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第七十二話 リーファ対野蛮人(後編)


---主人公視点---


「う、うぐっ!?」


 身体が痺れて思うように動かないわ。

 どうやら相手は麻痺スタン系のスキルを発動させたようね。

 このままだと危険だわ、でも幸いにも左手は自由に動く。


 眼前の帝国将軍は、「もらったぁ!」と勝ち誇った表情で叫ぶ。

 だがそれは大きな誤りよ。


「――『メディカル・リムーバー』ッ!!」


 私は左手を振りかざし、状態異常解除の職業能力ジョブ・アビリティを発動させた。

 すると私の左手から放出された白い波動が私の身体に降り注がれた。

 そして数秒後、私の身体は自由に動くようになった。


「ほう、瞬時に状態異常を回復するとは大したものだ」


「……これで条件は五分に戻ったわね」


「ふんっ! ならばここから一気に勝利を掴むまでだぁっ!

 死ねい、『ハイパートマホーク』ッ!!」


 眼前の男はそう技名スキルめいを叫ぶと同時に、

 両手に持った漆黒の戦斧をこちらに目掛けて投擲してきた。


「――アクセルッ!!」


 私は加速魔法を使用すると同時に右にサイドステップする。

 それによって投擲された漆黒の戦斧を綺麗に回避した。

 これで相手は今、素手状態。

 この機会チャンスを逃す手は――


「――念動力サイコキネシス!!」


「リーファ殿、危ないっ! 後ろだぁっ!!」


「えっ……あああぁっ!!」


 次の瞬間、後方から先ほど消えたはずの漆黒の戦斧が突如出現し、

 こちらに向かって急接近して来る。

 あの男、念動属性の魔法を使えたのね。

 くっ、ここは回避するしかな――


「サイキック・ウェーブッ!!」


「き、きゃあああぁっ!?」


 私は右にサイドステップして回避を試みたが、

 その際にラングが念動属性の攻撃魔法を放ってきた。

 念動波を受けた私は身体のバランスが崩した。


 その瞬間、漆黒の戦斧が私の左脇腹を撃ちぬき、

 皮膚と肉を突きやぶって、ラングの手元にたぐり寄せられた。


「うっ……」


 致命傷ではないけど、軽傷でもないわ。

 この状態で戦うのは厳しいわね。

 ならばっ――


「我は汝、汝は我。 女神サーラの加護のもとに……『ハイ・ヒール』!!」 


 私は左手を自分の傷に直接触れさせながら、呪文を素早く詠唱する。

 すると左手から眩い光が放たれて、私の身体を優しく包み込んだ。

 それから私の左脇腹の傷が急速に癒やされていく。

 ……中級の回復魔法だけど、傷は綺麗に治ったわ。

 

 でも掠っただけで、これだけのダメージを受けるとは……。

 やはり相手のパワーは桁違いだわ。

 これはやはり先ほどの様に中距離戦を――


「ふんっ、状況判断が非常に的確だな。

 流石は戦乙女ヴァルキュリアというべきか。

 ならば俺も小細工は使わん、正攻法で貴様を倒すっ!!

 喰らえっ、――ブルーティッシュ・クラッシュ!!」


 ラングはそう叫ぶなり、

 両手に持った漆黒の戦斧でひたすら乱打ラッシュを繰り出した。 

 それは只の力押しの乱打ラッシュの連打だった。 


「くっ、せいっ!!」


 私も両手で聖剣の柄を握りながら、

 ラングの乱打ラッシュに対して、斬撃で応酬する。

 一撃、一撃が非常に重くて、打ち返すだけで、手が痺れるわ。


 でも耐えられないという程でもない。

 ならばここは防御に回って、相手が疲労するまで待つわ。


「せい、せい、せいっ! せい、せい、せいやぁっ!!」


 ラングは相変わらず乱打ラッシュを繰り出しているが、

 私も相手の猛攻を受け止めたり、

 受け流したり、切り払ったりと防御に徹しながら、なんとか耐える。


 すると次第にラングの表情に焦りが出始めた。

 それでもラングは愚直に乱打ラッシュを繰り出すが、

 とうとう体力の限界が訪れた。 


 どのような強靭な肉体でも、疲れとは無縁ではいられない。

 そしてラングは呼吸を整えるべく、

 後ろに少し下がって間を取ろうとした。


 ――今よっ!!

 ――ここが好機チャンスだわっ!!


「ハイ・カウンターッ!!」


 そこで私は帝王級ていおうきゅう剣技ソードスキルを放った。

 その名の通りこの剣技ソードスキル迎撃型カウンター・タイプスキルだ。

 私は「はあぁっ!」と気勢を上げながら、神速の袈裟斬りを放った。


 狙うポイントは相手の右眼から腰目掛けて斜めに斬り裂いた。

 渾身の力を篭めた袈裟斬り。

 それが見事に決まった。


「ぐ、ぐ、ぐぎゃあぁっ!!」


 神速の袈裟斬りによって、

 ラングの右目が綺麗に切り裂かれた。

 だが彼も意地を見せて、漆黒の戦斧で私の剣技ソードスキルを咄嗟に防いだ。


 結局、相手の右目は綺麗に斬り裂けたが、

 分厚い甲冑で覆われた肩や胸部や腰を切り裂くまでには至らなかった。

 だがこれで相手は片目になった。

 あれぐらいの傷なら上級回復魔法なら治りそうね。


 だけどこの戦いにおいては、

 片目というハンデを背負ったまま戦うしかない。

 ならばこちらとしてもそのアドバンテージは最大限に生かすわ。


「……ゆ、赦せん、赦せん、貴様を赦さんっ!!

