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第七十三話 エルシャインの大攻防戦(前編)


---三人称視点---



「ハア、ハア、ハアァッ」


 息を乱す若き戦乙女ヴァルキュリア

 既に彼女の魔力は限界に近かった。

 その為、彼女が張った封印結界も突如、解除された。


「……マズい!」


 意識が薄れゆく中、リーファは腰のポーチに左手を突っ込んだ。

 そしてポーチの中から魔力回復薬マジック・ポーションを取り出して、

 その中身を一気に飲み干した。


「……ふう」


 これで最低限の魔力は補給できた。

 だが封印結界の解除と同時に、

 連合軍及び帝国軍の兵士達がこちらに寄って来た。


「お嬢様、大丈夫ですか!?」


「あまり大丈夫ではないわ……」


「了解です、ならば私の魔力をお使いください。 ――魔力マナパサー」


 「魔力マナパサー」によってリーファはアストロスの魔力を受け取る。

 それによって「魔力切れ状態」からは脱した。


 一方の帝国軍は大橋の床板に倒れたラング将軍の窮地を救うべく、

 魔導師部隊が中級から上級回復魔法をかけ続けた。


「将軍閣下、魔導師部隊! 今すぐ閣下を癒やすのだぁっ!」


「御意! 我は汝、汝は我。 

 母なる大地ハイルローガンの加護のもとに……『ハイ・ヒール』!!」 


「ハイヒールッ!」


「上級回復魔法行きますっ! 我は汝、汝は我。 

 母なる大地ハイルローガンの加護のもとに……『ディバイン・ヒール』!!」 


 必死に回復魔法を唱える帝国軍の魔導師部隊。

 すると彼等の錫杖や杖、手から目映い光が放たれて、

 ラングの身体を包み込んだ。 中級及び上級回復魔法で、

 ラングの負傷した体が治癒されるが、完治するまでには至らなかった。 


 全身に受けたダメージは、想像以上に大きかったが、

 ラングは手にした戦斧の刺先を床板に刺して、立ち上がる。

 

「ま、まだだぁ! まだ終わらんぞぉっ!!」


 ラングは自身を奮い立たせるようにそう叫んだ。

 だが周囲の部下達が彼を必死に止める。


「将軍閣下、この場は我々に任せてお逃げください!」


「笑止、このラングには撤退という選択肢はないっ!」


「でもここで死んだら只の犬死にです。

 ですからここは転移石を使って、王都の上層までお逃げください!」


「……だがお前等を残して逃げるという真似は――」


「我々の事は気になさらないでください。

 ここで将軍閣下を失うくらいなら、我々が犠牲になります」


「お前等……」


 部下の言葉によって冷静さを取り戻すラング。

 そして彼は歯軋りしながら、その左目でリーファを睨みつけた。

 尚、負傷した右目は傷口こそ塞がっていたが、

 完治するまでには至らなかった。


戦乙女ヴァルキュリア、この屈辱は絶対に忘れぬぞぉっ!

 今度戦う時は必ずこの手で貴様を倒してみせる!」


「……」


 ラングの言葉に黙るリーファ。

 内心では――


 ――アンタみたいな野蛮人とは二度と戦いたくないわ。


 と、毒づいていたが、場の空気を読んで無言を貫いていた。


戦乙女ヴァルキュリア殿、この場は我々にお任せください。

 総長の仇は我々の手で討たせてもらいます」


「……ええ、任せるわ」


 リーファは教会騎士の言葉に小さく頷いた。


「教会騎士ばかりに任せられません。

 我等、犬族ワンマンも戦います!」


 と、シェパード部隊のリーダー格の兵士がそう言う。

 すると猫族ニャーマン兎人ワーラビットも対抗心を見せる。


「我々もやるだニャン!」


「同じく我等、兎人ワーラビットも戦います!」


「……ありがとう、色々助かるわ」


 リーファはそう言って後方に下がった。

 

「リーファさん、ボクも前へ出て戦います」


「ボクも戦うワン」


 エイシルとジェインもそう言って前進する。

 

「お嬢様、私はお嬢様のサポートをさせて頂きます」


「……アストロス、助かるわ!」


 一方のラングは右手に転移石を持ちながら、

 周囲の部下達に別れの言葉を送った。


「お前等の犠牲は絶対に無駄にしないぞ。

 私は必ずこの手で戦乙女ヴァルキュリアを倒してみせる!

