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第七十四話 エルシャインの大攻防戦(中編)


---三人称視点---


 湧き起こる怒号と歓声。

 連合軍の兵士達は、王都の下層エリアに居た帝国兵に容赦なく斬り掛かり、

 「王都エルシャインを陥落せよ!」と叫んで怒涛の進撃を続ける。


「クソッ! これ以上、先を進ませるな!」


「この王都を何としても死守するのだ!」


「嗚呼っ! 帝国万歳、皇帝陛下万歳っ!」


 下層エリア内の帝国軍の隊長や兵士達が声を荒げて叫ぶ。

 そんな中リーファも盟友を引き連れて、

 最前線で帝国兵を次々と蹴散らしていく。


「ダブル・ストライクッ!!」


「ピアシング・ドライバー!」


「ダブル・スマッシュだワンッ!」


「ぐはあっ!!」


 リーファ、アストロス、ジェインがスキルを繰り出して、

 周囲の敵を次々と斬り捨てて行く。 

 既に数十人以上倒したが、周囲にはまだ帝国兵がたくさん残っていた。


「リーファさん、魔力は大丈夫ですか?」


「エイシル。 ええ、大丈夫よ」


「ならばボクと共に魔法攻撃を仕掛けてください。

 但し民家などの建物を燃やさないように、光属性でお願いします」


「了解よ」


 エイシルとリーファがそう言葉を交わした。

 そして彼女達はアストロスとジェインに護られながら、

 呪文の詠唱を始めた。


「我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!

 我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」 


 リーファがそう呪文を紡ぐなり、

 リーファの左腕に強力な魔力を帯びた光の波動が生じる。 

 そしてリーファは呪文を更に唱えた。

 

「そして天の覇者、光帝よ! 我が身を光帝に捧ぐ! 

 偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 そこでリーファは左腕を力強く引き絞った。

 攻撃する座標地点は、前方の敵部隊の中心部に狙いを定める。

 そしてリーファは右手で素早く印を結んで、大声で叫んだ。


「光よ、敵を貫きたまえっ! ――ライトニングバスター!!」


 次の瞬間、リーファの左手から迸った光のビームが放たれる。

 数秒後、敵部隊の中心部に光のビームが着弾。 

 神帝級しんていきゅうの光属性の攻撃魔法。

 

 着弾した光のビームはドーム状に膨れ上がって、

 耳朶を打つ爆音と爆風と共に、

 大地震が起きたように大地を激しく振動させた。


「ぎ、ぎゃあああ……あああぁっ!?」


「や、ヤバい! み、皆逃げろぉぉぉっ!!」


「た、対魔結界を……うあああぁっっ!」


 着弾地点の周囲から、悲鳴と絶叫が上がり、帝国兵が次々と絶命する。

 今の一撃だけで百五十人以上の敵兵を倒す事に成功。

 だがこれで終わりではない。

 エイシルが追い打ちをかけるべく、魔法攻撃で追撃する。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 行くよっ! 『トルネード』!!」

 

 そしてエイシルが呪文を唱えると、

 前方の敵部隊の周辺の大気が激しく揺れ動いた。

 それから風が起こり、砂がうねり、竜巻状に激しく嵐のように渦巻いた。

 生み出された砂嵐は前方の敵部隊を強引に包み込み、暴力的に渦巻く。

 「トルネード」は聖王級の土と風の合成魔法。

 

