャインの住民も両軍の戦いを息を呑んで傍観していた。


 王都内に残った住民の反応は様々であった。

 帝国軍と共に戦う住民も居れば、

 ただ嘆くばかりで現実から眼を逸らす住民も少なくなかった。

 だがこれ以上、無駄な犠牲は出したくない。

 そう思ったリーファは、

 戦いに終止符を打つべく、新たな行動を起こした。


「これ以上、戦闘を長引かせると、

 王都の住民の被害が増える一方ね。

 だからその前に決着をつけるわ、ランディッ!」


 リーファがそう呼ぶと、

 霊体化していたランディが「ポン」という音と共に

 実体化してリーファの左肩の上に着地する。


「リーファ殿、どうするつもりだ?」


「敵の親玉を探し出して、魔法で一気に蹴散らすわ。

 だからランディ、貴方は魔力探索マナ・サーチ

 敵の親玉を探索サーチして頂戴っ!!」


「了解した! 魔力探索マナ・サーチ、開始っ!」


 そう叫んでリーファの左肩から地面に着地するランディ。

 そして次の瞬間、ランディの身体が目映い光に包まれた。

 リーファは探索サーチ待ちの時間を無駄にせず、

 職業能力ジョブ・アビリティ『能力覚醒』を発動する。


「――能力覚醒っ!!」


 これによってリーファの能力値ステータスが倍加された。

 そして丁度良い具合にランディの探索サーチが完了した。


探索サーチ完了。 約六百メーレル(約六百メートル)先に

 強い魔力反応が多数ある、恐らく敵将とその護衛部隊のものだろう。

 方角は十二時方向、魔力反応の数は二百から二百五十だ」


「二百五十ね、何とかなりそうな数ね。

 じゃあランディ! 「ソウル・リンク」で行くわよ!

 ――ソウル・リンクッ!!」


「了解だ、リンク・スタートォッ!!」


 そしてリーファとランディの魔力が混ざり合い、

 リーファの能力値ステータスが更に跳ね上がった。


「――フライッ!!」


 それと同時に飛行魔法「フライ」を唱えて、空中に浮遊する。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『シャイニング・ティアラ』ッ!!」


 リーファは両手に魔力を集中させて、大声で叫んだ。

 次の瞬間、リーファの両手から眩く輝いた光炎フレアが放出された。

 聖人級の光と炎の合成魔法。 

 更に「能力覚醒」と「ソウル・リンク」で威力が強化された必殺の一撃。

 

 眩く輝いた光炎フレアが激しく渦巻いて、

 600メーレル(約600メートル)先の地面に着弾した。

 そして光と炎が交わり、魔力反応「核熱」が発生。


「な、何だぁ! て、敵の攻撃か!?

 だ、誰かっ……対魔結界を張れっ!!」


 思わずそう叫ぶレイ将軍。


「ま、間に合いませんっ!!」


「く、クソッ! ガースノイド帝国に栄光あれえぇっ!!」


 光り輝く炎によってレイ将軍の全身が焼き尽くされる。

 炎は光と交わり、勢いよくレイ将軍だけでなく周囲の兵士達の身を焦がした。

 駄目だ、もう助からない。

 そう悟ったレイ将軍は死を覚悟した。


『――戦死する前に投降せよ』


 死の間際、タファレル将軍の言葉がレイ将軍の脳裏にぎった。

 やれやれ、格好つけるんじゃなかった。

 とはいえ捕虜になるのも癪に障る。

 ならばこの場で朽ち果てるのも悪く……ない。


「し、将軍、レイ将軍! 大丈夫ですか!?」


 一人の長身痩躯の兵士がレイ将軍のもとに駆け寄り、安否を確かめる。

 

「……い、いや……も、もう駄目だ。

 だ、だから最後に命令を下す。

 い、生き残った兵士達は……素直に投降せよ……」


 全身に火傷を負った状態でそう告げるレイ将軍。

 それと同時にレイ将軍は両眼を瞑った。

 

「し、将軍! 眼を開けてくださいっ!」


「……」


 しかしレイ将軍が再び口を開く事はなかった。

 そしてそのまま彼は帰らぬ人となった。

 それを悟った長身痩躯の男は、

 むくろとなったレイ将軍に対して敬礼のポーズを取った。


「もうこれ以上の抵抗は無駄だ。

 ……我々はここで投降する。

 私はどうなっても構わないが、

 部下達には寛大な処置をお願いしたい」


 長身痩躯の男が両手を上げながら、そう懇願する。

 すると騎士団長代理のレイラが周囲の魔導師達に――


「これより投降した敵を拘束及び捕縛する。

 投降者は捕虜として丁重に扱うように!

 とりあえず土魔法で生成した石の手錠で捕虜共の両手を拘束しておけ」


「了解です」


 そして帝国の捕虜達は連合軍の魔導師達が生成した石の手錠で、

 両手を拘束された。その後、連合軍が上層エリアを完全に制圧した。

 殆どの者が戦う事を諦めて、投降してきたが、

 一部の者は最後まで抵抗したので、やむなく処断した。


 こうしてファーランドにおけるは戦いは、連合軍の勝利という形で終わった。

 だが多くの犠牲者を出したのも事実。

 今回の戦い……「エルシャインの大攻防戦」による戦死者は、

 連合軍1万7788人に対して、

 魔王軍は3万8433人という数字が示すように厳しい戦いとなった。


 聖歴1755年9月7日。

 連合軍は帝国軍と十数時間に及ぶ激しい攻防戦を繰り広げて、

 王都エルシャインを陥落させた。 

 また帝国の残存兵力を壊滅、捕縛して反撃の波を完全に潰えさせた。


 こうして王都エルシャインは、連合軍の手によって制圧された。

 連合軍、帝国軍の多大なる犠牲の元に……



次回の更新は2023年6月4日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] ついに終幕。 やはり、この戦いではラングが強かったですね。 レイ将軍、目立った活躍は無かったけど帝国総督府のレイ将軍に心酔していたキャラが復讐───なんてのもあり得るかも? それにしても…
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