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第六十七話 大橋を奪え、護れ!


---三人称視点---


 聖歴せいれき1755年9月6日。

 連合軍と帝国軍は王都エルシャインを前にして激しい攻防戦を繰り広げていた。


 連合軍と帝国軍は大量のゴーレムを召喚して前線に投入。

 その数は両軍合わせて、一千近い数となっていた。

 流石にこれだけの数の相手には骨が折れた。


 連合軍はリーファを中心として、

 飛行魔法「フライ」を使用した魔導師部隊が空から

 地上のゴーレム部隊に目掛けて魔法攻撃を仕掛ける。


 使う属性は氷属性と風属性。

 定石通り魔力反応『分解』を発生させて、

 前方の魂を持たない巨兵の一網打尽を試みるが――


「くっ、いくら何でも数が多すぎるわ」


「はい、リーファさん。

 ここはボク達に任せて、地上に降りて前衛部隊に合流してください。

 敵の大将が出てきた時にリーファさんが戦えない、

 という状況にする訳にはいきませんから!」


「……そうね。 エイシル、分かったわ。

 後の事は貴方達に任せるわ!!」


「はい、任せてください!

 我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『シューティング・ブリザード』!!」


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『アークテンペスト』!!」


 エイシル達は氷属性から風魔法のコンボを繰り返した。

 そして魔力反応『分解』が発生。

 敵のゴーレム部隊の身体が砕けて周囲に飛散する。


 だがそれでもゴーレム部隊は前進を止めない。

 元々が心を持たない土の巨兵。

 死の恐怖を感じる事も無く、味方を護るべく前進を続けた。


 その間にタファレル将軍とレイ将軍の部隊が王都の南門へ撤退。

 となればここで兵力を無駄に消耗する訳にはいかない。

 そこで総司令官シャーバット公子は、

 味方のゴーレム部隊を更に先行させて、

 敵のゴーレム部隊の前進を真正面から阻んだ。


「よし、今だワンッ!!

 味方のゴーレム共々、『分解』で破壊するワン!」


 そこで再びエイシル達、魔導師部隊が空から

 氷属性と風属性のコンボを繰り出して、

 敵味方のゴーレムを次々と破壊してく。


 五時間に及ぶ魔法攻撃の末、

 エイシル達は敵のゴーレム部隊を何とか撃破した。

 だがその代償は大きくて、

 多くの魔導師達の魔力が枯渇するという状況に陥った。


 そこでシャーバット公子は、魔導師部隊に休憩を与えて

 前方の大橋を奪取する為に、

 戦士や騎士ナイトなどの防御役タンク

 彼等をサポートする魔法剣士、レンジャーを中心とした

 突撃部隊を急遽編成して、大橋を奪うべく前進させた。


 だがそんな彼等の前に一人の男が立ちはだかった。

 彼の名はヴィクトール・ラング将軍。

 身長195セレチ(約195センチ)、体重95キール(約95キロ)の鋼の肉体。


 年齢は四十代半ばで、たくましい骨格を

 鍛え抜かれた筋肉が包んでおり、

 妖しく黒光りする漆黒の甲冑をまとっていた。

 戦意と闘争心に満ちた雄々(おお)しき表情の持ち主でもあった。


 彼の両手には漆黒の戦斧が握られている。

 非常に硬度の高い黒水晶ブラック・クリスタルで作られた

 その戦斧は全長100セレチ、重さ10キールという代物。

 そしてラングはその巨大な戦斧を構えながら――


「ここから先は誰も通さぬ!

 この帝国将軍のヴィクトール・ラングが全ての敵を倒す!!」


 その言葉を実現すべく、

 ラングは大橋に突入してきた連合軍の突撃隊目掛けて突貫する。

 そして戦意と殺気に満ちた壮絶な接近戦で敵兵を迎え撃った。


---------


 突進に次ぐ突進。

 約三時間の間に連合軍の突撃部隊は、

 南門に繋がる大橋に突入して、七回に渡って撃退された。


 連合軍の突撃部隊も勇者であったが、相手が悪かった。

 ラングはその漆黒の戦斧を縦横に振るい、

 連合軍の突撃部隊の肉体を打ち砕き、次々と肉塊へと変えていく。


「弱い、弱い、弱すぎる!

