第六十九話 狂信者対野蛮人(後編)
---三人称視点---
「ふんっ!!」
「――せいあぁっ!!」
闘志と殺気が炸裂して、
両者は手にした武器を同時に振るう。
「かきん」という耳障りな金属音と共に
激突した戦斧と斧槍が激しく衝突する。
両者の力は互角……ではなかった。
斬撃の衝撃により、チェンバレン総長が後ろに軽く跳躍した。
――重い、何という重い一撃だ。
――こんな衝撃を人間から受けるとは……。
――どうやらこの男、只の野蛮人ではないようだ。
「ほう、この俺の斬撃を受け止めるとはな。
お前も少しは腕が立つようだな」
「……ふん、野蛮人如きが上から目線で語るな」
「ふふふ、まだ減らず口を叩く余裕はあるようだな。
だがお前も戦士なら分かるであろう。
俺と貴様では根本的に戦闘能力が違う。
それが分からぬほど、愚かでもあるまい」
ラング将軍はそう言い、微笑を浮かべる。
彼の言う事は一理あった。
単純な戦闘能力、能力値では相手が上回っていた。
チェンバレン総長も歴戦の勇者。
その事実に気付かない程、愚鈍ではない。
だがこれは力比べではない、戦いなのだ。
要は最終的に勝利を掴めば良いのだ。
それに野獣相手に真正面に戦う必要もない。
野獣、野蛮人にない知恵で相手を討つ。
チェンバレンはそう心に刻み込み、自身を奮い立たせた。
そう思う事で戦う意思を、戦意を保つ。
そしてラングもそれを察した。
「ふっ、良いだろう。 ならばこちらも容赦はせぬっ!
名もなき殉教者よ、神に祈りながら殉死するが良い!」
「――舐めるなぁ! ――ダブル・スラストォッ!!」
先手を打つべく、チェンバレンが二連撃を放つ。
鋭くて速い突きだ。
「――クロス・スパイクッ!!」
同様にラングも斧技スキルを放った。
中級の斧技スキルだが使用者の能力及び熟練度が桁違いであったので、
縦横に振るわれた戦斧がチェンバレンの二連撃をいともたやすくて弾いた。
その衝撃でチェンバレン総長は、
後方に数メーレル(約数メートル)ほど、吹き飛ばされたが、
両足を踏みしめて、転倒は何とか回避する。
「ふん、俺の技を受けて耐えるとはな。
大したものだ、お前のような奴と戦うのは久しぶりだ」
「舐めるな、野蛮人。 それと上から目線の物言いは止めろ!」
「上からではない、実際に俺の方が上なのだ。
だから俺は事実を述べているに過ぎんっ!」
「――ならばこの手で黙らせてくれよう!」
「無理だ、貴様には無理だ! ――ブルーティッシュ・クラッシュ!!」
ラングはそう叫ぶなり、激しい乱打を繰り出した。
乱打、乱打、乱打、乱打、乱打。
それはまるで野獣の咆吼のような乱打であった。
力の限り、全力で戦斧を縦横に振るうラング。
チェンバレンも必死に斧槍を上下左右に動かして、
ラングの繰り出す乱打に対応する。
突く、斬る、払う、などの動作を駆使して
対応するがいかんせん相手のパワーの差が大きかった。
そして何度目かの斬撃の後、
乱打の衝撃によって、
チェンバレン総長の斧槍が宙に飛んだ。
「あっ!」
と、チェンバレン総長が声を上げると同時に、
ラングが猛然と突進して来た。
その姿はまるで獲物を狩る肉食獣のようであった。
だがチェンバレンも咄嗟に左拳をラングの右側頭部に叩き込む。
それと同時に右足でラングの股間を狙った。
ラングはそれに対して、同様に右足を上げて防御する。
奇襲は失敗に終わった。
それと同時にチェンバレンは右にサイドステップして、
地面に突き刺さった斧槍に右手を向けた。
「――念動力っ!!」
この一瞬の勝負でチェンバレンは、
自分のやるべき行動を全うした。
チェンバレン総長の右手から念動力が放たれ、
地面に突き刺さった斧槍が彼の手元にたぐり寄せられた。
これによってまた互角の状況に押し戻した。