 この右目の借りはこの場で必ず返すっ!!」


 そう言ってラングはいきり立つ。

 まあ彼の立場からすれば、こう言うのも無理はない。

 でも私も真剣に戦っているのよね。

 だから悪いけど、容赦はしないわ。

 

「悪いけどそれは無理ね。

 貴方にはここで戦死してもらうわ」


「それはこちらの台詞だぁっ! 死ねい、戦乙女ヴァルキュリアッ!!」


 悪いわね。

 こちらとしては真正面の戦いに付き合うつもりはないわ。


「――アクセル」


 私は加速魔法を発動させて、

 後ろに数回バックステップして間合いを取った。

 さあ、ここからはジワジワと相手の体力と気力を奪わせてもらうわ。



---三人称視点---


 リーファは加速魔法「アクセル」で加速しながら、

 ステップワークを駆使して、再び中間距離で間合いを取った。


「……もう『能力覚醒』の効果は解除されたわね。

 ならばここで『魔力覚醒』を使うわ! ――魔力覚醒っ!!」


 職業能力ジョブ・アビリティ「魔力覚醒」を発動。

 これによってリーファの魔法能力が倍化された。

 そしてリーファは再び初級攻撃魔法を連発する。


「ライトボール超連射フルバーストッ!!」


 撃つ、撃つ、撃つ、とにかく撃ちまくった。

 戦いは既に五分以上経過していた。

 使える能力アビリティは使ったし、魔力も随分と消費した。


 恐らく後五分もすればリーファの魔力は切れるだろう。

 だからその前に決着をつける必要がある。

 そしてそれはラングも同じであった。


 ラングは突進しながらも、

 左右にサイドステップを繰り返して、光の球を回避し続けた。

 回避しきれない時は手にした戦斧を振るい、光の球をあえて暴発させる。


 それに対してリーファは中間距離を保ちながら、

 光と炎属性の初級攻撃魔法を放ち続けた。

 次第にリーファの体力と魔力が限界に近づき始めた。


 対するラングは「うおおお」と雄叫びを上げて、

 愚直なまでの前進を繰り返して、間合いを詰めた。

 だがそこでリーファも足を止めて、迎撃態勢を取った。

 そして左手を前にかざして、スキル・『戦乙女の波動』を発動させた。


「――戦乙女ヴァルキュリア波動はどう


 『戦乙女の波動』は対象者の強化技、強化魔法などを解除させるスキルだ。

 次の瞬間、リーファの左手から白い波動が迸り、前方のラングに命中。 

 「ぬおっ……」という呻き声と共にラングの強化技きょうかスキルと「ソウル・リンク」が解除される。


「ぬおっ……ち、力が抜けていく。 貴様ぁ、な、何をした!?」


「答える義務はないわ! ――掌底打ちっ!!」


 リーファは左構えから、左腕を伸ばしてラングの胸部を強打。

 するとラングが「かはぁっ!」と肺から空気を吐き出す。

 だがこれで終わりではない。


 更にステップインするリーファ。

 そこからリーファはラングの懐に見事に入った。

 そしてリーファは右手で聖剣を握りながら、

 左手をラングの腹部に当てた。

 リーファは残された魔力を解放して、叫ぶように砲声する。


「――ファイアバーストォッ!!」


「ぐ、ぐ、ぐ、ぐあああぁぁぁっ!!」


 零距離からの魔法攻撃。

 爆音と爆発と共にラングが断末魔のような悲鳴をあげた。

 零距離射撃で放たれた緋色の炎が暴れ狂い、

 ラングの身体を焦がし、体力と生命力を奪う。


 ラングは双眸を見開きながら、口から「ごほっ」と吐血する。

 だが今の一撃でリーファの左手も火傷を負った。

 自動再生力じどうさいせいりょくがある戦乙女ヴァルキュリアだが、

 リーファの火傷を治癒するには三分以上はかかるだろう。


 そこでリーファは左手が回復する前に、

 止めをさすべく、急に身体を反転させて、

 勢いよく空中回転後ろ蹴り(ローリング・ソバット)をラングの腹部に炸裂させた。


「――ローリング・ソバットォッ!!」


「あ、あああァっ……ああぁぁぁっ!」


 リーファの放ったローリング・ソバットが見事に決まり、

 ラングの身体が後方に十メーレル(約十メートル)程、吹っ飛んだ。

 止めを刺すには至らなかったが、戦闘不能状態には追いやった。


「ハア、ハア、ハア、ハアァッッ」


 だがリーファも既に限界が近かった。

 呼吸を乱しながら、肩で呼吸するリーファ。

 しかしリーファの勝利という結果は変わらない。

 だが今のリーファに勝利の余韻に浸る余裕はなかった。

 

「……わ、私の勝ちよね?」


 と言うと同時に大橋の床板に左膝をつくリーファ。

 

「リーファ殿の勝ちですよ」


 と、守護聖獣のランディが答えた。


「そ、そう……」


 その言葉を聞いて安心するリーファ。

 こうして三度目の帝国将軍との戦いにも、

 勝利を収めたリーファであったが、

 今回の戦いに関しては僅差の勝利であった。


 そして疲れ果てたリーファは、

 片膝を床板につけながら、「ハア、ハア、ハア」と呼吸を乱していた。

 まさに死闘、そう呼ぶに相応しい戦いであった。


次回の更新は2023年5月28日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ラングに止めをさしてないと言うことは、まだ戦えると言うことですね。 『隻眼の斧使い』みたいな感じで、忘れた頃に出てくるのか? 敵だとしたら、リーファでなきゃ勝てなさそ…
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