 それではさらばだ! 転移! エルシャイン上層!」


 ラングがそう言うと鈴を鳴らしたような音色と共に、

 転移石が激しく砕け散った。

 同時にラングの身体が白い光に包まれ、数秒後にはその姿が消え失せた。


「よし、敵将は消えた。 後は雑魚だけだ。

 総長の仇を討つぞ! 全員突撃だぁっ!」


「シェパード部隊行くぞ!」


「ドーベルマン部隊も遅れをとるな!」


「ニャー、猫族ニャーマン部隊もだニャン!」


「――帝国万歳っ!」


 帝国兵と教会騎士、連合軍の兵士達が入り交じり、

 大橋の上で血生臭い白兵戦が行われた。

 数の上では帝国兵が圧倒的に不利であったが、

 彼等は死を覚悟して、最後まで奮戦する。


 だがやはり数の差は大きく三十分後には全員が戦死した。

 そこから連合軍は工作兵と砲兵に大砲を大橋の中央へと運んだ。


「よし、今のうちに大砲を前に押し出すんだ!」


「了解だ!」「了解だニャン!」


 シェパードの雄犬族おすワンマンの砲兵隊長がそう叫ぶなり、

 中列に居た砲兵達がガラガラと音を立てて、

 数十門に及ぶ大砲を前進させた。


「砲弾、装填完了だワン!」


 と、犬族ワンマンの砲兵。


「良し、狙いを定めろ!」


 と、指示を下すシェパードの雄犬族おすワンマンの砲兵隊長。

 そして周囲の砲兵達も大砲の照準を城壁に定めた。

 すると犬族ワンマンの砲兵隊長は声を張り上げて、

 周囲の砲兵に「今だ、撃つワン」と命じた。


「了解ワン、ファイアーッ!!」


「大砲発射だワンッ!」


「撃て、撃て、撃て! 撃ちまくるニャンッ!!」


 砲兵隊長の号令と共に第一射が放たれた。

 城壁の内外で砲声の轟音が轟き、

 砲弾が命中する度に城壁が激しく振動する。


「我々、魔導師部隊も後に続きますよ!

 基本的に魔法攻撃、そして対魔結界で敵の攻撃を防ぎましょう!」


「了解です」


「分かったニャン!」


 エイシルの言葉に周囲の魔導師達が呼応する。

 そして大砲による砲撃を中心としながら、

 他の兵士達、魔導師部隊の魔導師が援護及び援護射撃を繰り返す。


 だが敵も必死に矢狭間から矢を放つ。

 あるいは投石機や魔法で反撃する。

 勢いでは連合軍だが、帝国軍も必死の抵抗を見せた。

 その結果、この正門前の大橋に、多くの負傷者、戦死者が横たわり、

 お互い一歩も引かず、尋常でない砲撃及び魔法攻撃が繰り返された。


 そして一時間十五分後、とうとう城壁は打ち破られた。

 恐らくこの攻撃で敵の防衛部隊の大半が無力化したのであろう。

 ならばここは実力行使で城門を破るべきだ。


「よし、城門を破るぞ! 

 工作兵、破城槌はじょうついを持って正門に突撃せよっ!」


 砲兵隊長がそう叫ぶなり、

 破城槌を持った工作兵の部隊が正門に激突する。

 間を置かず、時間差をつけて、

 第二陣、第三陣の部隊が交互に正門に槌を何度も何度も打ちつける。


 そして十数回に及ぶ突撃でとうとう正門は打ち破られた。

 執拗な突撃によって、正門の扉は半開き状態になっていた。

 周囲の兵士達は仲間の魔導師や僧侶プリーストに補助魔法をかけてもらうなり、


「中に突入して、王都エルシャインを制圧せよ!」


 と、気勢を上げながら王都の下層に突入する連合軍の兵士達。

 

「お嬢様、ご気分はどうでしょうか?」


「ええ、魔力回復薬マジック・ポーションと貴方の魔力補給のおかげで

 だいぶ魔力と体力が回復したわ。

 これならば私もまだ戦えるわ、アストロス、ジェイン、エイシル」


「「はい」」「はいワン」


「私達も後に続くわよっ!」


「「「了解」」」


 リーファがそう叫んで、リーファ達は王都の中に入っていった。

 こうして王都エルシャインにおける攻防戦はいよいよ佳境に入った。

 この戦いに勝つか、負けるかで、

 連合軍と帝国軍の命運は大きく分かれる事になるだろう。


 だが戦場で戦う殆どの兵士達は、

 ただひたすら眼前の敵と命の限り戦い続ける事で精一杯であった。



次回の更新は2023年5月31日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです。 ラングは、逃げて再登場が確定しましたね。 帝国側も、こんなチート野郎を罷免にすることはないでしょうし。 そして、ついに戦い名がタイトルに。これは、後数話で決着がつく…
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