その光景を目の当たりにしたラングが「ほう」という声を漏らす。
「小細工には長けているようだな。
だが小細工だけでは、俺には勝てぬぞ!」
「……そうかもしれんな」
チェンバレン総長はそう言って、再び斧槍を構える。
対するラングも両手で漆黒の戦斧の柄を深く握り込んだ。
そして両者は再び床板を蹴った。
お互いに床板を蹴ると同時に武器を振るい技を繰り出す。
「――ヴォーパル・スラストォッ!!」
「――レイジング・バスターッ!!」
斧槍と戦斧が衝突して、
神経を削り取るような擦過音と共に火花が周囲に散る。
今の一撃でチェンバレン総長が身体のバランスを崩して、小さな隙が生じる。
そして歴戦の猛将はその隙を逃さなかった。
「――終わりだぁっ! ヘッド・クラッシュゥッ!!」
怒声と斬撃と共に英雄級の斧技スキルが放たれた。
重くて、鋭い破壊力と殺気に満ちた衝撃が、
チェンバレン総長の右半身で炸裂した。
「ぐ、ぐ、ぐっ……ぐあああぁぁぁっっ!!」
チェンバレンは、紙一重の差で首を動かし、
頭部破壊こそ逃れたものも結果として、生きながらの地獄を味わう事となった。 チェンバレンの右腕が肩口から吹き飛ばされた。
奔騰した赤い血が、周囲に飛び散り、血のシャワーを周囲に拡散させた。
数秒の間、致命傷を受けたチェンバレン総長は、
放心状態でその場に立ち尽くしていたが、
わずかに身をよじると、
落雷を受けたように背中からその場に倒れ込んだ。
その青い瞳を限界まで見開くチェンバレン。
「何か言い残す事はあるか?」
勝者であるラング将軍が見下ろしながらそう問う。
死が近づく中、敗者は、傲然と勝者を見返す。
「……貴様は……俺より強かった……
只それだけ……の事だぁっ……がはぁっ!!」
「嗚呼、その通りだ。 だが貴様もなかなかのものであったぞ」
「……女神サーラよ、我等を天に……導きたまえっ……」
「ふん、最後まで信仰を欠かさぬとは大した殉教者だな。
だが俺達帝国人は神になど頼らぬ!!」
「……がはぁっ!!」
チェンバレンの口から多量の血が吐き出された。
そしてしばらくするとその身体も動かなくなった。
血の海に横たわったチェンバレンの遺体を、
ラング将軍は黙然と見下ろした。
次の瞬間、チェンバレン総長が張った封印結界が解除された。
「そ、総長っ!!」
「ば、馬鹿なチェンバレン総長が一騎打ちで負けるなんてっ!?」
教会騎士団の面々が驚きの声を上げる。
「お、おのれ! 総長の仇を……うっ!!」
「止めておけ、命を無駄にするな!!」
復讐心に猛る教会騎士の一人がラングの一睨みでたじろぐ。
復讐心より恐怖心と警戒心が勝った。
そしてそれは周囲の味方達にも伝染した。
「くっ……駄目だ、俺達じゃ奴に勝てない!」
「嗚呼、奴は強すぎる!!」
「だ、誰か奴と戦える者は居ないのかぁっ!?」
すると周囲の視線がリーファに向いた。
――まあこうなるのは必然的よね。
――そして私は戦乙女。
――ここで逃げ出す訳にはいかないわ。
「お嬢様、あの男は異常に強いです。
あんな殺気を放つ男は初めてみました」
「アストロス、気遣いありがとうね。
でも私もここで引くわけにはいかないのよ」
「……お気をつけください」
「お姉ちゃん、頑張って!」
「ボクはリーファさんを信じてます」
仲間の声に後押しされて、前へ歩み出るリーファ。
――正直こんな野蛮人とは戦いたくないわ。
――でもこの場は私が闘うしかないわね。
――やれやれだわ、戦乙女も楽じゃないわね。
だが次の瞬間には、軽く深呼吸して呼吸を整えるリーファ。
そして右手に聖剣を、
左手に盾を構えながら、摺り足で前へ進んだ。
次回の更新は2023年5月21日(日)の予定です。
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