第六十八話 狂信者対野蛮人(前編)
---三人称視点---
「どうしたぁ! もう終わりかぁっ!!」
あざ笑うように叫ぶラング将軍。
その声に気圧される連合軍の突撃部隊。
しかしそんな彼等を押しのけて一人の男が前へ出た。
言うまでもない。
教会騎士団総長チェンバレンだ。
「調子に乗るな、野蛮人。
貴様の相手はこの俺が務める!!」
そう言ってチェンバレン総長が手にした斧槍を構える。
黒のインナースーツの上に白銀の軽鎧という格好。
するとラング将軍が双眸を細めて、口の端を持ち上げる。
「ほう、貴様は少しはやりそうだな。
……名を聞いておこう」
「……教会騎士団総長のイルゾーク・チェンバレンだ!」
「ふむ、チェンバレンか。 聞いた事がない名だ」
「名を覚える必要はない。
貴様はすぐに地獄へ行く事になるんだからな!」
「はっ、口だけは達者だな。
それで貴様はこの俺と一騎打ちするつもりか?」
「嗚呼、そのつもりだ」
「良かろう、だが邪魔が入ると興醒めだ。
ここは封印結界を張って一騎打ちとせぬか?
封印結界は貴様が張っても構わんぞ」
「……良かろう、皆! 手出しは無用だ」
チェンバレン総長の声に周囲の味方も後ろに下がった。
そしてチェンバレンは、封印結界の呪文を詠唱し始めた。
「我は汝、汝は我。 嗚呼、母なる大地ハイルローガンよ!
我が願いを叶えたまえっ! はっ……『封印結界』ッ!!」
チェンバレンがそう呪文を唱えると、
周囲がドーム状の透明な結界で覆われた。
そしてチェンバレンとラングを閉じ込めるように、ドーム状の結界が広がった。
縦と横の広さも程良く、それでいて高さも充分であった。
これならばお互いに存分に戦う事が可能であろう。
「ふむ、絶妙な広さの結界だな。
どれ結界の強さを確認しておくか」
ラングはそう言って、周囲を覆う透明な結界に近いて、右手で触れた。
次の瞬間、ラングの右手が結界に強く弾かれた。
「うむ、これならば周囲の邪魔が入る事はなさそうだな。
この結界を解除したければ、貴様を倒すしかない。
これで俺と貴様が戦う理由が出来たな」
「……嗚呼」
「では行くぞ! ――我が守護聖獣ライオネルよ。
我の元に顕現せよっ!!」
ラングはそう叫んで右手を頭上にかざした。
するとラングの頭上に全長70セレチ(約70センチ)程の雄ライオンが現れた。
守護聖獣にしては少し大きめの体格だ。
そしてチェンバレン総長も自身の守護聖獣を召喚する。
「――我が守護聖獣ホワイガーよ。
我の元に顕現せよっ!!」
チェンバレンもそう叫んで、自分の守護聖獣を召喚した。
すると彼の足下に体長全長70セレチの白い虎が現れた。
彼の守護聖獣である白い虎のホワイガーだ。
そしてラングは漆黒の戦斧の柄を両手で握り込んだ。
対するチェンバレンも白銀の斧槍を
両手で持ちながら、腰を落とした。
一気に勝負に出たいところではあったが、
ここはまず相手の能力値の分析を先に行った。
「ライオネル、奴を分析せよっ!」
「御意。 ――分析開始!」
「ホワイガー、分析だぁっ!!」
「了解。 分析開始します!」
これでお互いに相手の能力値を知る事になるが、
その方が色々と戦いやすくなる。
「……ラング殿。 この男かなり強いぞ。 能力値もかなり高い。
だが総合力では貴方の方が勝っている。
だからさっさと始末して、残りの敵を叩きましょう!」
分析を終えたライオネルが淡々とそう述べた。
そしてラングとライオネルの意識が共有化されて、
チェンバレン総長の能力値の数値が露わになった。
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名前:イルゾーク・チェンバレン
種族:ヒューマン♂
職業:魔導騎士レベル45
能力値
力 :1224/10000
耐久力 :1730/10000
器用さ :894/10000
敏捷 :1306/10000
知力 :1021/10000
魔力 :1781/10000
攻撃魔力:1333/10000
回復魔力:1874/10000
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「ほう、なかなかの能力値だ。
どうやら口だけではないようだな」
「総長、分析を終えました」
と、白い虎の守護聖獣。
すると次の瞬間、チェンバレン総長と守護聖獣の意識が共有化された。
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名前:ヴィクトール・ラング
種族:ヒューマン♂
職業:狂戦士レベル54
能力値
力 :2675/10000
耐久力 :2295/10000
器用さ :965/10000
敏捷 :1867/10000
知力 :782/10000
魔力 :966/10000
攻撃魔力:875/10000
回復魔力:554/10000
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「なっ!?」
相手の数値を見た瞬間、
チェンバレン総長は思わず驚きの声を上げた。
自身の能力には自信があった彼だが、
眼前の男は彼が想像していた以上の能力の持ち主であった。
だが強いて欠点をあげるならば、
知力や魔力などの頭脳や魔法数値が低くかった。
ならばここは真正面から戦うわず魔法戦で戦うべきである。
だがチェンバレン総長はあえて真正面から戦うという選択肢を選んだ。
それは騎士としての彼の矜持であった。
教会騎士団総長である彼が帝国の将軍相手に背を向ける。
なんて真似は彼には出来なかった。
だから例え分が悪くても正々堂々と戦う。
それがチェンバレンの騎士としての矜持だ。
「我は汝、汝は我。 女神サーラの加護のもとに……『自動再生』!」
チェンバレンがそう呪文を唱えると、彼の身体が目映い光に包まれた。
これによってチェンバレンは自動治癒の魔法効果を得た。
そしてチェンバレンは続けざまに、新たな呪文を詠唱した。
「我は汝、汝は我。 我が名はチェンバレン。
女神サーラよ! 我に女神の加護を与えたまえ! 属性強化!!」
すると再びチェンバレンの身体が白光に包まれた。
これによって彼の光属性が限界まで強化されていた。
これで戦いの準備は整った。
それに対してラングも自己の能力を強化させる
「――バイオレンス・マインドッ!!」
ラングは狂戦士の職業能力『バイオレンス・マインド』を発動させた。 この職業能力は、使用者の攻撃力と闘気を一時的に大幅に向上させる。 だが欠点もある。 使用者は極度の興奮状態になり、体温と血圧も上昇するので、長時間の使用は危険視されている。 だが五分くらいなら、なんとか耐える事が可能である。
「行くぞ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「御意、リンク・スタートォッ!!」
そしてラングと守護聖獣の魔力が混ざり合い、
ラングの能力値と魔力が急激に跳ね上がる。
するとチェンバレンも同様に『ソウル・リンク』を発動させた。
「ホワイガー、行くぞ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解、リンク・スタートォッ!!」
これによってチェンバレンと白い虎の魔力が混ざり合う。
そしてチェンバレン総長の能力値と魔力も急激に跳ね上がった。
「これでお互いに条件は互角。
だが俺は負けるつもりはない、帝国将軍の力を思い知るがいい!」
手にした漆黒の戦斧の柄を両手で握り締め、構えるラング。
チェンバレン総長も同様に両手で白銀の斧槍を
構えながら、摺り足で間合いを詰める。
「――行くぞ!」
「――来いっ!」
そしてお互いに覚悟を決めて、
雄叫びを上げながら、全力で前進した。
次回の更新は2023年5月20日(土)の予定です。
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