 先程、リーファが放った光属性魔法と交わり、

 魔力反応『神砂嵐かみずなあらし』が発生する。

 その効果も相まって、魔法攻撃が更に強化されて、

 先程の一撃と合わせて、

 三百五十人以上の帝国兵の命の灯火が一瞬にして消えて行く。


「流石はお嬢様とエイシルだ、まさに阿吽の呼吸!」


「うん、凄いだワン」


 二人の完璧な連携魔法にアストロスとジェインも感嘆の声を漏らす。

 すると周囲の味方部隊の魔導師達も後に続いた。


「ワールウインドだニャンッ!」


「ブレードカッターッ!!」


「ストーンシャワーだピョンッ!」


 獣人族の魔導師達がそれぞれ攻撃魔法を放って、

 帝国兵に対して更に追い打ちをかける。

 これによって帝国兵は更なるダメージを受けた。


戦乙女ヴァルキュリア殿の後に続くぞ!」


「おお! 教会騎士の意地を見せてやれっ!」


「ドーベルマン部隊、突撃します!」


「同じくシェパード部隊も突撃しますっ!!」


 怒声と悲鳴が入り乱れた戦いの中、

 兵士達はひたすら敵兵を斬り捨てる。

 連合軍の兵士達は闘志を滾らせて、絶叫しながら戦いを繰り広げた。

 兵士達の呻き声と断末魔、折れ飛ぶ剣や槍や斧の鈍い金属音が響く。


 五十分後。

 連合軍は王都エルシャインの下層エリアをほぼ制圧した。


---------


「……どうやら王都も陥落間際のようだな」


 ラング将軍は、王城エルシャインのバルコニーから、

 双眸を細めながら、戦況を静かに見守っていた。

 またしても我が軍の敗北か、という気持ちが沸き上がり、

 ラングは不愉快な現実に苛立ちを募らせる。


「総司令官殿、失礼致します」


 聞き覚えのある声が王城のバルコニーの入り口付近から聞こえてきた。

 その声の主であるタファレル将軍は、

 視線を動かして、ラング将軍を見据える。


「タファレル将軍、私に何の用だ?」


「王都エルシャインも既に陥落間際です。

 ですからラング将軍は、地下室の転移魔法陣を使って、

 王都からお逃げください」


「多くの部下を残して逃げろと申すのか?」


「ええ、命あっての物種です。

 それに将軍の為に死ぬのであれば、兵も本望でしょう」


「しかし王都エルシャインが敵の手に落ちれば、

 帝国本土に連合軍が攻め込むのも時間の問題だろう」


「ええ、なので来たるべき本土決戦に向けて、

 我々も戦いの準備を行う必要があります」


 まさか帝国本土を攻め込まれる日が来るとはな。

 これは連合軍が強いのか、それとも帝国が弱いのか?

 ……恐らくそのどちらにも要因があるのだろう。


 とはいえこの状況で、何もしない訳にはいかない、

 とラング将軍も内心でそう思う。


「分かった、では私はこの王都から撤退する事にしよう。 

 タファレル将軍、貴公も私と一緒に撤退する事を命じる。 

 それとファーランドの国王と王妃、それと王太子も

 この場から待避させるぞ」


「御意、連れて行く王族は国王と王妃、王太子の三人だけですか?」


 と、タファレル将軍。

 

「嗚呼、必要以上に他国の王族を帝国本土で匿うのも良くなかろう。

 残された王族は恐らく連合軍の人質になるだろう。

 そうなれば人質を餌にして、国王や王妃を我等の思うがままに

 操る事も可能だ。 まあ案外自分達の安全が保証されたら、

 他の王子や王女の事など気にかけぬかもしれんがな……」


「尚、我々の撤退後の王都の防衛部隊の指揮権は、

 レイ将軍に移します。 彼もその事を承諾しています。

 誰が残るにしろ、誰かが責任を取る必要がありますので」


「……そうか、レイ将軍に「戦死する前に投降せよ」と

 伝えてくれ、彼はここで死なすには惜しい人材だ」


「了解です、彼にはそう伝えておきます。

 それでは我々は地下室の転移魔法陣へ向かいましょう」


「分かった、では行くとするか」


「はい」


 そしてラング将軍は、

 タファレル将軍とファーランドの王族三人を引き連れて、

 転移魔法陣がある王城の地下室へと向かった。

 非常事態に備えて帝国領の城では、

 転移魔法陣が設置されている場合が多かった。


 今回の場合に関しては、

 この王都エルシャインから直接、帝都ガルネスに転移する訳ではない。

 帝都と王都エルシャインの中間拠点にある地下迷宮の一室に一度転移する形だ。


 それからまた地下迷宮の転移魔法陣から、帝都ガルネスに転移する。

 少し手間はかかるが、万一の時に備えてこのように用心していた。

 そしてこの場に至っては、それが幸いした。


「ラ、ラング将軍、帝国でも我々の地位を保証してもらえるのだね?」


 そう言ったのは緋色のガウンを着た初老の男。

 彼がファーランドの国王キース三世であった。

 彼の近くには白いドレスを着た中年女性と

 白い礼服を着た二十歳前後の青年が立っている。


 この二人がファーランドの王妃ネミッサと王太子ワッツである。

 ラングは視線をキース三世に向けて淡々とした口調で語った。


「無論、あなた方の地位は帝国でも保証されます。

 帝都、あるいはその周辺都市にあなた方の

 住居を用意させてもらう事になるでしょうか」


「そ、そうか」


「ええ……」


 浅ましい連中だ。

 国王と言っても自身の保身しか考えてない。

 これだから王族や貴族という存在は嫌いなのだ。

 と、思いながらも口には出さないラング。


 そしてそれ以降はお互いに無口になり、

 ラングはタファレル将軍、ファーランドの王族達と共に地下室へと向かった。


次回の更新は2023年6月3日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませて頂きました。 ブックマークと評価を残しておきます。 楽しませてもらいました。
[一言] 更新お疲れ様です。 戦闘を離脱した、ラングとタファレルさん。 そして、やはり王族は自分本位ですね。 レイ将軍はこのまま投降して、エルシャインの大攻防戦は終幕しそうですね。 次回が後編ですし…
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