 貴様等の力はこの程度なのかぁっ!!」


 好き放題吠えるラング将軍。

 だがそれに対して連合軍の突撃部隊は及び腰。

 それくらい眼前の巨体の将軍の戦闘力はずば抜けていた。


 魔法攻撃や矢や銃弾で反撃を試みるが、

 ラングの周囲の魔導師達が対魔結界と障壁バリアを張り、

 遠隔攻撃を未然に防ぐ。


 こうなると接近戦で応戦するしかないが、

 最初から勝ち目のない戦いをするのは精神的にも厳しい。

 そしてラングが振るう戦斧が更なる犠牲者を生み出していく。


 その結果、連合軍は僅か三時間の間に、

 248人に及ぶ犠牲者を出す事となった。

 この事態にはシャーバット公子も頭を悩ませた。


 そしてシャーバット公子は、

 本陣に各部隊の司令官やリーダーを呼んで緊急会議を行った。

 会議の参加者はシャーバット公子、チェンバレン総長。

 若き戦乙女ヴァルキュリア、ニャールマン司令官、

 ジュリアス将軍とその副官達。


 しかし集まった者達の表情は暗かった。

 それも無理はない。

 何せ僅か三時間の間に一人の敵に二百人以上の味方が惨殺されたのだ。


 本来ならば「私の手で仇を討つ!」

 と自ら名乗り上げるべきだが、如何せん相手が悪すぎる。

 シャーバット公子も周囲のそういった気持ちをくみ取っていた。


「……いやはやどうしたものか」


 と、シャーバット公子が独り言のように呟く。


「ニャー、正直相手が強すぎるニャン!

 しかも味方がえげつない殺され方をしてるニャン。

 この状況で部下に「戦え!」とは言いづらいニャン」


 と、ニャールマン司令官。


「確かに……我等、獣人では正直勝負になりませんな」


 ジュリアス将軍も相槌を打つ。


「しかしヒューマンやエルフでも厳しいだワン。

 あの男は戦闘する為に産まれてきたような存在だ。

 とはいえこのまま大橋を奪えないのも不味い。

 何か良策は……ないかワン?」


「強者には強者をぶつけるべきですね」


 ジュリアス将軍がそう言うと、

 周囲の者達の視線が自然とリーファに向けられた。


(まあこうなるよね。 でも私としてもあんな野蛮人とは戦いたくないわ)


(こういう言い方もアレだけど、

 あの男を見るだけで生理的嫌悪感が沸くわ)


(でもこの状況だと私が闘うしか――)


「この私があの男の相手を務めましょう!」


 リーファが口を開きかけたところで、

 チェンバレン総長が毅然とした表情でそう言った。

 するとシャーバット公子も真面目な表情で――


「総長、大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫? 何が大丈夫なんでしょうか?」


 公子の言葉にやや低い声で問うチェンバレン。

 するとシャーバット公子も少し気まずい表情を浮かべた。


「い、いや敵はとんでもなく強いだワン。

 勿論、総長の実力は私も理解しているつもりだ。

 でもあの男は今までの敵とは桁が違うワン」


「無論、それも承知の上です。

 この戦いで仮に死んでも私は後悔しませんよ。

 それに戦乙女ヴァルキュリア殿ばかりに頼るのもどうかと思いますよ」


 チェンバレン総長はそう言って、横目でリーファを見る。

 リーファとしては総長のこの申し出は有り難かった。

 なのでこの場は素直に総長の言葉に従った。


「私としてもあのような野蛮人と真正面から

 戦う自信はありません。

 なのでチェンバレン総長の申し出は、私としても有り難いです」


「そうかワン」


 リーファの言葉に黙考するシャーバット公子。

 すると場の空気が少し和らぎ、

 ニャールマン司令官とジュリアス将軍も公子に同意する。


「うむ、ならばここは総長に任せるニャン」


「ええ、そうすべきでしょう」


「ええ、是非ともお任せください」


 こうして会議は無事に終わった。

 だが万一に備えてリーファとその盟友も

 チェンバレン総長と教会騎士団に同行する事となった。


 狂信者きょうしんしゃのチェンバレン総長。

 野蛮人のラング将軍。

 その二人の戦いの結末を見守る為、

 リーファ達も総長の後に続いて大橋へ向かった。


次回の更新は2023年5月17日(水)の予定です。


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